第543話-2 彼女は模擬戦を見学する
王弟殿下とウォレス卿を見送った後、彼女と伯姪はリリアルへと戻る事になる。
「ねぇ、さっきの話だけど……本気なの?」
「さっきの話というと、『ラ・クロス』を連合王国で行うってこと? ええ。割と、本気なのだけれど」
伯姪は、彼女の考えが今一つ理解できないようで、帰りの馬車の中で今日考えた事を伝えてみることにした。
一通り彼女の話を聞いた後、伯姪は彼女の考えに凡そ同意した。
「いいんじゃない? 作業ばかりじゃ気が滅入るし、魔力の無い子をどうやって教育に組み込むかって考えていたんだけど、確かに、魔力が無い子も戦力にする為には、今までの冒険者寄りの教育以外も必要だし、それでも冒険者組と官僚・騎士組が対立しないで一緒に競える環境って重要だと思う」
何より、食べて学んで体を動かすのに、今の所、剣の練習や魔装銃の練習といった……小さな子供にやらせることができそうにもない鍛錬ばかりが多いのだから仕方がない。
元々、リリアル生は魔力有の十歳から十二歳くらいの子供を選抜して教育することにしていたのだ。一期生はともかく、二期生以降は数も減り年齢も二年ごとの加入としたので、前回十歳未満であった子たちが加入するため、十歳前後と揃って数人ずつ加わる事になる。
男児の魔力持ちは優秀であれば養子に貰われていくので、残るのは女児が多くなる。官吏はともかく、騎士・衛士には向かないのだ。そこは、魔力を持たないながらも素養のある子を選抜して採用する。
暗殺者養成所で選抜された魔力無の男児に、その素養の基準があるのではないかと彼女は考える。その力を見るためにも……
「同じ土俵で競わせて、見極めたいのよね」
「剣や銃ではなく……団体競技ね。いいわ。何度でもできるし、練習したり作戦を考える事も頭を使うし、仲間意識も育つでしょうね」
二人は、だんだんその競技が楽しいものであるような気がしてくる。さらに言えば、自分たちも当然のごとく参加しようと思いつつある。
「勝ち負けで必死になるには……やはり、何かご褒美が必要ね」
「いいわね。フィナンシェでも他に何かデザートでもいいし。やる気になりそうなものであると良いわね」
賭け事ではないが、勝ったら何かもらえるというモチベーションは、学院生にとって良い影響を与える。競争しても何も得られないのでは、真剣みにかけても仕方がないと思われる。
「それはともかく、先ずはどんな競技なのか、私たちが良く知らなければならないわね」
「でも、どうやって調べるの?」
「こんな時こそ、アレを活用しないといけないわね」
彼女のアレとは『姉』のことである。ネデルに頻繁に赴き、また、連合王国の対岸にある『カ・レ』やその近くの大都市である『ミアン』とも行き来が増えている姉のことである。連合王国で人気の競技についてもそれなりに知っている可能性はあるし、社交のついでに調べることや、詳しい人間を招く事もできるかもしれない。
「巻き込んだ挙句に、面倒なことになっても知らないわよ」
「ええ、危険を冒してこそ得られるものがあるというものね」
姉……危険扱いである。
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「なになに、妹ちゃん、お姉ちゃんに会いたくなって連絡してくれたの?」
ようやく気持ちが通じた! といった事を言いまくる姉。いつもの賑やかしである。
「そんな事より姉さん、『ラ・クロス』について何か知っているから話をしに来たのよね」
「うん、まあ、大体のところはね。でもさ、こっちに来ている人たちでチームを作るのは無理みたい。やっぱ、平民は競技とかしないからね」
馬上槍試合に代表される『競技』は、金と暇がある身分でなければ嗜む事ができない。連合王国でも、大きな土地を所有する貴族階級やその従者である騎士や魔術師、そして、大都市でネデルなどと貿易している大商人の子弟などでなければ嗜まないのだという。
「まあ、道具の使い方とか、実際のルールとか動きの再現とかはお願いできるような人が何人か……取引先にね」
「その場合、リリアルに関わらさなければならないとか、何か約束事をしないといけないとかあるのかしら?」
『ラ・クロス』を知る者は連合王国の人間であろうし、王国で商売をしようとしている者の多くは連合王国の議会や王家の意を汲んでいる者だろう。情報を集め、本国に報告したり大使に伝える役割を果たしているに違いない。彼女の姉の存在もそれなりに有名であり、その辺りを考えて接触しているものだと考えられる。
「場所はどこか借りて、外でやればいいんじゃない? 道具とかから用意しなきゃだし、なんなら、ニース辺境伯家の王都邸でもいいよ」
「……それ、姉さんの自宅でしょう?」
「そうとも言う。まあ、軽くランチに招待して、妹ちゃんと顔合わせ。そのついでに『ラ・クロス』についてちょっとやって見せてもらうってのはどう?」
姉の家に招く社交の延長で、彼女と伯姪を紹介し、そのついでに『ラ・クロス』のレクチャーを受けるというのであればさほど負担にも借りにもならないかもしれない。
「いやー クロス振り回して戦うんだってね!!」
「……殴り合うわけじゃないのよ……多分」
「でもさ、新大陸の住民が戦争代わりに行う行為なんでしょ? バトル的には有だよね?」
体当たりや、クロスをクロスでからめとったりすることくらいは許容されそうではある。とはいえ、クロスで殴り合うようなことは……多分ないはず。それに、ルールにどのような魔術や魔力の与え方をするのか気になる。
「魔力量が多い方が有利だよね」
「燃費が悪いと、試合の後半で魔力切れで倒れたりするのではないのかしら」
「その辺の駆け引き含めて、どんな競技なのか、楽しみではあるわね」
話の流れ的に姉も参加する勢いを感じた彼女であるが、そういう嫌な予想は考えないようにして話を終わらせる事にしたのである。
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