第532話-2  彼女は近衛騎士団長と面談する

 カトリナの近況や、近衛騎士団長としての最近の出来事、彼女と伯姪はネデルでの出来事や国交が成立する可能性の高いリジェ司教領についての話などをしている。


「ああ、一つ近衛と王宮……正確には王太子宮からリリアルに依頼があるんだけど、王妃様、この場で話すことをお許しください」

「構わないわ。王太子宮も王家の管理する宮城の一つですものぉ~」


 王太子宮は現在、主である王太子殿下不在という事もあり、管理する王太子付きの者たちと、一部警備に近衛騎士、そして下働きなどがいるだけの主無き宮城となっている。


「王太子宮が元修道騎士団の王国王都本部であった城塞であるということを知っているよね」


 尊厳王の建設した初期の王都城塞を遥かに凌ぐ大きさの大塔を有する王都本部。異端告発の後、王家により接収された大伽藍はそのまま修道院として暫く使用されたのち、修道騎士団の資産を引き継ぐことになった今はマレス島に本拠を置く『聖母騎士団』に戻されることなく、王家の所有する城塞となった。


 一時期、『王家の金庫』として扱われた城塞であることも関係している。これは、誤解無きようにしてもらいたいのだが、『王国』と『王家』の財政は別物であることから、後者の歳入歳出に関してのみ扱われていた。


 とは言え、当時の王家の支配領域は狭く、また、そこからの租税収入は今の数十分の一に過ぎなかったので、大した規模ではなかったと言える。


「それで、何か問題でも発生したのでしょうか?」


 アントルは今までの軽やかな口調を整え、ゆっくりと語り始めた。


「実は、以前から修道騎士団にまつわる不穏な噂や伝承が伝わっているんだよ。とはいえ、大塔は封鎖されているし、納骨堂や修道騎士団に関わる施設は現在使用されていない」


 現在建設中の迎賓宮の工事を進める上で、修道騎士団にまつわる不穏な噂・伝承についてできる限り根絶しておきたいという事が近衛と王家の共通の認識であるようだ。


 確かに、真新しい宮殿に諸外国の大使や王族貴族を招いたとしても、王都で不穏な事件が発生するようでは、かえって王国と王都の評判を貶める結果になる。


 とはいえ、この手の捜索活動に近衛は全く向いていない。では、騎士団や冒険者に依頼できるかといえば、これも問題となる。騎士団であれば近衛の面子がつぶれるし、冒険者が何か事件事故を起こした場合、王家としても放置するわけにいかなくなる。自由人である冒険者のやらかしたことに、王家が処罰すればそれはそれで王家の瑕疵となりかねない。


「それで、アントル君と陛下が相談した結果ぁ」

「リリアルに依頼せよ……とのご下命でしょうか」

「その通りだよ。この手の捜索はリリアルが最も王国内で評価されることろでもある。確かに、異端の徒として刑に処せられた当時の総長や王都本部長の存在は不気味ではあるが、納骨堂に納められている死者の大多数は敬虔な御神子教徒、それも富も名声もある階層の死者がほとんどだ」


 天の国に至る方法にはいくつかの手段がある。その一つとして、自身の財産の五分の一を修道院に寄進し、在家の信徒として神に遣えるという方法がある。聖征の時代、少なからぬ貴族や富裕な商人などがこの方法で修道院に寄進し、その見返りとして修道院で天の国に至るとされる場所を確保する事を試みた。


 それが、納骨堂に納められた人骨の根源である。なので、不死者としてなにかが発生している可能性は、納められた遺骸に求められるとは思えない。敬虔な御神子教徒が死後安置されているだけなのだから。


「とはいえ、王都の墓地には……」


 一年ほど前、王都墓地の地下納骨堂には、強力なアンデッドが何故か置かれていたという事情がある。


「新たな王都の創造に際して、旧に復する存在は排除しておくべきです」


 騎士団長に皆迄言わせず、彼女は依頼を承諾する旨を答えた。

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