第515話-1 彼女は中等孤児院に仕事を提案する 

 魔銀鍍金製スティレットは、『飛燕』の発動こそ不可能であったが、魔力纏いに関して問題はなく、斬撃を与える事が本来できないスティレットでも切断する事が可能であった。


「これで一安心ね」

「使わないに越したことはないのだけれど」


 伯姪と彼女は一先ず、騎士身分のリリアル生に『魔銀鍍金製』のスティレットを用意させる事にした。ただし、『飛燕』が使える赤目銀髪に関しては、二人と同様、魔銀製の刃の物を用意する。


「ようやく目途がついたわね」


 いま二人が立っているのは、リリアルが王都内に賜る迎賓宮の一角、仮称『リリアルの塔』と称している建物を建てる場所である。


 内装はともかく、外郭は既に用意が整える段階に来ている。先に進めないのは、迎賓宮を構築する建築家と、実際に王宮の建築を施工する『建築ギルド』の調整が難航しているからだという。


「迎賓宮の中庭に面した部分は後回しで、外側に面した二面だけを先行させることになるとはね」

「ふふ、ズルをして魔術で仕上げるのだから仕方ないでしょう」


 今は夜中。人の目があると、彼女の土魔術の能力が周知されてしまうので、人気のない時間に行うのである。


 まずは、土牢を展開し、地下階部分まで掘り下げ、床の下地を作る行程と、土台の外枠を形成するところから始める。明日は、外から見えないように土壁を今夜中に形成した上で、土魔術で形成した『型枠』に順次コンクリートを流し込んでいく。一気に流し込めないので、1mほどで型枠を区切り、固まればつぎ足す形で形成していくことになるだろうか。


 100m四方ほどの正方形の形に、地面を10mほど切り下げる。周囲を濠で囲むため、水が沁み込まないようにコンクリートの外周を防水の為に歴青油アスファルトを塗布することにしている。これも、型枠が外れて以降の話になるが。


 地面を掘り下げた際の残土を用いて、型枠と土製の遮蔽壁を作り上げていく。迎賓宮の周りも濠で囲む事になっているので、その分、合わせて敷地を確保することになる。





 掘り下げた地面の下に、いきなりコンクリートを流すわけにはいかない。捨石を打つのだが、彼女には処理が溜まっている丁度良い素材があった。


「随分貯め込んだものね」

「……好きで貯め込んだのではないわ」


 鉄鉱石から土魔術を用いて鉄を精錬した際に出る、鉱滓スラグが溜まりに溜まっていたのだ。


「城壁の間に詰めてもいいのだけれど」

「あんまり便利そうじゃないわね。却下で」


 鉄鉱石の半分から三分の一はこのスラグなのである。彼女が精錬した鉄の量が偲ばれる。


 10㎝程の厚さに敷き詰める。体積で言えば、10立方m……縦横高さが10mほどになる程度、貯め込んでいた。ちょうど良かったと彼女は思った。


「……どれだけ貯めていたのよ」


 伯姪もどんどん出されるスラグに半ば呆れる。だが最近、土の精霊の祝福を受けた彼女にとっては大したことではないらしい。


「オリヴィさんは、火薬を1.5tも魔法袋に入れて運んだというのだから、大したことないわよこの程度」

「……まあ、あなたも大魔術師並になったという事ね」

「魔力量だけはよ」


 残念ながら、オリヴィは『祝福』ではなく『加護』であり、彼女のそれより数段強力なのだから、魔力量だけで言えばオリヴィは大して消費する必要が無い。魔力量だけは大魔術師を越えているのである。


「沢山しまい込めるだけの、貧乏性な魔術よ」


 大したことはないとばかりに否定する彼女であるが、そんなことはない。小さな船の上にでもスラグを魔法袋から取り出せば、あっという間に撃沈させる事もできるだろう。残土処理と敵の撃滅が両立できる良い作戦ではないか。




 翌日、王宮の対岸に、大きな掘割と、深く掘り下げられた基礎が出来上がっていると警邏の衛兵から王宮と騎士団に報告が上がっていたのだが、「リリアルだ」と伝えると、誰もが納得していたという話を彼女は暫くしてから耳にすることになる。


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