第514話-2  彼女は魔銀のスティレットを試みる

 代わって灰目藍髪の片手剣に茶目栗毛がスティレットで対抗する。


「実際の状況はこれよね」

「こちらが使う時は、暗殺か奇襲になるのかしら」


 狭い場所で、相手に気づかれずに殺傷するには、スティレットは有効な武器となるが、護衛や討伐任務ではあまり役に立たない。刺突故に傷が目立たず、出血も切り傷より少なくて済むスティレットは暗器なのだ。


 剣を突き出すように構える灰目藍髪。振り下ろせば受止められると考え、突き出すか、下から切り上げる受止めにくい構えをするのは、先ほどの会話を承知してのことだろう。


「!!」


 首元を狙った刺突を、軽く左腕で逸らされ、そのまま胸元にスティレットを叩きつけられる。


「ぐっ」


 茶目栗毛は魔力を通しておらず、魔装の胴衣越しに鈍い打撃が伝わったのみではあるが、鳩尾に決まったため、思わず呼吸が困難となる。


「という感じですね」

「私好みだわ」


 伯姪は、バックラーで剣先を逸らし、短い片手曲剣で相手を切り裂く戦い方を得意とする。得物の長さこそ違えども、その戦い方には共通点がある。


「反対に、暗殺者対策としても、この武器にある程度習熟する必要があります」

「確かに。隠されたり、背後から背中を突き刺されたりしそうです……」


 灰目藍髪の提案に、碧目金髪も同意する。


「わ、わたくしもでしょうか……」


 赤目のルミリがおずおずと質問する。そもそも、この一年の間、余り武器の鍛錬をしている事は無かった。薬師組系使用人枠で仕事を覚えて来たからでもあるが、そうもいっていられないのが現状だ。自分の命は、自分で守ってもらわなければならない。


 リリアルで連合王国の言葉が使える魔術師は希少なのだ。


「護身は使用人や侍女でも必須よ。まだ諦める時間ではないわ」

「そうそう。ダンスのつもりで覚えればいいから」

「……そんな激しい動きのダンスがあるとは存じませんでしたわ……」


 リリアルの二大巨頭に命じられて、リリアル生が否と言える余地は少ない。代わりがいれば良いのだが、言語の習得はそれなりの時間がかかる。また、幼い少女であるならなおさらである。




 ルミリは伯姪に相手をして貰い、スティレットの扱いの手ほどきを受けている。碧目金髪は灰目藍髪と向かい合い、刺突とその回避・受けを繰り返す。


「先生、どうしましたか」


 茶目栗毛が魔銀製の刃を持つ彼女用のスティレットを持ち何か考察している様子を見て声を掛ける。


「魔力壁を展開してもらえるかしら」

「……承知しました」


 彼女は茶目栗毛が魔力壁を展開したのを確認し、スティレットに魔力を通す。そして……


『飛燕』


 スティレットを振るい、魔力の刃を魔力壁に叩きつける。


Barinn!!


 魔力壁は砕け、魔力の勝る彼女の飛燕が茶目栗毛に命中しそうになるものの、当然回避する。


「魔力の消費量が少なく、収束された魔力『針』が飛ばせるわね」


 スティレットは錐のような形をしており、その先端に魔力を集めて飛ばすことで、貫徹力が並の刃を持つ剣を用いるより高まるようだと推論できる。


「魔力の消費量が少なくて威力が高いとか……お得な装備ね」


 伯姪も『飛燕』を使う。加えて、魔力量の問題で二発が精々なのだが、消費量が少なければ、数倍放てるかもしれない。


 ちなみに、魔銀鍍金製では魔力量が纏まらず、技自体が発動しなかったことも確認できたのである。


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