第502話-2 彼女は領地の森へ向かう
二面を完成させたところで「きついわ。昼休憩」と癖毛が言う。
「残りもできるでしょう」
「ああ。けど、その後も厩だ工房だってのがあるだろ? 型枠作って、コンクリ流し込んで硬化までするのは、俺一人だと無理かもしれねぇ」
今回は工作範囲も広く、魔術師は癖毛一人。歩人は編成上置いてきた。今日中に全てを完成させるつもりはないのだが、一階部分程度は完成させておきたい。実際、作業は二期生三期生も呼んで実施したいのである。
「仕方ないわね。残りの二面は私がやりましょう」
『まあ、魔力ゴリ押しになるけど、『祝福』生えたから、なんとかなるな』
『魔剣』の見立てでは、単純な外構程度なら魔力量の多い彼女でも作業し終えるという。
学院生は「は?」という顔をしているのだが……
『
「「「おおお!!」」」
『
「「「おおお!!」」」
『
「「「おおお!!」」」
発動速度、仕上がり具合……ともに癖毛を上回っている。
「なんか先生の仕上げた所は綺麗」
「ツルツルしているね」
「雑」
「うるせぇ! いいんだよ、魔物が入ってこられないようにするだけなんだから」
癖毛は悔しそうであるが事実。仕上がりが綺麗である事と……
「これ、何か違わない?」
伯姪が彼女の仕上げた個所について、違和感を感じたようで声を上げる。
「む」
「これは……」
「魔力の残滓」
「あれだろ、魔物除けになったんじゃねえか。院長の魔力の効果で」
「「「はっ」」」
彼女が無理やり魔力を込めて形成した濠と壁。その中に、彼女の魔力が留まり、結果として魔力を感じるようになったようである。所謂、狼や獅子の○○をマーキングのように付けると、小動物が近寄ってこなくなる的なものであろう。
「まあ、暫くでしょうけどね」
「俺の作った壁だけ要警戒場所かよ」
「雑念が壁に現れている」
「「「確かに」」」
壁一枚でも弄られる男。とはいえ、遠征の主要メンバーに入る事のない癖毛や一期生で留守番の多い赤毛娘と黒目黒髪もちょっと楽しんでいるのは間違いないだろう。何気に、一期、魔力大組の四人勢揃いである。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
今日のところは、資材も不十分であるので、今後の工程と縄張りを確認し、彼女の手から建設班(班長癖毛)に委ねる事になる。
まず、出入口は跳ね上げ式の鉄の格子戸型のものを使おうと考えている。誰かが常駐しているので、中からの跳ね上げ式でも問題が無い。下ろせば橋、持ち上げれば門となる仕様だ。
「聖魔鉄製でいいかな」
「……も、もちろんよ。頑張るわ……」
聖鉄、それに魔鉛を少し加えてさびにくく耐久性を持たせる聖魔鉄は、彼女の魔力をより多く含んでいる。硬度は下がるが外構としてはそれが望ましい。
「問題は魔装馬車の馭者を誰に委ねるかね」
「守備隊長でいいんじゃない?」
守備隊長とは、その昔、水晶の村近くの廃修道院に棲みついていた魔物の指導者で、元『伯爵』の国の戦士長であった半人狼である。
「駈出し冒険者なら、半泣きで言う事聞きそう」
「あ、でも、優しいですよ私たちには」
「それは、可愛い女の子と糞生意気なガキじゃ扱い違うんじゃない?」
「強面が相手をする方が冒険者ギルドも教育面で安心するのんじゃないか知らんけど」
唯一、最後の癖毛の意見だけがやや建設的である。戦士としては優秀であり、ちょっとしたトラブルにも問題なく対応できる。何より、人数と魔物の増えたリリアル学院にいても、あまり役に立たなくなってきているのは本人も気が付いているだろう。
「馬車をここを起点に考えると、朝ここを馬車で出て、王都南門前に到着、昼過ぎに戻ってきて子供を連れて近隣を探索に同行。夜はここに滞在して監視任務とかかしらね」
「なら、守備隊長の部屋も必要になるな」
ということで、工房の二階にはシャリブル・ガルム・狼人の三人分の部屋が必要になりそうである。
街道に接する道の正面に門を設置。その正面に工房のある二階建ての建物(監視塔付き)を建てる。街道は北側にあるので、街道から南に降るワスティンの森へ向かう道に接する脇道に接する正門は西側にある。
門を入って右側に馬車置き場と野営用の建物を建設。二階はリリアル生の宿泊施設に充当する。屋上には監視塔を設置する。
左側には薬草畑。馬は二つの建物の間に厩を設ける事にする。中央は広く取り、鍛錬の為のスペースや人が増えた時の野営地に充てる。
「薬草畑が狭いわよね」
「採取の仕方を学ぶ程度だから、この程度で十分でしょう。葉だけ採取するのであれば、数日で生えてくるもの。問題ないわ」
薬草畑の横には作業小屋。厩の横には飼葉の倉庫も必要になる。
強度のさして必要ではない作業小屋・飼葉置き場・厩は土魔術で簡単な構築物を作り済ませればよいだろう。
「で、俺がやるのかよ」
「私には魔力に余裕が必要なの。この後、少し森に入ってみるわ」
「「「え……」」」
「魔物が増えているか、いつもの洞窟に繁殖しているか確認が必要よね。これからは、鍛錬場扱いになるかもだけどさ」
過去、幾度か討伐を行った比較的入口に近い場所にある洞窟。ゴブリンやオークなどが巣をつくるのに適しているからか、もしくは何らかの存在が意図的に送り込んでいるのか分からないが、魔物と頻繁に遭遇する場所でもある。
そこに集まってくれるのであれば、敢えて場所を残して討伐しやすくするという考えもある。その為の下調べに向かおうと考えていた。
「わ、わたし薬草畑を作って待ってます」
「だめだよ。せっかくの森での討伐なんだから!! 行こうよ、ゴブリンに会いに!!」
会いたくないよぉと黒目黒髪は呟くのだが、赤毛娘にその言葉は耳に届いていない。
「では、装備を整えて行ってみましょう」
「前衛は私でいいかしら」
「じゃ、あたしも!!」
「私は後ろをよく見ておきます……」
伯姪と赤毛娘の前衛、遊撃は茶目栗毛・赤目銀髪、彼女と黒目黒髪である。
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