第490話-2 彼女は練習魔装を考える
いつもの射撃場に彼女と、二期生の女子、碧目金髪が並んでいた。
「かわいい銃です。部屋に飾りたいくらい!」
「細身でエレガントですね。今までのとはかなり違います」
碧目銀髪の『ブレンダ』と赤目茶毛『ルミリ』が強い関心を示す。
「あ、軽いですね。思っていた以上に取り扱いしやすそうです」
「先ずは、あなたが試してみてちょうだい」
銃兵と言えば今や碧目金髪がその代表格である。剣やその他の武具はさっぱりなのだが。
「では、遠慮なく」
50mの位置から、『的』に向けて射撃を開始する。一発、二発と発射していくのだが、弾道が安定しないようで中々必中とはいかない。
「銃身が短いからでしょうか、真直ぐ飛ぶ力が弱いかもしれません」
というのが、碧目金髪の所見である。50mであれば、今までの魔装銃であれば必中と言える距離であったが、新型では半分くらいの確率で体一つ分ほど逸れてしまう。
「私も射撃してみるわね」
彼女は、必中となる魔術を展開する。
『
魔力走査の魔力の線を集約し、目標との間を線で結ぶ魔術。飛翔武器に有効な術式で、魔力纏いを与えた弾丸・鏃・投矢・魔力弾のスリングなどに必中の効果が発生する。
魔装銃の弾丸にも効果がある。
POW!!
放たれた弾丸が吸い込まれるように的に命中する。
「つまり、魔力で補正が効けば問題ないという事よね」
「難易度上がりますけれど、魔力操作の練習としては良いと思います。今までのように、薬草からポーションを増えた人数で作るわけにもいきませんから、魔力を用いた鍛錬として、この当りにくい銃は意味があると思います」
はっきりと欠点を指摘されたのだが、誰でも当たる銃ではないところが魔装銃兵としての矜持になれば良いかとも思うのである。
「院長先生、あれはどんな魔術なのだ」
騎士を目指すと公言する碧目灰髪『ヴェル』だが、風の噂で騎士も銃を馬上で扱うのが今時であると聞き、銃に関心が高いようである。実際、灰目藍髪も銃は剣と同じように鍛錬している。恐らく、灰目藍髪が灰髪ヴェルの目指す身近な目標なのだろう。
「簡単に言えば、魔力操作の延長で行う魔力走査の応用ね。魔力を体から網の目状に広げて周囲の魔力を探るのが『魔力走査』。それを銃身と的の間だけに太く一本にまとめて繋げるのが『導線』かしらね。弾は、魔力のトンネルを通って的まで一直線に命中するという事になるのよ」
「「「すごい!!」」」
「すごい大変じゃん」
茶目黒髪の『アン』は今一つ乗り気でないようである。四人の中で、リリアルの騎士を目指しているのはヴェルだけであり、他の三人は薬師か侍女狙いである。とは言え、アンは「楽な方」という物差しがあるので、魔力の扱いに慣れれば銃兵が一番楽なのではないかと思われる。
「ですが、当たらない銃が必中するとなれば、とても心強いのですわ」
「剣や槍より銃の方が良いじゃん。でも、大変そう」
「そんなの、何でも最初は大変だよ。ここに来た時もアンは朝から晩まで大変大変って言ってたよね」
「……気のせいじゃん……」
気のせいではない。
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とはいえ、剣やメイス、長柄装備と比べてもかなりの重量である魔装銃はリリアルの活動の中で身に纏う装備としては難しいだろう。魔装拳銃を指揮官が持つ程度になるだろうか。
『魔術師が銃で戦うってのも図柄的にはどうかと思うけどな』
『魔剣』の言う事ももっともであり、「魔術師」といえば、魔力で攻撃するというイメージがあり、事実がある。魔力を持って銃撃するので完全に嘘ではないのだが、思うそれとは大いに異なるだろう。
とはいえ、剣で戦う事自体も余り勧められたものではない。何故なら、魔術師は魔術の研究に専念しており、体を使うことが余りないためひ弱であるというのがある。
これは、所謂宮廷魔術師や貴族の子弟としての魔術師であり、魔術自体を活動の目的としている『高等遊民』と言える。魔術師を君主の周りに置くというのは、君主の安全を確保すること、顧問として私的な助言を与えること、騎士が武の象徴とするのであれば、魔術師は知の象徴としてその宮廷をさせる存在と見なされるからである。
言い換えれば、飾り物なのだ。魔術師をたくさん抱えているという事は、騎士や近衛兵を抱えるのと同じ権威の象徴でもある。国王が行幸する際、また、他国の使節を受け入れる際、並べる為の存在とも言える。
「意味がないわけではないのだろうけれども」
『変わっていくだろうさ。魔術師の力で出来る事は矮小化されていく。火薬が魔術師の持つ攻撃的魔術に置き換わるように、水利や土木の技術が高まり、医療や治癒の知識が深まれば、魔術は特別な力ではなく、あれば便利だがどうしても必要な物ではないってなるだろ』
野良の魔術師なら、魔力を用いた様々な手段を工夫し、少ない魔力を最大限に生かす工夫をする。少ないから、ないから、頭を使い工夫をする。多くの魔力量の大きな魔術師は、今ある魔術を習得する事に最大の価値を置く。その魔術が根本的に不要となるとは思いもしない。
騎士が絶対的な戦力であった時代、長弓と防御陣地によりその威力が無効化され、やがて、長い修練を必要とする長弓がマスケットに置き換えられたように、魔術がそうならないと何故言えるのだろうか。
「魔術は大切よ。でも、全てではない」
『まあな。どんな名剣も錆びたらただの金属の塊だし、使いこなす技がなければ、鈍剣にだって後れを取る。要は、使う人間の思考だ』
たった一つの魔術に魔力を注ぎ込むのではなく、複数の矮小な魔術を組合せて人を神霊の域にまで高めるものがリリアルの魔術の真意である。
大きな宝玉を磨くのではなく、小さな屑石をあつめて組み合わせていくと言い換えてもいい。宝玉は希少で価値も高いというのは誰でもわかることだが、その宝玉を屑石を集めて打ち砕くと言い換えてもいい。
「でも、屑石だって磨けば輝くでしょうし、私は重たい宝石より、小振りな貴石のほうが好きだもの」
『身の丈に合った魔術を工夫して身に着けそれを生かすってのが魔術師の基本だ。魔力の大きさや習得難易度に物差しを置くのは、魔術師じゃなく魔術屋だな。それが売り物なんだからしかたねぇけどな』
強力な魔術、膨大な魔力を持つが故に「魔術師」として重用される者は少なくない。立派な飾りが王侯貴族には必要なのだから。だがそれは、彼女が欲するものではないと『魔剣』は理解していた。
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