第488話-1 彼女は魔力の有無を理解させる

「そうとうびびってたわね」

「七歳の男の子なんてあんなものよね。まして、魔力持ちだなんて知ったら増長するのも仕方ないわ」


 癖毛の最初の頃を思い出す。魔力持ち、それもかなりの魔力を持っているのに養子の口はなく、周りからツマハジキにされ捻くれていた。半土夫であることを知っていたことで、養子の目が無かったという事はかなりあとになり本人は知る事になるのだが、それがさらに状況を加速させた。


「魔力持ちって言ったって、相当鍛錬しないと、あっという間に魔力切れになるものね。苦労したわ」

「ふふ、今ではそれは過去の話じゃない。量も増えたし、操作も上達して問題なく運用できるのですもの」

「あなたに言われると嫌味でしかないわよ。どれだけ魔力増やして、多重発動させているのよ」

「私の場合、鍛錬は趣味ですもの。過程が大事なの」


 彼女の魔力量は鍛錬で増え、それは趣味。鍛錬により操作度が改善し、少ない量の魔力で術が展開・維持できる。それが楽しいのだ。


「揉めないことはないわよね。まあ、それで早めに気持ちの整理ができたり挫折する方が良いわね」

「剣技は魔力と関係ないし、想像したり推理したり工夫する能力も別ですもの。魔力が無い子達の方が優秀という可能性も高いじゃない。魔力持ちの冒険者に偏重している今の体制も、修正できると良いと思うのよね」

「確かに。これからのあなたの仕事を考えると、別の形で協力するメンバーも必要よね。文官というか、魔術師でない子達ね」


 副院長となり、デスクワークを経験した伯姪にとっては、今まで以上にリリアルで行われている仕事の多くを彼女が一人で負担していたことを深く理解していた。これから、外に出て仕事をしていく機会が増え、陞爵することで領地や臣下を持つようになれば、それに応じて人を抱える必要がある。


「その辺りは、徐々に話していこうと思うの。例えば二期生なら……」


 赤目茶毛『ルミリ』が該当するだろうか。元商人の娘であり、孤児院にいた期間は一年程で、孤児というほどではない。親の商売柄、連合王国語を学んでおり、簡単な読み書きと会話は問題なく対応できることが分かっている。


「ルミリでしょ。あの子、連合王国に行くときに侍女として連れて行けると良いわね」

「魔術が使えて自衛ができれば申し分ないわね。冒険者ではなく、そういう情報収集や護衛として公の場で活動できる子も育てたいわね」


 リリアルは彼女の活動が冒険者の延長線上であった事もあり、魔術師とはいえ冒険者としての役割に専従する者が多い。


「魔力操作からはじまって、気配隠蔽に身体強化、魔力纏いに魔力走査まで使えればべんりだけれど、無くても何とかなるしね」

「これからは、魔力の無い子でも優秀な子を育てて、リリアルの根幹となるように育成しなければならないのでしょうね」


 それは、休みを取り結婚する為にも必須の業務だろう。休みなく働く夫人では、家政の切り盛りもできるはずがないからである。




 その日、夕食の時に三期生たちの姿を見ると―――座る組合せは微妙に変化していた。先に三期生が食事をし、一期生二期生はその後同じ食堂で食事をする事になる。朝は先輩が先に食事をし、夜は後にする。子供はお腹がすきやすいからという配慮でもある。


 院長と副院長は三期生と共に食事を取っているのは、目が無ければ騒ぎ始めるだんすぃがいるからである。


「面白いくらいに席が変わったわね」

「というより、自ら孤立している感じね、あの三人」


 当然、魔力有年少組三人が離れた席に並んで座っている。馬鹿にするようにこれ見よがしにベルンハルトについて何やら揶揄しているようなのだが、十歳組の四人はなにやら熱心に話し込んでいるので無視。


 三人組の態度に軽蔑の視線を送る年少組女子六人は、魔力の有無関係なく今まで通りの関係に見え、そのそばには魔力無年少組が座り、時に一緒になって話している。


 浮いた三人は、年少組男子にも何やら言っているようだが、女子に睨まれだまり込んだり、大声で威嚇したりしている。馬鹿だなと思うが、そうそうに天狗の鼻をへし折るべきだろうかと考える。


「いいアイデアはある?」

「そうね。四対四で模擬戦でもするとか」


 幸い、丁度半々に魔力の有無で人数が分かれる。魔力有男子四人と魔力無し男子四人。年長者も一人ずつとなるのだし、四対四の集団戦を模擬戦としてやらせてみようかと彼女は思った。


「木剣だと危ないかもね」

「私が魔力壁を展開すれば、寸止めになるのではないかしら」

「あー はいはい。本気で打ち込んでも、あなたが魔力壁で守るから、大丈夫ってことね」

「頭巾と軽装の革鎧で一期生が使ったものが残っているでしょう。あとは、厚手の服でなんとかなるかしらね」


 彼女は年少者の男子が言葉で理解するのは難しいと考え、実際にベルンハルトに年少者を指揮させ、能力の差を目に見えてわからせることを考える事にした。


 恐らく、二期生銀目黒髪『アルジャン』と同程度の能力があるのではと見て取っている。年齢は二つ下だが、訓練は二年以上受けているのが十歳の子達である。恐らく、あの四人は接近戦ならリリアルの冒険者組と互角なのではないかと想像できる。


 ベルンハルトは、チームリーダー教育も受けているだろう。性格と能力からも推測できる。


「暗殺者の技術は、魔力の有無に左右されないのでしょうね」

「人を殺すのに魔力いらないって事ね。それはそうだわ」


 彼女がいわゆる「魔術」の発動に拘らず、装備や運用に魔力を生かす方向でリリアルを育ててきた理由と同じだ。魔術は確実ではない、剣で刺す方が確実に討伐できる。発動も早く、魔力切れの影響も受けない。


 暗殺ならなおさらだ。心臓や眼を一突きするだけで人は容易に死に至る。首の血管を切裂くのは、魔術よりダガーの方が簡単だ。


「カルが嫌がりそうね」

「デザートをオマケするからって、説得するわね」


 模擬戦の審判をする気満々の伯姪は、意気揚々と四人の席へと歩いて行った。



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