第487話-2 彼女は三期生と面談する

 七八歳の三期生は、事前に魔力有組と無組にわけて話す事にした。魔力が無い組を先に説明することにする。ある方は、展開が読めて楽だからだ。


「先にお話するけれど、今この部屋にいる子は全員今のところ魔力無なの。まずそれを受け入れてもらえるかしら」


 六人の子はそれぞれだ。へぇという程度の軽い驚きの子、ホッとする子、とても悔しそうな子である。女の子はほっとしているようであり、男の子は悔しそうな子が多い気がする。


「あとでみんな知ると思うから最初に話しておくけれど、十歳の四人も二人が魔力持ちで、二人が魔力無しだったの」

「あ、ベル兄ちゃんは魔力持ちでしょ!」

「強いもんね。死んじゃった先輩とも互角に戦ったり、剣も槍も上手なんだよね」

「やっぱ、親なのかな。ベル兄ちゃんって騎士の子だろ?」


 どうやら、赤毛のベルンハルトは皆から魔力がありそうと思われていたようであり、その根拠は「強い」「騎士の子」ということのようだ。男版灰目藍髪の可能性が出てきた。


「残念だけど、ベルンハルトは魔力無しだったのよ」

「「「「えええぇぇぇ!!」」」」


 自分の時の何倍も驚く六人。余程ベルンハルトのことを慕っているのだろう。この辺りも、ベルンハルトの人柄が見て取れる。


「あ、でも、あいつカルの背中は俺が守るとか言って、戦士目指すって言ってたわよ」

「カルは魔力を持っていたわ」

「それは意外だな。カル兄ちゃんって影薄いじゃん」

「それね。でも、魔力の影響で気配消せてたんじゃない?」

「薄いのは存在感だから。魔力関係ないから」


 ワイワイと話を勝手に始める子供たち。たしか、最初にリリアルを始めた頃はこんな感じだったかもしれないと懐かしくなる。


「じゃあ、孤児院に移る事になるんでしょうか」

「希望すればね。でも、できればあなたちにはここに残って欲しいわね」

「魔力が無くても?」

「魔力が無くてもよ」


 全員が魔術師であることは望ましいが、魔術師である以前に、学院に参加できる素養のある子が欲しい。少なくとも、七歳でこれだけしっかりと人の話が聞ける子達はそうは多くない。まして、孤児であり親がかりで教育されたわけではないのだ。


「勉強とかできるんですか?」

「それは好きなだけさせてあげるわ。古代語だろうと神学だろうと、錬金術だろうとね」

「冒険者になれる?」

「リリアル生は全員冒険者登録して、冒険者として活動することが前提。魔術が使えなくたって、剣も槍も銃も使えるじゃない。何でなれないと思うのよ。なりたいものになりなさい」

「あ、わたしはお嫁さん」

「それは私も。可愛いお嫁さんだよ!」

「それは私もね」

「「「「え……え」」」」


 おいおいとばかりに肩を叩く伯姪。思わず子供たちの会話に本心で割り込む彼女であった。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 最後は、魔力持ちの七八歳組六人。魔力がある子であることを告げた後、女子はそうでもなかったが、男子三人は調子に乗り始める。


「俺達勝ち組!」


 と、黒髪の『ハインツ』が立ち上がる。


「でも、ベル兄さんが魔力無しとはね。がっかりだ」


 銀髪の『オットー』が尊大な雰囲気で言葉を吐き、蒼髪の『マックス』が一言。


「これからはベルでいいんじゃね? あいつ、俺らより下っしょ」


 と七歳児とは思えない言いぐさである。前の魔力無しの子達の反応からして、この三人にもベルンハルトは相応に兄貴分として相応しい態度で面倒を見てくれていたはずである。


 横で彼女と一緒に聞いていた伯姪も、顔にいら立ちが現れている。


「魔力が有る無しで役割が多少変わるでしょうけれど、初期の教育は

全員共通なの。それに、魔力があっても使いこなせなければ意味はない」

「まあ、あんたたちが使いこなせるようになる前に、魔力の無い子たちが成長したり魔力が生えたりするかもしれないから、あんまり露骨に舐めた態度とるとここにいられなくなるかもね」


 と軽く脅しておく。女の子たちは神妙に話を聞いているが、調子に乗った男子三人は、鼻で笑うような態度である。


「魔力持ちが、魔力無しに負けるなんて聞いたことが無いけど」

「ちゃんと学べば、そんなことはないよね」

「まあ、ここにいられなくなるのは困るから、大人しくしないとね」


 と、三者三様というよりも……分かっていないのが透けて見える。なので、飛び切りのお話を一つしておこう。


「まず、未熟な魔力持ちは吸血鬼の餌よ。あいつら、魔力持ちの魂を奪って自分の能力を上げるから、守れるだけの力が無いと危険なの。あなたたち、吸血鬼に勝てるほど修練できるのかしら」

「「「え」」」


 男子三人だけでなく、女子もひッと声をあげる


「それから、魔術師の脳みそゴブリンが食べると魔力が使えるようになるから、狙われるよ。それに、魔力の遣い方なんて下手なら十五分くらいできらしちゃうから、ゴブリンの群れをなめて突っ込んだ魔力持ちの騎士四人が食い殺された事件も、関わった事あるし」

「あれは嫌ね。騎士の装備と言葉をしゃべるゴブリン殺すのだもの」


 いつぞやのゴブリンの村塞の前哨戦。魔力持ちと驕り、ゴブリンを舐めた騎士団の魔力持ちは、あっけなくゴブリンに食い殺されている。魔力が切れるまでに倒しきれなければ、魔力に頼った騎士は簡単に殺されてしまうのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る