第484話-2 彼女は『ガルム』を紹介する

『おい、ここはどこだ』

「生首のくせに生意気」

『……小娘、答えろ!』

「本気で生意気」


 赤目銀髪の目の前には、首だけノインテーターの『ガルム』が置かれている。このまましばらく放置するならば、『アルラウネ』から与えられた魔力も枯渇し、魔物としても死を迎える事になりそうである。


 その辺り察しているので、小城塞で捕まった時よりも幾分弱腰なのだ。


「皆に紹介しておくわ。彼はノインテーターの『ガルム』、今は頭だけなので『ガルムヘッド』とでも呼んでもらえるかしら」

「おう、ガルムヘッドよろしく」

「ガルムヘッド、素直ないい子にしていたら楽に殺してあげるからね」

「いや、これってアンデッドでしょ? なら滅する方が正しいんじゃない」

「滅してあげる」

「「「滅し」」」


 ノインテーターに全く恐れおののかないリリアル生に反対に驚くガルム。リリアル生、特に冒険者組はアンデッド慣れしている。隷属種の吸血鬼以下の身体能力しかないノインテーターに関して、全く敬意も恐怖も感じていない。


 正常な思考が残っている喰死鬼グール程度だからだ。


「ガルム、あなたは確かに生まれは侯爵家に生まれたのでしょうけれど、今は魔物、それも討滅すべきアンデッドに過ぎないわね。そして、ノインテーターを討伐する程度のことは簡単なの。ご理解いただけるかしら」

『……否! この僕を討滅するとは、とんだ思い上がりだ。首を刎ねられてもノインテーターは不滅ぅ!!!!』


 不死者においても、実体のあるものは首を刎ねれば討滅できるのが普通だが、ノインテーターは正式な埋葬手続きと同じ手続きを取らねば滅することができない。


「あら、随分と勘違いしているのね。もしよければ、銅貨でも食べる?」

『……』

「遠慮はいらないわ」

『……いらん。不要だ、遠慮する。ごめんなさい』


 こうして、ガルムは快くリリアルに加わる事になる。心を尽くして話し合うということは、とても大切な事だ。





『ガルム』の役割り、これは、騎士としての剣技を持って、リリアル生の稽古台として永遠に生きる事である。


「ガルム先生よろしくお願いします!」

「ガルム師匠、これからよろしくお願いします」

「ガルム様、よろしくお願いするのです」

「よろしく」


 二期生を中心に、ガルムは稽古相手となる。


『貴様ら、この僕を剣の師匠として敬うならば、手解きをしてやろう』

「それじゃ、早速腕前を拝見しましょう。いいわよね」


 伯姪が相手をし、ガルムの剣の腕を確認する事になる。小城塞での戦闘に参加した者以外、ガルムの剣技は未見であるからだ。


 早速、『ガルムボディ』を魔法袋から取り出し首を据え付ける。さらに、『アルラウネ』から魔力を与えてもらうのだが。


「……え……」

「草食ってる」


 魔力の補充方法は……ノインテーター自身で生のアルラウネの葉を食べる事にあるようだ。それも、結構な量もりもりと食べる必要がある。


『普通はこんなに一遍に食べないし~ 擦り下ろしたりポーションにするのよ~♪』


 時間が無い時は生食でも効果があるらしい。ただ、長期保存には向いておらず、ノインテーター化するには生でなければならないという。


『かなり衰弱しているから、鮮度が良い魔力じゃないと回復しそうにないからしょうがないわぁ~♪』


 ガルムは目に涙をにじませながら、無心に草を咀嚼し飲み下す。


『きたきたきたぁ!!! 力が漲るぞぉ!!!』


 クールなのか、暑苦しい性格なのかキャラクターがブレる揺れ動くノインテーター『ガルム』。チック症ではない。


 ガルムは、レイピアを得意とするようであるが、今回は『カッツバルゲル』、帝国傭兵が主に使う片手剣を使うようだ。


『これを借りよう』

「差し上げるわ。鹵獲品でよろしければ」

『十分だ。感謝する』


 お礼が言える育ちの良い子『ガルム』。その剣は、カッツバルゲルとしてはやや長めであり、突いたり斬ったりするに申し分ない長さであるように思える。密集隊形で用いるグラディウスのような剣ではない。伯姪の剣より長く、リーチの差を生かして距離を取りつつ斬り結ぶつもりなのだろうか。





 10m程離れ対峙する二人。周囲にはリリアル生が囲むように観戦している。特に、三期生の少年少女たちはとても興味深げだ。


「ねえ、あのお姉さん大丈夫なのかしら」

「大丈夫だろ? 使い込まれた剣と小楯を見ると、かなりの遣い手だとおもうよ」

「負けて『四天王で最弱』ってやるかもね」


 伯姪は、剣技だけならリリアルのみならず騎士団でも高位の存在。魔術込みなら、決闘マニアのルイダンも軽く一蹴する。


『さあ、遠慮はいらん。存分にかかって参れ』

「剣盾がスタイルだから、問題ないわよね」

『ああ。こちらの剣は長いし、僕の背も君より随分と高い。これで五分だよ』

「随分と紳士なのね。まあ、アンデッドだけど」


 盾を前に突き出し、牽制するように構える伯姪。剣を肩に担ぐように構えるガルム。


 前進し、振り下ろすガルムの剣が体に届く前に踏み込んで剣の腹で受ける。が、そのまま手首を返していなし、ガルムの剣が下へと振り下ろされる間に伯姪はそのまま剣の護拳をガルムの左頬に叩き込んだ。


『ゴベェ!』


 カウンター気味に炸裂。身体強化を加えていた右フックの威力で、ガルムは二度三度と地面を転げ回りうつぶせに止まる。


「「「「おおおぉぉぉ!!!」」」」


 ガルムの剣技も中々であったが、伯姪のカウンターはそれを上回っていた。新メンバーたちは、その華麗な動きと息も切らせない立ち姿に憧憬の念を抱くのであった。

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