第477話-2  彼女は訓練生について考える

 初日、デンヌの森を抜け王国内の街道脇にある野営地にて野営することに。


 リリアル生は馬車で寝る事になる何時もの調子なのだが……


「すっげぇ、毛皮のテントだ!!」

「温かいね……ふわっふわだ!」


 そうです、遠征で最近使わなくなっていた狼皮のテントを出す事に。土塁で周囲を囲んだので、魔装布製の馬車でなくとも問題ないと判断したことによる。土塁を形成する彼女を見て伯姪が唸る。


「なんだか、随分とスムーズに展開できるようになったのね土魔術」

「そうね。習うより慣れろ……という感じかしら」


 自分自身が『脳筋』であることを決して認めない彼女だが、誰かが呟く。


「相変わらずの力技……いや魔力技」

「「「確かに」」」


 黒目黒髪は「私は水の精霊さんがいいな」と呟いているので、帰ったなら水の精霊魔術をリリアルの水車小屋傍で鍛錬させることが決定。余計な一言による仕事の追加で青ざめる黒目黒髪。


「やっぱり、火でしょ!!」

「あんた危ないからやめておいた方が良いよ」

「確かに。子供が火遊びすと、おねしょする」

「「「「……」」」」


 赤毛娘の背後で、一緒になって「ファイア!!」とか叫んでいた年少組が全員真顔になる。頼むから、毛皮のテントで寝小便しないでもらいたい。馬車の中でのハンモックでも、下の人に掛かるので寝小便野郎は外に寝かせることになるだろう。


「なんか、訓練所みたいなとこなのかと思ってたけど、違うみたい」


 年少組の誰かの声が聞こえてくるのである。




 リリアル生も暗殺者と似たようなことをする場合もある。暗殺者を暗殺することすら行う。


 だがしかし、その行いは王家と王都と王国を守るための役割りであり、害することを目的としているわけではない。今のところ。将来的なことはわからないし、彼女の死後、リリアルがどう利用されるかも、王国が変わってしまうかもわからない。


 一つだけ言えるのは、金を貰って人を殺す商売をすることにはならないだろうという事だけは言える。


「人を殺すというのであれば、戦場で多くの敵を平らげた古今の英雄もみな人殺しという事になるじゃない?」

「私は英雄ではないし、英雄なんてなりたくないわ」


 そうです、ただ普通に嫁いで、良き妻善き母になりたいというのが彼女の将来展望なのだ。




「院長先生、今日もいい斬り伏せっぷり!」

「一瞬、後ろの禿げに気を取られている間に、二人まとめてだからなぁ」


 彼女の中ではずっと遠征続きで、結構な数敵を倒しているのだが、お留守番組の赤毛娘たちからすると、久しぶりに彼女が目の前で剣を振るうのをみて少々テンションが高いようだ。

 

 その声を聞き、怯える視線も感じる。訓練生たちである。


「良い機会だから、話しておきましょう」


 彼女は、今の時点で判明している、王国とその周辺で行われている王国に対する様々な魔物や暗殺者を使った工作活動、王国の民を害する活動をリリアルがどのように討伐してきたかについて話をすることにした。


 ほぼ全員のリリアルメンバーがおり、特に年少の薬師組の女の子たちは、討伐にあまり参加していないため、どのような活動をしたかを知らない事もある。また、訓練生たちは、自分たちの訓練施設がどのような勢力の元に運営され、あのままいれば何をさせられていたかを知る事にもつながると判断したからである。


「王国内にも、いくつか外部の国や組織と結託した人攫いの組織があって、幾つかは討伐したのだけれど、全部ではないのよ」

「あ、だから、僕は攫われたんだ……」


 魔力を持っている子供が珍しい平民の中で、噂になれば警護の厳しい貴族や富裕な商人の子供より簡単に誘拐できる。この話から分かるのは、魔力を持つ子供を特定し、親を含め外部に知らせずある程度の年齢になり自衛できるようになるまで隠したり保護する必要性があると言える。


 登録制、保護制度、子供の頃からの育成制度など整備する必要があるかもしれない。とは言え、余り小さなころから親元から離したり、特権意識を持たせることも良くない。魔力量が中以上の子に限定したり、いくつかの選択肢から選べるようにすることも必要かもしれない。


 あるいは……


「幼年学校・魔法学校とかあればいいのにね」


 中等孤児院が成功したのならば、王国の中に幾つかそのような施設を構築し、『王立魔法学校』として数年寄宿制で学ぶのも良いかもしれない。期間は騎士学校と同じ半年ごとの六期制などとしておけば、良いだろう。


 卒業した場合、何らかの資格が獲得でき、下級貴族の子弟の進路が広がるような、王国を支える人材となることを望んでも良いだろう。


「学費は無料……よね」

「魔力持ちの平民なら、どこかの貴族の養子にして貰って王家から奨学金をだしてもらって、卒業後は王家に仕える条件で入学じゃないかしら」


 そういった人材の囲い込みも、王国の為には必要だろう。攫われている現時点では話にならない。王都周辺はともかく、王国の周辺地域ではまだまだ貴族や地元の有力者が好き勝手なことを行っていないとも限らない。


 地方から人材が出て、王家に忠誠を抱くようになれば、この空気も変わるだろう。まして、その人間が王家の資産で育てられた『魔術師』であればなおさらだ。


 リリアルは「王都の孤児」だけを対象としている組織であるから、同じように地方にいる魔力持ちの平民がいてもおかしくはないが、その人々を掬い上げる仕組みが今はないのが問題なのではないだろうか。


『そんなこと考えてると、また仕事が増えるじゃねぇか。それに、そんなことは王太子や宮中伯が考えればいい事だ』


『魔剣』の言う通りである。藪を突いて蛇を出さないでもらいたい。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 翌日の昼過ぎ、一行は聖都に到着。先ずは保護した子供たちの振り分けを行う事になる。大聖堂で預かってもらい、子供の親に連絡を取り迎えに来てもらうか、聖都からその地へ向かう一行に加えてもらう手配だ。


 残りのメンバー十六人は、一旦リリアルで保護し教育と環境への適応を行うようにする。孤児院に移るなり、就業するにしても一年位は難しいだろう。その間に、人柄や能力、本人の希望を考えて預け先を決めていくことになる。


 魔力持ち全員がリリアル生になる希望を上げたので、第三期生として受け入れる準備を始める。とは言え、十六人に差をつけることなく、最初の一年は魔力の有無にかかわらず見習をさせる事になる。二期生とは一年違いとなるものの、それほど差があるわけではないので、お手本になるように二期生には期待することになるだろうか。


「十六人増えるって……」

「ほぼ倍だよね」

「でも、ちびっ子だから四人部屋」

「楽しそう~」

「なら、あんたも四人部屋に移る?」

「それは勘弁。もういい歳だから」


 薬師組がワイワイ、キャアキャアと話している。彼女たちが主に三期生の面倒を見る事になるだろうか。つまり、二期生はばっちり冒険者組に扱かれる段階に進む事になる。




「じゃあ、俺達は先行して準備に入るわ」

「よろしくねセバス。あなたも」

「お任せください。資料は整理して、騎士団に引き渡すようにします」

「先にかえって待ってるよー」

「「「「おーう!!」」」」


 先行するのは歩人、黒目黒髪、赤毛娘。赤毛娘はすっかり三期生の隊長気取りである。その立場で問題ないのだが。


 ギュンターを大聖堂で保護するわけにもいかず、既に聖都の騎士団に預け、帝国の裏冒険者ギルド事、暗殺者ギルドに対する尋問を行って貰うように『副元帥』の命令として騎士団の隊長に指示をしている。


 彼女がネデルで活動をしている事は、騎士団の幹部の間では認識されており、今回の活動も騎士団として捜査に役立てる重要な証拠ないし、参考人であると考えているとか。


 回収した資料は、錬金術と暗殺施設のものに分け、後者は全てリリアル傍の騎士団駐屯地に提出することにしてもらった。聖都は聖都で仕事が多いであろうし、騎士団本部で資料として保管すべき内容であるためだ。




 一台の魔装馬車が聖都を離れていき、彼女と伯姪もここで別れる事になる。


「では、皆の引率をお願いね」

「あなたも、あまり無理せずに仕事しなさい」


 伯姪は一日ここで滞在し、子供たちのリストを作成し王宮に提出するための作業を他のリリアル生と手分けして行うことになる。名前や年齢、凡その出身地、身体的特徴などを書き記し、それを基に仮の滞在証明を発行してもらう必要がある。


 リリアルには留めることは出来るが、王都民、王国民として登録することができないからである。


「では、参りましょう」

「「はい」」


 彼女の馬の後ろには碧目金髪、そして茶目栗毛がもう一騎にまたがり、三人と二頭はアンゲラ城へとそのまま向かうことになる。


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