第477話-1  彼女は訓練生について考える

 保護した暗殺者養成所の訓練生は三つのグループに分かれる事になる。すなわち、『年少組』『年中組』『帰宅組』である。その中で、帰るべき家や街が特定できる子は聖都で大聖堂に預ける事になる。


『魔力持ちはそれなりに含まれているんだな』

「どうやって小さい子供を選り分けるのでしょうね」


 商人同盟ギルド……裏冒険者ギルドには魔力持ちを特定する『魔導具』があるという。それを用いて効率的に魔力持ちを見つけ、回収し、誘拐するのだろう。


 攫われた子供は全員が魔力持ちであり、『魔剣』が調べた結果はその子たちは魔力量が中以上の男子だという。これは、下級貴族の子供や騎士の子供がほとんどであり、孤児や親に売られた子供はいなかった。


 とはいえ、残りの子供の半分は魔力量小とはいえ魔力持ちであり、リリアルで保護することになりそうである。帰宅組は全員男子で、残りとなると、男女比は半々となる。


 聖都での滞在時間を短縮し、出来る限りリリアルに戻ることを念頭に置く。とくに、ネデル遠征に参加したメンバーは直帰とし、茶目栗毛と碧目金髪を従者として貰い受ける事にする。


「考えるわよね」

「中等孤児院では受け入れられる年齢ではないし、かといって孤児院に分けて入れるのもね……」


 相応の教育を受けている訓練生とこれから学んでいく孤児院の子供では既にそれなりの差が出ているはずだ。二期生の赤目茶毛のように孤児院で保護され間もない子で、親の教育がしっかりしていた家の子供はやはり浮いてしまっていたようで、孤児院になじめなかったという。


「せっかくだから、この子達も一緒に育ててあげたい気持ちはあるのよ」

「けれど、薬師組は孤児院からの選抜者がいるし、使用人組も同じ。魔術師は別枠だから問題ないとして……」

「魔力のない子達の扱いがね」


 一番良いのはルリリア商会かルーン商会、老土夫の工房での見習として

採用されるのが良い。それでも、八人を受け入れるのは難しいだろう。離れて

生活する不安も子供にはある。


「何かいい案はないかしらね」

「考えましょう。折角、であったのだから」


 帰宅組六人、魔術師組八人、魔力無し組八人。最後の八人は、どうすればいいのか、

まだしばらく時間はあると思われる。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「暗殺者より、魔術師の方がカッコいいよな!」

「悪い奴らをやっつけて、騎士様になるんだぜぇ!」


 魔力組は、すっかり魔術師になる気満々で盛り上がっている。帰宅できると六人も集まって和やかにしている。魔力無い組の八人は……不安そうだ。


「ぼ、僕たちなんでもするから、い、一緒にいさせてください!」

「ちょ、ちょっとくらいなら、エッチなことも頑張ります!」


 誰だよ、余計なこと吹き込んだ奴。八歳児がエッチってなにすんだと誰かが突っ込む。


「とりあえず、出来る限りバラバラにならないように考えるから、ご飯を食べてゆっくりしましょう。それに、もう暗殺者になる必要もないし、人を殺さないと教官に殺される事もないのだから、その事を喜んでちょうだい」


 彼女の言葉に八人がそれぞれ頷き、仲間同士で話をし始める。まだ何も決まっていないのだから不安なのはお互い様だ。ただ、何となく仮の考えは建っている。


 三期生以降もリリアルで教育をし将来的にメンバーとして確保することを考えて、敷地内の寮は空き部屋が多数ある。先ずは四人部屋に改装し、二部屋(男女一部屋ずつ)を四部屋確保するだけの簡単な作業だ。


 読み書き計算の進捗度合いを確認し、一年程度教育をし落ち着いた状態から見習に出してもいいのではないかと思うのである。勿論、リリアル生の騎士の『従士』という選択肢もあるだろう。


 一般の騎士よりも装備の管理に手間はかからないが、今後は馬の世話なども加わって来る。冒険者・騎士の仕事の見習をしつつ、将来的には魔力が無くとも冒険者・騎士として活動できる可能性も出てくる。


 同じ経験を共有したメンバーで長くチームを組むというのも、悪くない選択だろう。リリアルの遠征に、必ずしも魔力持ちだけで編成する必要もない場合も少なくない。彼女や伯姪の従卒にしても、今後は必要になって来るのだ。


「なんとかなるわよ」

「なんとかするわ」

「なんとかして」

「「「誰だよ」」」


 最後の一言は赤毛娘。今まで最年少であった彼女にとって「お姉さん」扱いされるのは嬉しくてたまらないようである。それに一気に二十二人……小さい彼女が一人前の冒険者として活躍してきただけでなく、竜殺しの英雄の一人であり、自分たちと大して年が変わらない孤児にもかかわらず既に王国では『騎士爵』となっていることに驚いたようだ。


――― 赤毛娘大人気。特に男子から。が、モテているわけではない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る