第466話-1 彼女は『養成所』襲撃を打ち合わせる
「自爆装置ね……どんなものなのかしら」
「寮に監禁したまま建物ごと燃やす装置ね」
「「「「……えええ……」」」」
彼女の答えにリリアル生もドン引き。生きたまま閉じ込められ焼き殺されるとすれば、どれほど苦しいのか想像もできない。異端審問の処刑方法が『火刑』である事を考えると、発想は同じなのだろうか。
人の子は燔祭の羊ではない。
「では、簡単に説明するわね」
第一段階、二箇所の城塞の出入り口を癖毛と歩人の『土』魔術で外から
固めてしまい開城できないようにする。
「硬化もさせて、突き崩せないようにお願いね」
「……大変そうだぜぇ……」
癖毛と比べ魔力量の劣る歩人はやや涙目である。土魔術はこれで終わりではない。夜中から作戦開始。その後、城壁の守備兵を「無力化」、魔力走査を用いて城内の魔力保有者を特定、チームで同時に襲撃し複数を一度に討伐する。
第二段階は、警戒中の守備兵の無力化、教官・職員の隔離・討伐の段階である。警戒中の守備兵は気配隠蔽から通常に討伐する。可能であれば、魔法袋内に収容し死体を隠す。
「恐らく、指揮官や有力な者でしょう。最初に始末してしまえば、組織的な抵抗を防げるわね」
「魔術師並の者が一人か二人いると思います。魔術を訓練生に見せ、対応できるようにするためにです。それは、幹部ではありません」
「……そうなのね。でも、魔力持ちの優秀な暗殺者がいるのでしょう?」
「それは、実務的にはその通りです。ですので、教官や施設の幹部には優秀な魔力持ちは一人程度で、それも専属ではなく交代制か、怪我で一線を退いた者が魔力持ち暗殺者の教官を務めます」
「元魔力持ち暗殺者」訓練生であった茶目栗毛の意見は正しいのだろう。とはいえ、闇夜の中で襲撃するには魔力持ちを魔力走査で見つける方が容易である。
「それと、襲撃前に、魔力持ちではない教官の部屋は外に窓から出られないように土魔術で埋めてしまいましょう。建物の中側は固定は難しいわよね」
「……それこそ燃やしちゃえばいいんじゃないかな。油球撒いて、出て来たところで着火すれば。誰でも出来る簡単なお仕事?」
「「「「採用!!」」」」
赤毛娘、発想がエグイのは彼女の姉の影響だろうか。良くない傾向である。
「魔力持ちの討伐は?」
「ツーマンセルで突入。首を刎ねる。頭のみ回収」
「妥当ね。全体が残っていると、アンデッドの素材になるでしょうし、最悪、ノインテーターの可能性もあるから」
魔力持ちで、ノインテーターが反応する可能性もないわけではない。ノインテーターの脅威は周囲への『狂戦士化』であるので、単独であればオークかオーガほどの脅威度である。冒険者組なら問題ない。
伯姪と赤毛娘、藍髪ペア、茶目栗毛と赤目銀髪、彼女と歩人、灰目藍髪と癖毛⇒(NEW!)の五組十人。
「私も加わるのですか」
「土魔術師の護衛だと思って頂戴」
「……かしこまりました」
実際に突入するのは四組で、窓埋めの為に参加する癖毛の護衛を委ねるということになる。相棒の碧目金髪とは別行動。
「がんばって!」
「あなたもね」
碧目金髪は薬師組の指揮官担当になる。薬師組はミアンでの経験はあるものの、城塞を攻めるのはもちろん初めてである。冒険者組は、聖都郊外の廃城やワスティンの森の古城、ガイア城のアンデット討伐の経験もある。意外と経験豊富だ。
第三段階。自爆装置の解除と掃討作戦。
第四段階。子供たちの救出ということになるだろうか。
「ねえ、救出した子供は……どうするつもり?」
伯姪が皆を代表するかのように確認する。彼女の中では決まっている部分もあるが、まずは茶目栗毛の意見を聞きたい。彼女に、どんな子供たちがいるのかきかれ、茶目栗毛が答える。
「見極め前の子達は……正直千差万別です。組織の運営する孤児院から連れてこられたもの、浮浪児で連れてこられたもの、誘拐されたり売られた者。その中で、見た目・能力に適性があるものが連れてこられます」
聖職者・商人・職人・従士……その職業の適性のある者が選抜されているのだという。つまり、暗殺者としての技術はその後に習得するというのである。
「基本的な武器の操作は習いますが、いわゆる暗殺術以前に相手に警戒されないだけの職業的な能力を身に付けさせるんです」
「相手が怪しく思わないようにね?」
彼女の問いに茶目栗毛が頷く。本人は「貴族の従者」あたりを目安に育成されていたのであり、知識だけでなく騎乗、馬車の扱い、手紙や書類の作成に加え、古代語・帝国語などの読み書きもかなりの程度まで習得しなければならなかったという。勿論、剣や槍の扱いも一通り教え込まれた。
「なら、中等孤児院に編入できるかもね」
「あとは……冒険者とか、ニース商会の丁稚とかもいけそうです!」
赤毛娘ぇ……ニース商会大好きっ子である。確かに、鍛冶や金物細工、奉公人などであれば、関係のある所で雇う事も出来るだろう。この世界の大半は農民であり、それ以外の職業人になるには子供の頃からその世界で暮らす必要がある。遍歴職人のような制度があるので、見ず知らずの職人が紹介状を持って領邦を行き来するのはさほどおかしくはない。
故に、商人・職人になり切り、副業として暗殺者を行うような体制も整えているのだろう。家庭を持ち、ある場所に定着すればその環境自体が命令を順守させる枷となる。そういった目的もあるのかもしれない。
「個別に聞き取りをして、当初は聖都で預かってもらうことになるかもしれないわね。その辺りのお話は、既に相談しているから問題ないわ」
聖都駐屯の騎士団の分屯所と大聖堂付属の施設で分けて預かる事も検討している。ある程度武器の扱いに慣れている訓練生であれば、並の聖職者では相手をする事が危険だからだ。
問題は見極め後の訓練生だが、向かってくる者は大人同様討伐することは既に決めている。
「それと、屋内での戦闘を考えて、長柄は使わず、剣かメイスのような片手武器を装備してもらうわね」
「俺は魔銀のバスタードソードかな」
「久しぶりに、ザグナルを使おうかしら。随分小さく感じるけれど、小型のウォーハンマーみたいなものだから」
青目藍髪と赤目藍髪は懐かし装備を持ち出してくる。当然、伯姪は何時もの剣と盾、赤毛娘はスピアヘッド付きメイス。その他は、護拳付きの片手曲剣を装備する。いずれも、魔銀鍍金製になる。
「どの程度で制圧が完了するか分からないので、昼まで魔力が持つように調整して魔力を使ってもらいたいの。魔力ポーションを各自しっかり持つこと。それと、不足分は魔装馬車から貰うようにしましょう」
「「「「はい!」」」」
魔力小組が心配だが、冒険者組は無駄に魔力を使わなければ一日程度魔力を持たせることは十分可能だ。気配隠蔽と魔力纏いを半日かけっぱなしでも恐らくは問題ない。可能性的には灰目藍髪くらいか。
「それと、魔装馬車なのだけれど」
彼女は魔装馬車を城塞の歩廊の広い位置に固定し、銃座として利用する事を提案する。
「不意に逆襲をされたとしても、立て籠もっている分には時間が稼げるでしょうし、襲撃を受けていたとしても冒険者組で討伐するのも容易だと思うの」
「銃座が城塞の外周にある状態で、上から狙い撃ちできるのもいいわね。見回りの守備兵を討伐した後三か所に設置して、お互い死角ができないようにカバーしましょうか」
城壁を登って密かに脱出する存在を監視したり、建物の死角を利用し冒険者組を襲おうとしている存在を狙撃することもできるだろう。『導線』を覚えた魔力小の薬師組の子にはそれが十分可能だ。
「では、この内容で全員に説明し、遠征を明日から開始します」
冒険者組の打ち合わせが終わり、全体での説明を開始することになる。その前に……夕食が食べたい。
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