第466話-2 彼女は『養成所』襲撃を打ち合わせる
夕食の後、食堂を借り討伐の打ち合わせを行う。食堂の内部に六面の魔力壁を展開し、音が外に漏れないように配慮をする。念には念を入れておくのは暗殺者相手に悪い事ではない。
「では、遠征の手順を説明します」
明日朝、聖都を発ちデンヌの森を通過して森の中で一度野営をする。その後、二日目の夜、『暗殺者養成所』を襲撃し教官以下暗殺者ギルドの職員を処分し、収容されている子供を連れて聖都に戻る……という段取りになる。
「何人くらい相手をするんですか?」
「兵士が二十四人、教官が約二十人といったところね。兵士は十六人が警備についているはずで、他は宿舎で休息中のはず」
「「……」」
遠征初参加のメンバーにとっては少々衝撃かもしれない。
「ミアンの時はアンデッド一万以上いたから。五十人なんて、楽勝よ」
「けれど油断はしないでほしいの。相手はベテランの暗殺者を含む練度の高い者たちだから。反撃される可能性がそれなりにあるわ」
不安そうな薬師・二期生組に、『魔装戦車』に立て籠もり、警戒することが主な仕事であり、城壁の上から監視し狙撃することが主な任務であることを告げる。
「銃で狙って撃つだけですか?」
「当てて頂戴。今回、大人は全員捕虜を取らないの。だから、頭でも胸でも一撃で致命傷になる場所を選んで構わないわ」
「「「一撃必殺!!」」」
通常のマスケットでもそうだが、魔装銃の弾丸なら拳大の穴が開く。手足ならともかく、胴体なら確実に死ぬ。
「生かしておけば人に害をなす存在だから、殺すことが良い事なのよ。だから、遠慮する必要も躊躇する必要もないわ。ゴブリンがたまたま人の形をしていると思って頂戴」
「いや、人の形してますよねゴブリン!!」
「「確かに」」
余計な事を言うのは、二期生灰目灰髪『グリ』十歳である。物言いが、入って来たばかりの頃の癖毛のような捻くれ感がある。まあ、癖毛程ではないが。
「余計な事を言うな見習」
「……」
「あ、後輩虐め発見!」
「虐めじゃなく躾。院長の発言は絶対」
そこまでではないが、余計な軽口を言っていい場面と悪い場面がある。緊張の裏返しかもしれないが、余計な一言であることは間違いない。
「初陣だから緊張しているというところかしらね。そうね……特別に、生け捕りにした暗殺者に止めを刺させることにしましょう。余計な口をきいたご褒美と言ったところかしらね」
「「なっ!!」」
二期生の二人の顔が引きつる。十歳と十二歳。勿論、人を殺したこと等あるわけがない。
「ゴブリン討伐の経験はさせているのだから、変わらないわよね」
「まあ、人間の言葉を話す珍しいゴブリンだと思う」
「いや、人間の脳を食ったゴブリンは人間の言葉話すから。別に珍しくないと思うけど」
「「え!!」」
二期生、人間の脳を食って学習するゴブリンのことを知らなかったようである。ゴブリンの魔剣士・ジェネラルクラスはそういった進化の系譜を経ていると思われる。
「とにかく、二期生の中で男性は二人きりだから、色々経験してもらう必要があるの。女の子の手を汚させて自分は後ろで隠れているような真似をしないように心がけて貰いたいからね」
「「……はい……」」
「よろしい」
二期生の中で男子二人を同行させたのはそういった意味がある。とはいえ、村長の孫娘を含めサボア組は二期生女子でも参加しているのだが。
「他に質問は?」
「作戦中は食事をどうしますか」
良い質問だ。煮炊きする余裕はないので携行食で済ませる事になる。
「馬車に残る監視組は交代で時間を決めて休憩を。冒険者組は馬車に引き上げ交代で食事と休息を取りましょう。夜が明けるまでに大勢は決まるのだけれど、明るくなってから確認したいこともあるから、夜中に作戦を開始し、昼までには終わらせたいと考えています」
制圧後、移動は翌日の朝からになるだろうか。制圧後の食事の用意は、ギルドの施設が使えると良いのだが。それでも、収容されている子供の数が数十人レベルだと、食事の用意をするだけでも大変な気がする。そこは、パンとワインくらいで誤魔化すべきだろうか。
「安全確実に始末するわよ! 遠征は学院に帰るまでなんだから、みんなしっかりやるのよ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
と、伯姪が締めの掛け声をかけ、少し明るい感じの場に収まる。とりあえずは、目の前の役割を果たす事。それに集中させるのが良いのだ。あれこれ考える余地を未熟な遠征未経験者には与えるべきではない。
「さっさと寝ようぜ」
「明日から三日くらいはまともに寝られないからね」
冒険者組の慣れているメンバーはすでにスイッチを切り替えたようだ。不安そうな二期生に軽く声をかけ寝室に引き上げていく。食堂をいつまでも占拠しているわけにもいかない。解散を宣言しベッドに入るように促す。
「さて、どうなるかしらね」
「早く片付けたいのはやまやまなのだけれど。子供たちのこと、組織の情報回収と考えることが山積みね」
「オラン公との立ち合いもあるし、あなたは大変ね」
伯姪も彼女がいない分、一人で副院長としてリリアルを率いねばならない大変さがある。自分たちだけで活動していたころと比べると、今は随分と仕事が増えたとお互いの身を嘆き合うのである。
翌朝、四台の馬車に分乗し、リリアルはデンヌの森へと進んでいく。森の中で一泊し、翌日の夕方には養成所のそばに進出。夜中を待って襲撃を開始する。
長らく王国の北辺を騒がせていた暗殺者と帝国の影響を受けた組織の討伐が為されようとしていた。
「これで王国も少し落ち着くのかしらね」
『じゃなきゃ骨折り損だろ。縁起でもねぇ』
『魔剣』の反論はもっともなのだが、その存在が王国に対する復讐という土台の上に存在しているのであれば、簡単に消えてなくなる事は無いと彼女は考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます