第457話-1 彼女は父と娘の再会に立ち会う

「妹ちゃん、この生首とダンボア卿はどっちが剣士としては上なんだろうね」


 恐らくはルイダンの方が圧倒的に上だろう。


『あらぁ~アイネローゼったら随分はっきり聞きにくいことを聞くのねぇ~♪ アリエンヌちゃんがこまってるじゃなぁ~い』


 現在、『アルラウネ』はシャリブリ工房に植木鉢という名の樽ごと滞在している。日の当たる中庭に面した窓が定位置だ。なんだか、クネクネしているのだが、姉も合わせてクネクネしているが気にしないでおこうと彼女は思う。


「いや、だって、どう見ても『ゴラム』は口だけでしょ?」

『だだだだ 誰がゴラムだぁ!!』


 とある呪われた妖精の名である『ゴラム』と言われ激昂する。沸点が低いノインテーター。生前の性格そのままなのは伸びしろを感じない。


「いいのよ、ダンボア卿は決闘の動きが染みついているし、勝負をつけたいわけではないもの。要は、生身……動く稽古台として手加減せずに斬りつけ射ち放てる標的が欲しいだけですもの」

「……妹ちゃん……」

「何かしら姉さん」

「妹ちゃんの物言いも過激だと思うよ」


 因みに、ノインテーターは死なないだけで痛覚は健在。つまり、斬りつけられれば出血もするし痛みもあるらしい。そんなの知らんがな。『魔剣』曰く。


『実際、痛みで喚き散らし反撃してくる奴もいるから、初心者には得難い経験になるから丁度いい』


 一期生は王都周辺でゴブリンを狩る事で経験を積んだが、今時王都周辺に早々魔物はいないのだ。逃げ去ったか狩り尽くしたかは定かでないが。二期生の経験不足を補うために『ガルム』を連れて帰る事になる。


『大丈夫よぉ~わたしが魔力を注げば復活するからぁ~♪』

『でも痛いものは痛いのですよイリス殿』


 非戦闘員枠ノインテーター・シャリブルが告げる。一応、訓練を受け戦場に出る可能性も検討したが、あまり個人的な武技は身に付かなかったのだという。狂戦士発動体としてのみ必要とされていたので、実際、戦場にはほぼ出ていないのだと言う。


「オーガくらいなんだよね?」

『そうだ。驚け!』

「ん? 私、アンデッド? グール化したオーガ討伐したことあるから大丈夫」

「そうね。吸血鬼化したオーガも討伐したわ。鉄腕とか言う二つ名持ちの元帝国騎士よ。名前くらい聞いたことがあるでしょうあなたでも?」


『ガルム』の表情はひどく歪んだ。とんだ強者がここに二人もいるのだ。


「た、単独ではないのだろう?」

「当たり前じゃない」


 一瞬安心する『ガルム』。


「花を持たせてくれたのでしょう? 私も同じよ」

「そうそう、目立ちたがりは嫌われるからね。分を弁えてるから私」


 少なくとも彼女の姉は、呼ばれてもいない討伐に強引に参加、赤毛娘と無理やりタッグを組んで割り込んで処罰したと記憶している。彼女はまあ、その通りなのだが。


「こんな感じの、トゲトゲの付いた魔銀のフレイルヘッドが炸裂するんだよ!」


 魔法袋からお気に入りの『ホースマンズ・フレイル(魔銀ヘッド)』を取り出しブンブンと振り回す。


『これは、オーガの頭程度ならはじけ飛びそうです』

「頭が炸裂するのよね。実際に」

『……け、剣で勝負だ……』


 姉は別に剣が苦手というわけではない。魔力が通せれば何でもいいのだ。





 しばらく工房で話をしていると、『猫』がやって来る。


『主、オラン公と直卒の騎士団は無事敗走中です。まもなく、リジェの放置されている野営地跡へ到着する予定です』

「そう。ありがとう。姉さん、宮殿まで戻ってもらえるかしら」

「いいよ! マリアちゃんと司教猊下と公爵閣下で会食でもするんでしょ?

立ち会うよ」


 リジェとオラン公の秘密協定の打ち合わせ会になるだろう。幾人かの参事会員、司教とオラン公、彼女達にルイダンも同席することになるだろうか。観戦武官としてルイダンは申し分ないが、社会的地位は「王国の騎士」に過ぎない。比べて彼女は「王国副元帥」であるから、オブザーバー兼仲介役として申し分ないと言える。


「あーあー 妹ちゃんこんな会談成功させちゃうとさ、外交の場にも参加させられちゃうよ、これから先はさ」


 姉の不吉な予見を聞きつつ、王国とリジェ、王国とオラン公の今後を考えると、姉やルイダンでは立場が軽すぎると判断せざるを得ないので不参加はあり得ない。後々面倒そうだとは思うのだが。



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