第446話-2 彼女は『小太』と対峙する
草を刈れば刈るほど、再び生えてくるまでの時間がかかるようになる。蓄えたエネルギーを使い切れば、無限に見える再生能力も枯渇する。
つまり、今までの『不死性』というものは、そこまで継続してダメージを与えられなかった故の錯誤であるのだろう。
「これでも喰らえ!」
魔銀の鏃をコンスに一本、また一本と命中させていく赤目銀髪。身体の能力が格段に増したとはいえ、脳の処理能力までは改善していない。二人の剣士を往なすだけでも精一杯のコンスにとって、第三の弓手の攻撃は完全に不意打ちとなる。
弓を気にすれば、二人の剣士から容赦のない斬撃や刺突を喰らう。
『俺はぁ……俺わああああああ!!!』
彼女がおもむろに秘密兵器を出す。そして、その動きを確認した三人が、同時に攻撃を繰り出そうとする。
矢が突き刺さり、気を逸らされたコンスに一瞬で踏み込んだ彼女が、口の中に柄のある何かを叩き込む。
「いま!」
彼女が飛びのくと入れ替わりに、『ゼン』と灰目藍髪が同時に踏み込み、前後から首を刎ねるように剣が一閃する。
『があぁ……かはっ!!』
柄のついた物の先端には『銅貨』が溶接されていた。口の中に銅貨を入れた状態で首を刎ねる難易度を下げる為に、銅貨をスピアヘッドにしたメイスを作成したのである。これなら、前歯をへし折ってでも口の中に『銅貨』を押し込むことができる。
そして、無理やり口の中に『銅貨』を押し込まれたコンスは、シュウシュウと煙のようなものを吐き出しながら、顔が崩れ落ちた首が消し炭のように朽ち果てていく。
「貴族の子弟であるとしたならば、相当な愚か者であったのでしょうね」
「身の程知らず」
「でなければ、側仕えがいるような身分の貴族の子弟が、放り出されるはずありませんね。余程生まれつきの性格が悪かったのでしょう」
当主となれずとも、頭が良ければ聖職者に、真面目で勤勉であれば主家の側仕えに出仕することも可能であったろうし、騎士となる将来もあったはずなのである。それが、放り出されたということは……相応の人格であったのだろう。
「一定数いるものなのね。自分を客観視できない貴族の子弟というものは」
『お前もそうだぞ。だから……』
「それは、今は時期ではないというだけであって、伴侶は得られると思うの。ええ、問題ないわ」
問題だらけである。
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想定より強力であったノインテーター。やはり、雑兵レベルの者と、多少騎士としての訓練を受けたものでは能力の伸長幅が違うのかもしれない。
今一つは、ノインテーターの打撃を往なせるか否かという面である。恐らく、アンデッド相手の前衛を数熟している伯姪・赤毛娘、蒼髪ペアあたりであれば容易に往なせただろう。
しかし、『ゼン』も灰目藍髪においても、前衛で強力なアンデッドと対峙する経験は今回が初めてである。故に、不要不急なダメージを受けた面がある。
「攻め方は良かったわ」
彼女は直前の戦闘を顧みて三人に向けて言葉を伝える。
「次はもう少し上手くやれると思います」
「攻撃より、攻撃を受けないように工夫を優先します。受けるのではなく、回避優先で」
「いのちだいじには大事」
彼女は、三人になってからの攻撃はとても効果的であった事も指摘し、褒める。
「元の人間の思考速度は変わらないようね。つまり、体の動きに頭の動きが対応できていない。そこに付け入る隙があるわ」
三人は頷く。
身体能力の上昇に思考能力が付いて行っていない。その上、全能感を感じているのだろうか。生身の人間を余裕で虐殺してきた侮りを彼女は感じていた。
「さて、次は何が出るかしらね」
陰影の重なる東を避け、彼女は西の回廊を目指したのである。
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