第445話-2 彼女は今一人の魔剣士を想定する

 二人目は『コンス』という小太り、髭面の元貴族の子弟で傭兵隊長になったうだつの上がらない中年だという。


 借金に借金を重ね、そこそこの傭兵を配下にかき集めたのだという。但し、所詮は金でかき集めた戦力であり、コンスに対する信用が無く、指揮官として信頼を得る事は出来なかったと思われる。


 結果、副官を始め傭兵隊はそれぞれの小隊長が独自の判断で戦闘を行い、そのまま戦場を離脱。戦場に一人放置されたコンスは、敵に捕縛され、身包みはがされた後、貴族ではなく傭兵であることを知られリンチにより半死半生となる。


『あれだ、身代金請求できないと思われたんだな』


 高級な装備を纏っていれば、名の知れた貴族か何かだと思われたのだろうが、借金まみれの名目上の『傭兵隊長』では、取るものも取れないと判断され、装備だけ奪われ嬲殺しにされたということだ。


『すっご~く、人を恨んでいるっぽくってぇ。あんまり気乗りしなかったんだけどぉ、断ると根切されそうだったから……ね~♪』


『アルラウネ』的には、話をしていても妄想・自分語りが激しい人格で、それも、ノインテーターとなった後、ゆがみが激しくなったのだという。


「即処刑でいいわね」

「「異議なし」」


 ということで、髭ズラ小太りのノインテーターは見つけ次第処刑することが確定した。





 三人目は『ドレ』。傭兵隊で副隊長をしていた気のいい実直な男であったという。


『見た目は普通のおじさんなんだけどぉ、優しくてぇ気のいい人なのよぉ~♪』


 中年の歳を重ねた傭兵であり、その出自は帝国の貧しい騎士の息子であったという。


 長男でないドレに継ぐものなどなく、農民同然の生活に嫌気のさした少年時代に、家出同然で飛び出し、何とか従騎士になることができたものの、実家の支援のない彼には、騎士となるのに先立つものが用意できなかったらしい。


「……身につまされる話です」


『騎士』になれなかった私生児の灰目藍髪には我が事のように感じられたのだろう。


 やがてドレは傭兵となる。金がないなら稼げばよいとばかりに。頭もよく、読み書き計算、交渉事もこなすドレは傭兵の中でも隊長たちに目を掛けられるようになり、隊の幹部となることができた。


『でもぉ、隊長にはなれなかったのよぉ』


 傭兵隊の隊長は、いわば商会の会頭である。つまり、仕事の依頼を受ける事になる『貴族』と対等に扱われねばならない身分が必要となる。帝国貴族、伯爵辺りの三男や庶子が隊長を務める事が多いのは腕や頭脳ではなく、仕事を受ける階層との接点の有無によるのだ。


『悔しかったんだってぇ。傭兵も上に行くには身分が必要だって骨身に染みたってねぇ……』


 騎士の子として挫折し、傭兵としても挫折したドレは無茶をし、そして死にかけた。そこをスカウトされて、人間の枠から外れ戦争機械となり果てたようだ。





 四人目は『ガルム』。若い貴族の四男坊で、魔力持ちだったがその力にうぬぼれ、気安く戦場に出て失敗した男で、割りと優男らしい。


『割といい男なのよぉ~♡ でもぉ、おバカちんねぇ』


 とアルラウネはやや貶める。どこかの近衛騎士が三人の頭上に描かれる。


『ほら、ドレとは真逆よねぇ。家柄とコネと、生まれついての才能と、そこそこ揃っていたからぁ、実力も大して無いのに背伸びしちゃったみたいなのよぉ~♪』


 顔と家柄、そこに期待し利用しようとして集まってきたベテラン傭兵達に利用され、結果、最後に捨て去られた事で半死半生となってしまったことにガルムの挫折は起因する。


 騙され、裏切られたことで、戦場で傭兵を殺す事、そして、自らの支配下に存在する狂戦士化した傭兵を道具のように使い捨てる事に喜びを感じるノインテーターになっているのだという。


「自業自得ではないかしら」

「貴族の子弟には多いタイプですね。血筋によりもって生まれた能力に満足し、自分自身に万能感を感じている……幼児のような人格だそうです」


『ゼン』も、親衛騎士になりたいとやってくる、生まれの良い貴族の子供にうんざりした事が多々あるという。騎士でありながら、自ら仕える者の為でなく、自身の名誉欲を満たす為に行動する。灰目藍髪は聞いた話だがと伝える。


「そういうルイ・ダンボアって奴知ってる」

「偶然ね、私もよ」


 ルイダン随分な評価である。最近は改善したが。




 彼女の中で、四体のノインテーターのうち、『シャリブル』以外の全員が即時討伐の対象であると判断された。


 自分の人生に対して恨みつらみを重ねた存在が、他者を傷つけずにいられるわけがない。そもそも、ノインテーターの力を使ったのち、『アルラウネ』の魔力を与えられなければ、『不死』の体を維持することは出来ないだろう。


 つまり、『塵は塵に』である。


 馬車に戻り、ノインテーター討伐の準備を進める。銃は用いず、魔銀の剣で首を刎ね、秘密兵器を口の中に差し入れ塵へと返すことにするだけだ。


「セバス、もう一度掩体を作って隠れていてちょうだい」

「任せておけよでございますお嬢様」

「隠れるのだけは一人前」

「おい!!」


 歩人は背が低いため、草丈の高い草原などで巧みに隠れてしまうのだ。そして、気配隠蔽も得意とする種族である。


「突入は四人。前衛は……」


 ツーマンセル二組の四人組。前衛は『ゼン』と灰目藍髪の二剣士。後衛は、赤目銀髪と彼女の魔術師。魔剣士とノインテーターのどちらが強力かは不明だが、少なくとも、サブロウ達よりは経験と能力の高い傭兵がノインテーターとなったと考えた方が良いだろう。


 只の農民上りの傭兵と、貴族の子弟・騎士の子として訓練を経ている者では当然、能力は異なるからだ。


「行きましょう」


 彼女は『魔剣』を片手剣の形に変えると、小城塞に向け歩き始めた。


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