第426話-2 彼女は二人の問題を指摘する
「魔力壁……奥が深い……」
「練習方法をお教えしましょうか?」
「ぜ、是非に!!」
『ゼン』と灰目藍髪は、馬上で会話しながら『魔力壁』の練習方法について話始めていた。先ずは掌に魔力を集め、丸くまとめる処から始まり、その形を方形、平たい板のように成型する……と続いていく。
『ゼン』は、魔力量がそれなりなので、連続した練習でも問題なく継続でき、灰目藍髪に大層羨ましがられている。
「あれ、俺もできると思うか?」
「できるかどうかではなく、やるかどうかでしょう。何を言っているのかしら」
「……」
ルイダン、赤目銀髪十一歳に軽くひねられ、傷心なのである。
「おじさんってホントめんどくさい」
「そうですね。確かに」
「俺はおじさんじゃねぇ!! まだ二十一才だぞぉ!!」
叫ぶルイダン。だが藪蛇であった。
「私の二倍生きている。十分おじさん」
「まあ、俺はまだ若いって、典型的なおじさんあるあるですよねぇ。ぷーくすくす」
ルイダン……王宮が恋しくなってくる今日この頃である。
冒険者的には、一度メインツに入ってアジトで出発の準備を進めつつ情報収集をしたかったのだが、今回は『観戦武官』ルイ・ダンボアをオラン公に先に引き合わせる必要がある。故に、ディルブルクに先に向かい、ルイダンを引き合わせ、ここでルイダンはオラン公軍に同行。
残りの五人でメインツに向かう予定だ。できれば、オラン公軍と完全に同行するのではなく、その外側で情報を収集しつつ、ネデル総督府軍の指揮系統を乱すような工作を行いたいと考えている。
『南部遠征は散々だったからな』
「北部遠征もね。恐らく、今の時点で明確にオラン公に与する都市はないでしょう」
拠点となる都市をオラン公は欲しているが、少なくとも南部には設ける事が今の時点では相当難しい。敵地という海に浮かぶ小島のようになるからである。
密かに連合王国や帝国からの支援を受けるにしても、また、私掠船の活動を支援する為にも海に面するか、外港を持つ都市でなければ拠点とする事が難しい。その為の北部遠征であったのだが、直ちにどうこうできるものではなかった。
故に、オラン公の遠征は拠点を得るものではなく、叛乱の『盟主』として内外に名乗りを上げるための活動となるだろう。ある程度の都市を包囲するか攻略し、総督府軍と一戦交え、後日を期すという形で敗戦は覚悟しつつ、南部の諸都市に伝手なりコネは残していく……という事になるか。
『遠征軍に紛れて密偵の類を各都市に潜り込ませるんだろうさ』
周辺の農村に住む住人も戦争期間中には一時的に都市の防壁の中に入れて保護することはある。そこに紛れて、オラン公軍の密偵を入れるということも考えている。
「私たちもそこに紛れ込むつもりなのだけれど」
女子供(中身はおっさん)を連れた行商と見えるリリアルであるから、ルイダンがいなければ、行商と護衛の冒険者に見える。ルイダンは……人相が悪い。
馭者台で三人が並び、魔力壁の応用について考えている。彼女と赤目銀髪は、銃弾は難しいが、飛来する矢に関しては小さな魔力壁を展開し、落す事が可能なのではないかという結論に達していた。
「小さい魔力壁は剣以外も防げる」
「矢の場合、自分に向かっていると認識できた段階でも対処可能でしょうから、剣を振る速度と変わらない時間で展開できれば問題なさそうね」
魔装を着ているので、余程でなければ貫通は防げるが、打撃の衝撃は全く受けないわけではない。数が多く命中するなら、魔力の損耗も馬鹿にできない。
「だが、一瞬で判断して展開できるのか?」
ルイダンの素朴な疑問。
「できるできないではなく、できるまでやる」
「最初からできる人なんていないわよ。練習あるのみではないかしら。練習……見てあげても良いわよ?」
「……」
今回の遠征中に出来るのは、恐らく、魔力を直接外に出して固定するところ即ち、『ゼン』が灰目藍髪に教わっていることまでであろうか。
そもそも、騎士や魔剣士は『身体強化』と『魔力纏い』のみに特化している使用が多い。前者は体内で魔力を持って筋力などを強化することであり、後者は、身に着けた装備に魔力を流し込んで強化する方法である。両方、体に接触している魔力の発動であり、魔力を完全に外に放出しているわけではない。
錬金術師も、魔力を伝えるにはその素材に何らかの道具を通して接している。魔術師だけが、放出した魔力を操作して何かを為しているのだ。魔力量の大小も当然だが、操練方法が異なると言えるだろう。
魔装銃による射撃は、錬金術師のポーション作成のような接触を伴う活動であるし、魔力纏いの応用であると言える。魔力壁は、純粋に魔術的であり、リリアルの基本的な魔力の扱い方である『身体強化』『気配隠蔽』『魔力纏い』とは異なる。『魔力走査』『魔力飛ばし』といった魔力を外部に放出するものが基本となるだろうか。
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