第425話-1 彼女は二人の騎士を講評する

「大したことねぇな」

「賊にも魔力持ちがいるのですね。勉強になりました」


 ルイダンと『ゼン』が馬車に戻って来るなり、討伐の感想を思わず口にする。


「……遅い」

「まあまあ、初体験だからへたっぴでもしかたありません」

「騎士を名乗るにはしょうしょう心許ないかもしれませんね」


 赤目銀髪、碧目金髪、灰目藍髪が二人の立ち振る舞いにそう答える。ようは、「いまいち」と言いたいのだろう。魔力持ちの貴族の騎士にしてはである。


「まあ、こいつら慣れてねぇからな。こういうのは、下っ端の従騎士とか兵士とか冒険者が片付けてくれてっから。知らねぇんだろ……でございます皆様」


 歩人がおじさんとしてフォローしているようで、フォローになっていない。

後頭部を殴るまである。


 実際、冒険者としてそれなりの規模の魔物や賊の群れを討伐するのは、駆け出しから一人前への登竜門であり、その門をくぐる前にそれなりの人間が命を落とす事になる。


「先ずは、未経験を脱したということで良しとしましょう。課題だらけなのだけれど、今回はこれでいいわ」

「「……」」


 基本、雑魚狩りはリリアル生で半ば終わらせている。彼女は一切手出しをしておらず、村長の孫娘のサポートを全力でしただけである。


「わ、私はどうでしたでしょうか……」


 当の孫娘は、ドギマギしながらリリアル生に問う。


「良くできていた」

「初めてとしてはとてもいいと思いました」

「先生の助言無しで、今回くらい正確に射撃できれば一期生並でしょう」


 唯一の二期生参加者に、一期生は優しい。彼女も評価に同意する。


「射撃も正確、相手の動きも良く読めていたと思うわ。あとは、接近してきた敵をどういなすかね」

「……自信ありません……」


 それが普通だ。魔力頼みで無双する一期生冒険者組の子供たちの方が異常なのだ。本来、安全な場所から確実に射撃で倒す程度のことが『薬師』を主な仕事にする魔力小組の役割りなのだから、村長の孫娘は完全にミスマッチである。


「今回の遠征、経験を積んでもらいたいのはあなただからよ」

「どういう意味ですか?」


 水晶の村に戻れば、遠からず彼女は村長の補佐役として、青年組の指導者を担う事になる。当然、立場は上であっても「女だから」「戦えないから」という理由で従わない跳ねっ返りの若者の相手もしなければならない。だが、リリアルで『魔術師』としての戦いを学び、実戦の経験を積んだとなれば話は別だ。

「村長に必要なのは、村一番の剣の遣い手とかではないのは分かるでしょう。

村人の能力を把握し、敵をよく観察してこちらの損害は少なく、出来る限り相手にはダメージを与える。賊や魔物の討伐に成功したとしても、村人に死人怪我人が沢山出たら、村の生活は立ち行かなくなるわね。頭に血が上った目の前の騎士様のような者たちを上手く使えるようになることが、一番必要なことね」


 ルイダンも『ゼン』も決して悪くはないと自身は思っていた。が、リリアルではそうではないのだと、二人は思い知らされた。


「背後で馬車から狙撃できる位置に敵を誘導し、自分だけでなく、周りの人間も生かすこともできたでしょう」

「「……」」


 銃での攻撃を生かすには、馬車の位置を常に頭に入れ、撃ちやすい位置に敵を誘導するか、自分の体を置かないようにしなければならなかった。動きやすい街道上から少し離れ、相手が銃に気を取られた隙を突いて一撃で仕留める、こちらが膠着しそうなら銃で狙わせる……という手法もできただろう。


 魔力持ち三人も、銃を絡めれば、楽に勝てた可能性が高い。


「護衛や決闘とこの手の討伐は根本的に違う。自分だけで何とかするために時間を掛けて戦う必要はない。味方の誰かに攻撃させて、上手く処理できるならそうすべきなの」

「そうですね。銃だって魔法だって使えたわけですし……反省します」

「……」


『ゼン』の場合、親衛騎士の指揮官となれば、『魔剣士』『魔術師』だけでなく複数の護衛を生かす仕事になるだろう。自分一人でどうにかする以前に、味方を生かせるかどうかも大事な仕事になる。ただ、近衛騎士であっても、騎士学校に通っていないルイダンに関しては今のままではその機会は訪れない。


「ルイ。あなたも騎士学校に行くのだから、味方を生かす方法を常に頭に入れておきなさい。何のために、殿下が観戦武官の仕事をわざわざあなたに与えてくださったと思っているの。一人の剣士として評価される以上の存在になって欲しいと願われたからでしょう」

「……すまん。そうだった……殿下のご恩に報いる為におれはネデルに行くんだ」


 初めての山賊討伐、そして、なんのためにネデルに向かうのか。それを確認するための良い機会になったのであれば良いのだが。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 その翌日、討伐した山賊たちの死体を歩人の土魔術で簡単に埋め、一行はメインツを目指して移動を始めた。完全に徹夜というわけではないが、討伐したあとそのままぐっすり眠れるほど、赤目銀髪以外の神経は太くなかった。


「交代で馬に乗りましょう。馬車で休息を取りながら移動します」


 始まったばかりのネデル行。ここで体調を崩すのは問題だろう。馭者も村長の孫娘以外、主に赤目銀髪が務める事になる。


 襲った山賊以上の戦力が日中現れないとも限らないが、僅か一台の馬車を何十人もの人数で襲うのはあまりかんがえられないであろうし、魔力持ち三人を擁する山賊が何組もあると思えない。


 今は、ルイダンが荷台に座り、彼女が後方の警戒をしている。割と近い距離。彼女はルイダンに話を聞いていた。特に興味があるわけではないが、王弟殿下との関係を考えると、側近の人となりも把握したいと考えていたからだ。


 貴族の子弟、二人目三人目の男子の行く先というのは、聖職者や騎士、傭兵などであろうか。ルイダンは、王弟殿下に取り入るために近衛騎士となったと彼女は考えていた。だが、『聖騎士』という存在もある。


 聖母騎士団には、神国出身の騎士も少なくないが、法国、王国出身の騎士達も多い。聖騎士団に所属し『聖騎士』となるには、生まれつき『貴族』の子弟として生まれなければ務める事ができない。これは、王国騎士団のように広く人材を求める新しい時代の組織と異なる、『青き血』を必要としているということなのだ。


「何故、近衛騎士になろうと考えたのかしら」


 彼女からすれば、真に騎士らしくあろうとするのであれば、先般彼女の義兄が戦ったようにサラセン軍と直接対峙する『マレス島』の聖母騎士団に入団すればよいのではないかと考えるのだ。


「あー、いろいろあるのだ」

「……いろいろ……」


 ダンボア曰く、次男や三男であれば聖職者としての道の一つとして『聖騎士』を目指すのは十分意味のある選択肢なのだという。ただし、その場合実家からそれなりの資産を受け継ぎ、寄贈する必要がある。定期的な献金もひつようなのだという。


「大体、実際の戦いを行うのは下っ端の傭兵や従騎士達だろ? 子爵の中でも大して所領もない家の四男坊なんてのは、絶対に平騎士止まりだ。それに、数年は宿舎で修道生活、その後も妻帯もできなければ女を供に住まわせることもできない。修道士と表向きは同じだからな」


 ある程度の年齢になれば、愛人をコッソリ囲う事もできるというが、同居はできない。修道士が実質的に妻帯するのは問題がある。教皇の息子娘がいるのは問題ないのだろうかと思わないでもないが、あれは名目上甥姪扱いだ。


「それで近衛」

「そうだ。王都で近衛であれば、それなりに美味しい思いもできる。実際、殿下の取り巻きをする方が聖騎士で下積みするよりも俺の性にはあっている」


 確かにそうかもしれない。少なくとも、ストイックな修道士にこの決闘マニアの男がなれるとも思えない。


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