第424話-2 彼女は二人の騎士を見届ける
「こっちは終わったぞ『ゼン』!!」
痛みにのたうち回るも、出血で絶命が時間の問題となった筋肉達磨。落ちた剣を拾い、首筋に剣を突き立て絶命を確認し、ルイダンは『ゼン』に声を掛ける。
「こっちの相手しますか?」
「いや、役割分担だろ。俺も疲れた」
数分の戦いだが、魔力の消費を抑えたとはいえギリギリの回避の連続はルイダンの決闘魂をも削り取った。二対一で隙を見せず、ルイダンの背後を守り切った『ゼン』は、それだけで十分責任を果たしたと言えるだろうが、二対一の戦いに勝利するところまで見せてもらいたい。
「ハルバード取ってもらえますか。出来れば、突き立ててください」
「そんくらいなら了承だ」
筋肉達磨のハルバードをルイダンは拾い上げ、ゼンの右前方の地面に突き立てる。
「さて、騎士の長柄遣いを見せましょう」
「「……」」
首領らしき魔剣士も、その副官らしき斥候系の戦士も、接近戦が得意のようであり、組んだらもう一人に隙を与え、死角からの刺突を受けると考えた『ゼン』はあえて対峙して均衡状態をもたらせるつもりであった。
それは、相手も同様であり、筋肉達磨がルイダンを倒したのち、自分たちは三対一で『ゼン』を安全に仕留めるつもりであったのだが目論見は外れた。
一対一では全く勝ち目がないと首領たちが感じるほど、『ゼン』の技量に隙は無かった。これも、護衛対象を守り抜くための訓練の賜物だと言えるだろうか。相手を倒すこと以上に、守護すべき相手を逃がす時間を稼ぐ、味方が現れるまでの時間を稼ぐための戦いを徹底して叩き込まれているからである。
二人の賊を視界に納めたまま、左手の剣を納め、その空いた手でハルバードの柄を握る。
「少々バランスが悪いような気がしますが……悪くありません」
魔鉛製の柄であるという事は、魔力を通すことができる。魔銀製のスタッフ程ではないとしても、悪くない装備と言えるだろう。
魔銀と比べると、魔力の伝導率が悪く、保持率も低い。魔銀の棒なら魔力で『斬れる』が、魔鉛製では精々「魔力で斬られない」程度の能力になる。燃費も悪いので、魔力持ちの貴族は使わないのだ。
魔鉛を鋼鉄に混ぜる理由は、魔力を通す事によって「折れず曲がらず良く撓る」という点にある。そう、魔力を通した魔鉛合金は「
ブンブンとハルバードの手ごたえを確かめ、スピアのように相手先端を向ける『ゼン』。
「いくぞ」
「おう」
正面を魔剣士、背後に斥候戦士が周り込む。
「いきますよ」
ハルバードを一旦引き上げ、振り降ろす。魔剣士が躱し、背後から斥候戦士が突進してくるのを、まったく見ずに気配だけで躱す。
『気配察知の能力高いな、あいつ』
これも、護衛の為に十全に身に着けている技量であろうか。死角からの攻撃を躱された斥候戦士に廻したハルバードの柄を踏み込んできた魔剣士が受止める。
「があぁ!!」
剣で受止めた柄が、その場所を支点に折れ曲がり、フレイルヘッドのように剣士の左肩にフックが突き刺さる。筋肉達磨のような腕を完全に覆うタイプの腕鎧を装備していなかったが故の負傷だ。
「思った以上に使える」
魔銀剣を弾く程度の使い方しか見たことなかった二人の賊は、痛みと引き換えに魔鉛合金が『撓る』ことを知った。それが今後活かされる事はないだろうが。
剣で受止めれば撓り、完全回避するには中々手強い。これは逃げるしかないと二人が判断し始めたその瞬間……
「げぇ」
身体強化からの一瞬の加速。斥候戦士の胴体にハルバードのスピアヘッドが突き刺さる。
そのままハルバードを残して、片手剣を持ち『ゼン』は唯一生き残った仲間の死を目の前にして一瞬隙を見せた首領に斬りかかり「パン」とばかりに長い首を刎ね飛ばした。
「おー見事」
「中々の腕前ですね。お二人とも」
「えー ゼンさんはともかく、ルイダンは……」
「ばっか、おじさんなめんなよ。髪に見放されていても腕は一番だっただろ?」
恐らく、戦場では筋肉達磨が一番頼りになっただろう。魔剣士・斥候戦士は冒険者系の仕事では有利だったと思うが、戦場では一歩遅れを取るだろう。盗賊団としては一番腕が立つ者が首領というわけではなかったようだが、それは、筋肉達磨=脳筋であったが故という事もあるだろうい、面倒ごとは適任者に委ねるという意味もあったのかもしれない。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
伏兵の掃討も終わり、赤目銀髪と歩人も馬車へと戻って来る。興奮冷めやらぬ村長の娘、そして二人の騎士。リリアル生は彼女も含め平常運転だ。
「一応、武器だけ回収してきた」
「これ、修繕する武具士って孤児院の内職でできるかな」
赤目銀髪の回収してきた武具は殆どが剣や槍の類だが、革を張った小楯なども回収してきた。それを見た碧目金髪がぼそりと呟いたのだ。
新しい武具を作る鍛冶や装具師は育成にそれなりの時間がかかるだろうが、補修に関しては騎士なら『騎士見習』当りが簡単な補修を行い整備もする。見習は大抵成人前の子供であり、七歳くらいで出仕し、さらに騎士の身の回りの世話をするには十歳前後にならないと任せられない。それ以前は、行儀見習いの類だろうか。
「考えてみてもいいのだけれど」
「まずは、リリアルの中から始める……でしょうか」
『魔術師』が基本のリリアルにおいて、魔術や薬師の訓練は行うが、本来『騎士』として学ぶべき事は最低限になっている。魔装や魔銀製の武器はそもそもメンテナンス不要に近いので、余り学ぶ機会が無いのだ。
彼女の中では、魔力が無いもしくはほとんど使えないが『兵士』として務める者も必要ではないかと考えていた。数はさほど多くなくても良いのだが、女性の魔術師ばかりでは困難な任務も今後は増えるだろうと思うからだ。
『抱えなくても、中等孤児院に振ればいいだろ?』
『魔剣』の指摘ももっともだろう。それに、鍛冶師や冒険者を目指す者の中にも武器の手入れが得意だが、戦いには不向き・性格的に難がある者もいるだろう。それらの人物に孤児院での修復の教育を委ね、孤児院との関係を生かして収入源の一つとする事もできるだろう。
なにより、彼女自身が……
「壊れた武器を直すのはうんざりしてきたわ」
ということもあるのだ。
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