第418話-1 彼女はゼンと対峙する
今回の遠征、赤目銀髪と歩人はそれなりに魔力を用いて戦えるが、魔力の少ない灰目藍髪、経験の不足する村長の娘は実際、槍を持った兵士と対峙した場合、どう対応するか見せておく必要があると彼女は考えていた。
「では始めましょう」
「……始め!!」
ズイと前に出る『ゼン』は柄を掲げるように持ち、石突を槍のように構え突くか払ったのちピックを返して打ち据えるつもりなのだろう。ヘッドが軽い分、青目蒼髪の刺突より速度が出る。そういう意図だと彼女は考える。
「シッ!」
素早い突き、そして彼女が逃れた方向にさらに体の軸を移しながら連続して突きを繰り出す。ルイダンと比べ、ゼンは槍の繰り出しがスムーズで日頃から使い慣れていることが読み取れる。
『決闘用の騎士じゃねえってことだな』
青目蒼髪の時も同様だが、このルールでは足元への武器を用いた攻撃が反則とされている。リーチの長さの優位だけでしかなく、上下への攻撃が出来ないため、実際の戦場程優位ではないのだ。それで、攻撃が単調になる分、速度を武器の持ち方の工夫でだそうということだ。
「貰った!!」
『ゼン』が刺突を繰り出し、彼女の動きが不用意に止まったタイミングを狙う。が、世の中は非情である。
Ginn!!
空中で刺突が何かに当り斜めに逸れていく。
「なっ!」
「さあ、もう一度初めからやりましょう」
「……では、いざ参る!!」
一瞬にして驚愕の表情から、真剣な顔に切り替わる『ゼン』。その攻撃は先ほどよりさらに速度と鋭さを増している。魔力の消耗を考えた巡航速度から戦闘速度に切り替えたのだろう。
『なかなか鋭いじゃねぇか』
首筋と胴、脚の付け根と攻撃可能な範囲ではあるが、上下に攻撃を散らし剣で受けにくい箇所を狙う。ピックを用いた攻撃をかわした長柄が引き戻すタイミングで再度攻撃を行ったり、持ち手を工夫して、素早く短い回転からの薙ぎ払いなど、多種多様な戦鶴嘴による攻撃を加える。
リリアル生のなかでベク・ド・コルバンを使いこなすメンバーは未だいないが、王国兵の装備としては長く用いられているモノであり、ある程度のレベルで使いこなせることが将来的には好ましいだろう。そのよい手本でもある。
「ここ!!」
Ginn!!
首を後ろから刈り払うピックの動きに、『魔力壁』を即座にごく小規模展開。その斬撃を跳ねのける。
「何やっても当たらないではありませんか」
「そうね……申し訳ないけれど……あなたもこの程度の魔力壁の展開ができなければ、両殿下の安全など守れないでしょう?」
斬り結び、相手の斬撃・刺突を躱しながら彼女は『ゼン』に問いかける。魔術師の優位性は魔力の効率的な即時展開。魔力壁が極小の盾となり、凶刃や凶弾から主を守ることができる。当然、それは、自分自身においても同様である。
「『盾無』とでも言えばいいでしょうか」
「魔力壁は効率が悪いから、魔銀製のシールドボスを用いたタージェやバックラーはあると便利よ」
「……至急対応します……」
それ以前に、魔装衣で作った「魔装手袋」で盾や短剣のような用い方は十分可能である。盾を持っていることによる示威効果は否定できないが。
結局、『魔力壁』を用いた決定打を躱す彼女の防御を突き崩す事ができず、時間切れ……いや魔力切れで『ゼン』もTKOとなる。それでも、ルイダンよりかなり長い三十分の戦闘であった。
「……はぁはぁ……あ、ありがとうございました……」
「どういたしまして。魔力纏いと魔力壁を使いこなせて、今より操練度をあげれば、十人程度の刺客に襲われても、あなた一人で十分に両殿下をお守りできるでしょう。そうなることを願っております」
「……畏まりました……必ず……成し遂げます」
未来の親衛騎士団長は、一つ目標を見つけられたという事になるだろうか。
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