第417話-2 彼女はルイダンの模擬戦を見る

 青目蒼髪は本来はグレイブかウイングドスピアを装備するスタイルだが、今回は遠征用に仮想ハルバードとしてのベク・ド・コルヴァンを用いる。これもピアスヘッドとピックは木製のものを用いている。


「……バスタードソードでは不利ではないか……」

「それなら、メイスの方が余程不利でしょう? 先ほどの対戦結果から考えれば、得物の長さの差が戦力の決定的な差ではないという事が理解いただけたのではないかと思います。ダンボア卿」

「……」


 自分が有利なときは無言で、不利な時だけ発言するなと茶目栗毛は断言する。黙らざるを得ない。


「傭兵でも徒歩立ちの者はこの手の長柄で馬上の騎士に挑むものです。どのような有利不利があるのか、経験された方がよろしいでしょうね」

「本来は、騎士学校でこの辺りの対処法も学習するんだけど……あ、ダンボア卿は騎士学校通っていなかったんだっけ?」

「知ってた」


 騎士学校では当然、騎兵と歩兵の戦闘に関しての指揮方法なども教える。実際その武具を用いた訓練も行われる。故に、こちらの長所を生かし、相手の短所をつく遣り方も相応に身に着けているのだ……本来の騎士は。


 近衛騎士は騎士学校に行くものが全員ではない。既に騎士として叙任されているゆえ、近衛連隊の指揮官となる希望者だけが参加することになっている。近衛に籍を置くだけであれば、騎士学校卒は必要ではない。


 今回のネデルでの観戦武官にルイダンを押し込んだ王弟殿下の思惑は、これまでの素行からして入学を認められないルイダンに特別な配慮による入学条件を満たさせたい……という理由がある。


 同じことを碧目金髪・灰目藍髪・村長の娘に対して行おうとしているが故の彼女の遠征同行でもある。ついでに可能であれば『ゼン』も入校する要件を満たす事になる。実戦経験者が兵士から騎士見習・従騎士に抜擢されることはありえるからだ。


 近衛・親衛騎士の二人は本来なら問題ないのだが。問題がある故の、遠征参加となる。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「始め!」


 ルイダンは先ほどと同じ構え。青目蒼髪はショートスピアと同様、胸の高さに構えて間合いに入れば突き出すようにジリジリと距離を詰める。


 牽制の刺突。武器で狙える箇所は胴体の首から股間の間。長柄で用いる足元を切払うような攻撃は狙えない故に、攻撃手段が限られる。


 その刺突に合わせるようにバスタードソードを柄に沿えるように摺り上げ、抑え込みながらの刺突。どうやら、近衛でも剣で槍を制するような訓練はあるらしく、恐らくはその通りの攻撃なのだろう。


「よっ!」

「なに!!」


 柄から両手を離すと、そのまま背後の地面に両手をつくように背を見せ姿勢を低くし、その捻った足で相手の脛を蹴り払う。刺突で前傾したルイダンは簡単に倒れる。


「がっ!! は、反則ではないか!」


 武器で狙える場所は「胴体」であるだけであり、手足を用いた白兵技はその限りではない。剣ではなく素手で首を絞めたり眼突きをするのは厳密には反則にならない。まして、足払い程度は慮外だ。


「先ほども、体当たりと蹴りで倒してますから、反則ではありません」


 そういえば、赤毛娘も倒したのは「前蹴り」である。


 そうしている間に、素早くベク・ド・コルバンを持ちなおし、姿勢を整える青目蒼髪。剣を構える前に、素早く刺突を繰り出し慌てて回避に入るルイダンを翻弄するように刺突を繰り返す。


「手首をしならせて、いい感じで連続させているわね」

「……危険よね。ピックの部分とか……」


 槍先、ピックは木製だが、ピックの反対側に付く三角に突起のあるスパイク部分は金属のままである。引っ掛ければ怪我をする。


「身体強化しているから問題ない」

「服は破れるわよ。あの方の衣装は魔装衣ではないのだから」

「「「あ」」」


 訓練中も魔装糸で織った「魔装衣」を着用しているリリアル生にとって、魔力さえ纏えば金属鎧並みの強度を出す魔装がある前提で対戦しているいつもの常識が通じないのがルイダンとゼンである。


 ゼンは王女殿下の身内として簡易な装備である魔装頭巾や胴衣、手袋などは遠征前に贈るように手配をしているのだが、ルイダンの分は完全に慮外である。


「くっ!」

「それそれ!!」


 石突まで用いて絶え間なく打ち据えていく青目銀髪。リリアル流の容赦ない攻撃は院長直伝である。


 刺突、ピックの部分を絡めた刈技、腕を狙った打擲とえげつない攻撃が延々と繰り返される。時間が五分、十分と伸びていき……


「そこまで!」

「……」

「まだやれるだろ!!」

「いや、ダンボア卿の魔力切れだ」


 これ以上時を重ねても、ルイダンに反撃の余地なしとみて、審判の判断でTKO扱いとなる。反撃の糸口さえつかめず、一方的にベク・ド・コルバンで叩きつづけられたのであるからしかたがない。





 魔力切れのルイダンの代わりに、今度はゼンが『彼女』と対峙する。ゼンの得物は……


「そう来るのね」

「ええ。勉強させてください」


 ゼンは青目蒼髪同様、『ベク・ド・コルバン戦鶴嘴』を用いるようだ。彼女は勿論、今回遠征で用いる予定のブロードソード型の片手剣である。

「勉強になると良いのだけれど」

「「「無理!!」」」


 今回の戦い方は、一期生・二期生にも見てもらいたいと彼女は考えている。実際、討伐の最中に彼女がどのように戦っているかというのは、一期生の中でもごく一部のメンバーのみ見ることができる。


 彼女は騎士でもなく剣士でもなく『魔術師』だ。魔力を用いた戦い方を具体的に腕のある『親衛騎士』相手に見せること、そして、装備で剣より間合いの長いショートスピアやその延長であるベク・ド・コルバンを相手にどのように戦うのか参考にしてもらいたいと考えていた。


『程々にしろよな』

「いいえ、それなりに相手を務めるわ」


 ネデル遠征で冒険者として同行する『ゼン』が、騎士・兵士と相対した時に、それなりに戦ってもらわなければ本人だけでなく同行するリリアルメンバーも危険になるのだから。


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