第417話-1 彼女はルイダンの模擬戦を見る
遠征に同行するのは彼女と赤目銀髪、村長の娘に灰目藍髪、歩人に『ゼン』。そしてルイダン……半分は素人である。
「では、野営の見張は三人で交代で。狼の毛皮テントは三人で仲良く遣って頂戴」
「……二人用ですねこれ……」
「一人は見張、二人が就寝。問題ないわよね?」
「「……」」
彼女の遠征用の馬車は五人就寝に改装された。魔装網のハンモック仕様である。七人では二人は馬車で寝ることができなくなり、本来、五人目……歩人と『ゼン』が交代で不寝番を務めることになっていたのだが、ルイダンも野営を経験するために、見張に立つことから、テントで三人が交代で寝る事になったのだ。
「観光に向かうわけではないのよ?」
伯姪と彼女は今回別行動だが、歩人・『ゼン』・『ルイダン』という不確定要素を考えると、彼女に負担が掛かると心配する。とは言え、二期生を加えた暗殺者養成所の掃討に向かうのは、伯姪自身も相当の負荷が掛かる。
「セバスも中々戻らないわね」
「距離もあるでしょうし、敵地に一人潜入しているのだから、危険を回避するには相応の時間を掛けているのではないかしら」
「多分、羽を伸ばしている」
「「「「大いにありうる」」」」
全然信用も心配もされていない歩人である。
ルイダンもゼンもリリアルの生活に慣れてきたある日、ルイダンから彼女に予想していた問いが発せられる。今ではゼンとルイダンはルームメイトであったりする。
「リリアル男爵の剣の腕前はどの程度なのだ?」
「……護身程度よ」
『随分と凶悪な存在から護身が必要なんだなお前』
『魔剣』がいう通りなのだが、彼女は剣自体を護身術以上に習った事はない。とは言え、三年前の時点で、当時の近衛騎士最強と思われる騎士と模擬戦を行い圧勝したのであるから、今となっては言わずもがなの実力であると推測される。
首から下の胴体と腕を攻撃範囲に制限したとして、身体強化だけに魔力の使い道を制限した模擬戦闘では、彼女の能力の数分の一程度しか発揮できないだろう。そもそも、彼女は魔術師であって剣士ではない。
「リリアルの院長に剣の腕を問うのは愚問だと思わない?」
「思わないから言っている」
「「「確かに!!」」」
伯姪の諫言めいた言葉を否定する赤目銀髪。
「なら、今回は冒険者組と手合わせしてみればいいんじゃない?」
「……姉さん。どこから湧いてきたのかしら」
「えー さっきからずっといたよね。挨拶もしたじゃない!!」
彼女の姉が途端に仕切り始める。『赤毛娘』『青目蒼髪』『伯姪』そして『彼女』の四人とそれぞれ模擬戦をしてみれば良いという。
「模擬戦……メイスでもOKですか!!」
「もち、の、ろんだよ!!」
「……木製にしてちょうだいね」
木製のメイスというのは、ほとんどワンドではないのだろうか。金属製の一体成型の鈍器がメイスで、木製ならクラブとかワンドと呼ばれる気がする。
「四人と模擬戦か」
「私も……できれば手合わせを」
「……ゼンはいつも手合わせしていると思うけど」
「いえ、せっかくなので」
結局、ゼンは彼女とだけ模擬戦を行う事になった。他の三人とは幾度か若しくは毎日行っているからだ。ルイダンは、先日の模擬戦以降、模擬戦を禁止されている。決闘の癖が抜けなければ、誰と戦っても勝てないという理由だ。
今回の四人との対戦は、その模擬戦解禁となるかどうかの問題もある。
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魔銀製のバスタードソード……は使えないので、鋼鉄製のそれを装備するルイダン。赤毛娘は木製の模擬戦用メイスを持つ。模擬戦で王弟殿下から下賜された魔銀製は魔力纏い禁止である故に使えない。また、折れたら困る。
「模擬戦は、身体強化と直接魔力を用いて相手を攻撃しない魔術のみ使用可能とします」
「……了解です!」
「承知!!」
審判は茶目栗毛が務める。今回の出番は……たぶんない。
メイスを肩に担ぐ赤毛娘。ルイダンの胸半ばほどの身長でしかない。魔術師組の中で最も小柄、二期生に比べても小さいほどだ。ルイダンは青目蒼髪程度の身長で騎士団では中程度だが、リリアルでは格段に大柄の部類となる。
「始め!!」
バスタードソードを斜め上段に掲げるルイダン。この位置からであれば斬り降ろしも中段からの刺突への変化も容易に行える。バスタードソードは片手での刺突、両手での斬撃と使い分けができる両用剣であり、間合いもレイピアと変わらない。身幅がある分重量は重いが、レイピアが軽すぎるので問題はないだろう。まして、身体強化しているのであるから。
対する赤毛娘は相も変わらずメイスを担いでリラックスしている。
「いきまーす!!」
魔力を高め身体強化を行うと、一瞬でルイダンの懐に飛び込む。直線的踏み込みであれば、剣を前に突き出すだけで串刺しになるのだが、赤毛娘の場合、メイスを装備している。
目の前でルイダンの右側、つまり剣を持って構えている側に踏み込んだ赤毛娘が何かに弾かれたようにルイダンに向かい方向を変え飛び蹴りをかます!
「がっ!」
小柄であるとはいえ一抱えもある人の体が自分の体の側面からぶち当たったのであるから、躱す暇も構える暇もなかったルイダンはぐへっとばかりに地面に叩きつけられる。
振り下ろしたメイスを倒れた顔の前で止め、赤毛娘が茶目栗毛の判定を待っている。
「それまで!!」
リリアル生であれば、据えられたメイスを躱して即反撃に出れば試合は継続となるのだが、ルイダンにはそこまでの余裕も精神も備わっていなかったようだ。一呼吸おいて試合継続の意思なしと見た茶目栗毛が試合を終わらせる。
「ダンボア卿、大丈夫ですか?」
「……い、意表を突かれただけだ。ダメージはない」
ダメージが無いのなら即反撃すべきなのだが、この辺りも『決闘癖』の範囲なのだろう。仮に、行軍中に奇襲を受け、ダメージを与えられたとしても、即反撃に出なければ相手にいいように蹂躙されてしまうではないのか。
「ダンボア卿。ダメージが無い場合、即反撃を行えば戦闘可能と判断し試合は続行されます。できれば、そうしていただけますか?」
「しょ、承知した。次はそうする」
茶目栗毛、優しさに見せた腹黒さが光る。
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