第415話-1 彼女は王弟殿下の目論見を知る
引き倒され、剣をへし折られ連敗を喫した王弟の側近近衛騎士。そして、前回の雪辱に燃えるルイ・ダンボアである。
伯姪は、いつものファルシオン。最近、少し剣身の長さを長くして、鍔元の刃の無いものに変えた。それでも、ダンボア卿のレイピアより30㎝は短いのだが。
「遠征に向け、装備も少し変えたの。乱戦なら、両手持ちも有りかなって」
「そうね。試してみるのに良い機会でしょう」
「じゃ、軽くひねって来るわ!!」
伯姪の言葉に悪気はない。だが、耳にした近衛ABと王弟殿下は不遜だと憤っている。
「ニース卿の腕はそれほどなのか」
「「ダンボア卿には敵いますまい!!」」
茶目栗毛の時は、気配隠蔽を多用して相手に的を絞らせない形で混乱させ勝利した事を知っているのだろう。つまり、純粋に剣技だけであれば、彼らの知るルイ・ダンボアは紛れもなく「勇者」としての能力を持っていると言いたいのだ。
「そうですか。恐らく、剣技だけなら、リリアルで最も優れているのはニース卿でしょう。魔力量の少ない分、随分と研鑽されておりますし、元々はニース騎士団において、幼少時から剣を学ばれている方ですから」
「「「……ニース騎士団……」」」
「ええ。彼女の敬愛する従兄が騎士団長を務めております」
ニース辺境伯の騎士団は、先代辺境伯であるジジマッチョ、そして、今代は彼女の義兄である三男坊が率いている精鋭と知られている。次男坊の活躍は未だチャンスがないので知られていないのだろう。
互いに距離を取り、剣を掲げるように構える。身長差は凡そ15㎝ほど、リーチも同様。剣の長さでは20㎝はルイ・ダンボアに有利だ。
「始め!」
ルイ・ダンボアは前回同様……ではなく構えを変えた。アップライト気味に姿勢を正し、肩の高さで剣を真直ぐに突き出す「カウンター」狙いの剣技。
「ルイはこのスタイルが得意なのだよ」
王弟殿下は腕組みをし、恐らくはこのあとのルイ・ダンボアの勝利をイメージしているのか確信気味の笑みを浮かべる。だが、剣の長さ、リーチの差からすれば、伯姪に圧倒的に不利。勝利は揺るがないと考えても不思議ではない。
赤目銀髪のように剣を絡めて跳ね上げるという戦い方もありえるが、それは想定済みなのかもしれない。
踏み込んだフェイント気味の浅い突き。だが。
Ginn!!
剣身を合わせた伯姪の
「なっ! なにがあったのだ……」
身体強化を常時行っているわけではない伯姪。これは、元々魔力量が少なかった時に身に付いた癖であり技でもある。仕掛ける瞬間にだけ身体強化を纏う。剣を合わせる瞬間、手首の力だけで剣を捻り、剣が重なった状態から剣の腹で相手の剣を跳ね飛ばしてみせたのだ。
「相変わらず、剣の使い方が上手ね」
「あれは、ファルシオンの剣に身幅があるおかげ」
「ああ、幅がある故に、相手の剣を乗せることができうるわけか」
曲剣として、支給の片手剣より少し幅広である伯姪のファルシオンである。剣を重ねると同時に捻り前に出る事で、相手の刺突の勢いを巻き上げる方向に利用したという事なのだろう。
「ふふ、なに驚いているのよ。戦場なら、そのまま死んでるわよあんた」
「……ふざけたことを。さっさと打ち込んで来い!!」
「そうじゃないと困るんでしょう?」
「……」
ルイ・ダンボアは決闘慣れしているが、決闘の時間はさほど長くない。精々十分といったところだろう。騎士団の魔力持ちも、数の多い魔物に囲まれ魔力切れで蹂躙され死亡することは良くある失敗である。
今では、魔力持ちと言えども、常時発動したままであることは厳に禁じられており、魔力纏いと身体強化の瞬間発動の訓練を重視している。つまり、今の伯姪と同じ事を訓練させられているのだ。
リリアルは、魔力を使用して少数で長時間戦う事を前提に訓練を行っている。魔力の消費量を抑えるのは、操練度による魔力量を減らすことが重要だが、必要時以外の入り切りもまた重要でもある。対峙している状態でも、伯姪は相手の初動をみて魔力による身体強化を発動するが、ルイ・ダンボは恐らく先ほどから身体強化をしたままに見える。
このままでは、先に魔力切れとなるのは目に見えている。
「さあ、どこからでもどうぞ。持久戦でもこっちは構わないわ」
「魔力無しでも……」
それは難しいだろう。伯姪は身体強化無しでも剣技で互角、身体強化するだけで、魔力抜きの並の近衛騎士程度には勝ち目はない。
ルイ・ダンボアは『勇者』であるが、個人の能力強化は自身の修練による以上の効果は期待できない。周囲に影響を与える故に『勇者』なのである。味方がいない決闘ではあまり意味がない。
「さあさあ、遠慮せず掛かってらっしゃい!」
「むぅ、小娘がぁ……」
ルイ・ダンボ……彼女の姉と同い年である。おっさんにしか見えないが。
牽制と本命を組み合わせた刺突が、伯姪を何度か襲うが、動き出しに合わせ僅かばかり体を左右に動かすことで、ギリギリに回避をしている。
「お、惜しい!」
「あと一歩ですぞ!」
近衛騎士ABから声援が上がるが、リリアル勢は特に気にもせず観戦している。
「追い詰められているのではないのか?」
「その通りです殿下。ダンボア卿が……ですが」
「……何故だ?」
本来、刺突は回避が難しい前進による攻撃、間合いの急激な変化がフェイントのような効果を生む操法だ。だが、その出だしに合わせるように少しだけ剣先から自分自身を動かす事で、刺突はまるで意味がなくなる。既に、ルイ・ダンボアの攻撃は何の意味も無くなっていることを対峙している双方は理解しているだろう。
顔色に焦りと魔力切れの兆候が見て取れるルイ・ダンボア。決着はそう時間がかからなさそうだ。
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