第413話-2 彼女はリリアルに王弟殿下を迎える
本館内は一期生の魔術師の部屋と彼女たちの執務室・私室となっている為、多くの部屋を見せる事はなく、男子の部屋と執務室・書庫などを見せたのち、錬金塔(旧薬師部屋)を見て貰った。特に問題もなく、また、細かい質問は無かった。わからない……というのが正直なところだろうか。
その後、門前の老土夫の工房を訪問。簡単な機材の説明や、どんな物を作っているのかを……癖毛が説明した。一期生でもあり、老土夫の一番弟子でもあるので適切と考えたからだ。
思ったより……いや、思っていた以上にしっかりと説明しており、今は、騎士団の『魔装』の一部も製造しているという説明に、ルイ・ダンボア以下近衛騎士達が強く反応したのは言うまでもない。
その後、昼食の時間となり、王弟殿下の挨拶の後、皆で食事を始める。リリアルの食事は「騎士団準拠」となっており、特に粗末ではないが豪華でもない。
「ほぉ、味もしっかりしている。量も多いな」
「はい。午後は鍛錬も行いますので、成長期の子供たちに必要十分な量の食事を提供しております」
「食事の用意は『使用人組』が主に担当していますが、当番で魔術師組も行います。魔術師とはいえ、冒険者としての能力も要求されているので、食事や野営の用意は日頃から練習させているからですね」
魔術師と冒険者という組み合わせは、王国では少々珍しい。言うまでもなく、魔術師は王国や貴族に仕える場合が多く、騎士以上に囲い込まれているからだ。冒険者の魔術師もいないではないが、何らかの理由で王宮や貴族の元を離れたものであり、再就職できない事情のある者がほとんどだ。
年齢的にも高齢者が多く、「子供の魔術師の冒険者」というのは、ある意味あり得ない。リリアル以外ではだ。その多くは、魔力持ちが貴族の子弟である場合が多く、魔術師になるに十分な魔力が無い者は、魔力を生かした魔導騎士あたりになるのが普通である。更に少なければ「近衛騎士」となる。
「魔術師の冒険者か……」
つい先日、茶目栗毛にいいように弄ばれたルイ・ダンボアが不機嫌そうに顔をしかめる。それをみた王弟殿下がおかしそうに笑う。
「先日は、ルイが手合わせをしたそうだね」
結果を知っているのだろう、王弟殿下とルイ・ダンボアは対象的な顔をしている。その他二人はルイ顔である。恐らく、仲間内で最も腕の立つ男が良いようにあしらわれ……それも貴族が孤児にである。面白いはずがない。
「午後はそれぞれが鍛錬すると」
「ええ。騎士は騎士の鍛錬の他に、薬草の手入れや学院で必要な作業を手分けして行います」
「鍛錬か……是非、彼らも参加させてもらえないか?」
「「「で、殿下ぁ!!!」」」
殿下はいい顔でそう言った。
どうやら、王弟殿下は自分自身の取り巻き達が何をやらかしているかはある程度把握しており、ルイ・ダンボアの決闘癖も快く思っていない……ということなのだろう。
とは言え、彼の周りにいるという事で「王弟殿下の御威光」を背景に、何かやらかしていることをあからさまに指摘するというのも王族としての器量に欠けると思われかねない。とは言え、今後必要とされる王弟殿下の側近は、王族の取り巻きとして腕っぷし自慢をする輩ではなく、王弟の側近として政務を支えてくれる人間である。
少なくとも、王弟殿下の目から見て今連れている三人にはそれを期待していないのだろう。腕自慢だがリリアルの騎士にぶちのめされる程度……と分かれば、あまり大きな顔もできなくなる。気まずくなれば、フェイドアウトしていくかもしれない。その辺りの見極めもあるのだろう。
「殿下。我等、騎士としての戦いは出来ますが、冒険者・魔術師としての戦いはいささか不得手です」
「……なるほど。つまり、騎士として対戦すれば、リリアルの騎士に後れをとる事はない……ということか」
「その通りです」
近衛騎士の一人が主張する。つまり、魔術師技を封印し騎士としての魔力の使い方……身体強化のみ……であれば十分に勝てると主張している。
「リリアル男爵。このように申して居るが……どうだろう」
彼女は伯姪を見ると……背後で赤目銀髪がジト目でサムズアップしているのが視界に入る。
「かまわないじゃない。折角だから、ダンボア卿とは私が手合わせして貰おうかしら」
「……おお、ルイと
王弟殿下の口から『魔剣姫』の言葉が漏れ伝わる。どうやら、ラマンの竜討伐の際に、『妖精騎士』の親友である騎士『魔剣姫』という綽名がついたのだという。恐らく……いや絶対姉の関係者の命名だろう。
「「「
「あんたたち、覚えておきなさい……」
「「「
昼食後、本館以外の施設の見学後、模擬試合を行う事になったのは言うまでもない。
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リリアルの施設、二期生他の『寮』の内見、薬草畑と射撃練習場を見学。そこには当然……
『うう、もう……駄目だぁ……』
『ナニ言ッテルンダ。オマエラ手足ガ無イダケダロ。俺ヤサブローハ首シカナインダゾ』
「「「「……」」」」
以前捕らえた『隷属種』の吸血鬼は心がすっかり折れており、新人の首だけ『ノインテーター』のジローとサブローはまだまだ元気なのだ。先日、姉が王都に戻り、ジローは無事リリアルに届けられたのである。
「男爵……」
「吸血鬼のサンプルです。主に、聖都周辺で暗躍していた下位の種族のようです。ですが、吸血することで『グール』と呼ばれる喰屍鬼を作り出す能力があるので、御気を付けください」
「「「「……」」」」
彼らは、主に魔装銃の的、若しくは射撃効果の検証用としてリリアルに貢献している存在である。最近は呻きもしないので、静かなものだ。じっと耐える姿に好感すら……持つことはまあ無い。
「じ、実際このような者が……」
「王都に潜んでいる可能性もございます。もっとも、今の所は被害など確認されておりませんが」
エルダー・リッチが潜んでいるのだから、吸血鬼とて同様だ。但し、魔力を有している人間の捕食・吸血をしなければ吸血鬼としての位階を上げる効果がない。故に、魔力持ちの被害者が現状確認されていないことから、王都には恐らく存在しないだろうと推測される。
王都総監として、吸血鬼対策も講じておくべきではないかと、彼女は思うのである。
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