第401話-2 彼女はワゴンブルグを試してみる




 硬化の魔術までで魔力が厳しくなった故、逆茂木の形成などは実行する事は出来なかった。


「あなたは今回、オラン公軍に同行する冒険者枠だから構わないけれど、

今後の運営を考えると、もう少し土魔術はスムーズに展開できないと困るわね」

「……鋭意努力します……」


 歩人であることに慢心した結果なのか、癖毛がハイスペックすぎるのか若しくはその両方なのかは何とも言えないが、このままでは不味いと流石に三人とも理解する。居場所がなくなる危機感を持つ歩人・セバスである。




 遠くの射撃場ではPow Powとやや気の抜ける魔装銃の発砲音が絶え間なく聞こえる。魔水晶の予備も十分にあり、この二ケ月で十分な射撃練習が熟せると考えられる。


 この射撃練習には、遠征に参加する予定のない二期生のメンバーも参加させている。今回機会を与えるには時期尚早であるとしても、いつ、全員を動員する事態が発生しないとも限らないからである。


 二期生は森の探索なので、狼やゴブリンを狩ることを推奨しているが、今回遠征に参加するメンバーである年長者と男子が主にその役割を担っているため、不在時に全く武力行使ができない可能性も否定できない。


「あれ、結構撃ってるけど……」

「大丈夫よ。私が弾丸を作ればいいだけなのだから」

「……れ、練習用なら精錬だけで良いぞ。院長が全部弾丸作るなんて時間と魔力の無駄だからな!」


 遠征中は、彼女以外に弾丸を作ることのできるメンバーがおらず必然自分の仕事と考えていたが、鍛冶は鍛冶屋に任せるべきか。


「大人女子は自分で弾丸くらい作れるようにしようぜ」

「それは有り難いわね。この期間にお願いするわ」


 薬師娘二人に弾丸作りを癖毛が教えてくれるという事だろうか。二人が銃兵を指揮することも将来的にはあり得るので、二人が弾丸作りを覚える事で、必然、その下に着く学院生にも弾丸作りを教える事ができるようになるだろう。


「あのちびっ子猟師と俺にも教えてくれ」

「ああ、ついでだ。任せておけ」


 魔装銃が標準装備化していく過程で、魔装銃用の魔水晶と魔鉛を用いた弾丸の消費量が大きく拡大して行く事も考慮しなければならないだろう。『水晶の村』以外にも、サボア領などで魔水晶が産出する場所と取引をする必要が出てくるかもしれない。


 彼女が顔を出せば、二期生達にいらぬプレッシャーがかかるかも知れないと思い、見学を断念する。


『気配隠蔽使えばいいだろ』

「必要ないわ。あの子達が見せたいと思う程度に腕を磨いてからでも

十分ですもの。遠征直前に一度くらい確認させてもらうつもりだけれども」


 一期生の魔力小組は小柄な女子が多い。二期生の女性も似たようなものだ。冒険者として前衛を熟せるメンバーは魔力が無くとも採用する必要があるかもしれない。


 中等孤児院の卒院生の中から、冒険者希望の男のメンバーを何人か募集する必要があるかも知れない。とは言え、多くは兵士や騎士団の見習などを希望することが考えられるので、あまり人材的には期待できない可能性が高い。


 魔力が少なくともリリアルに所属することにメリットを感じる人間を、中途若しくは中等孤児院卒院後の『専科』としてニ三年を目途に預かる事も良いかもしれない。


 そんな前衛不足を検討していると、にわかに敷地の入口が騒がしくなる。門前には騎士団から交代で見習がリリアルの門衛として待機してる。これは、リリアルと騎士団の関係を友好であると示す一助となっている。ポーションや素材・武具など騎士団に優先して融通している経緯もある。


『お前が行った方がよさそうだぞ』


『魔剣』に言われる迄もなく、彼女の王都帰還を待っていた者に幾人か心当りがある。


 見ると、茶目栗毛が急ぎ走り寄って来る。どうやら、本館にいて騎士団の門衛に彼女を呼ぶように頼まれたようである。


「先生、門までお越しくださいとのことです」

「了解よ」


 茶目栗毛を伴い門へと向かう。そこには若い男が二人立ち、どうやら彼女への面会を求めているようである。


「先触れなしに伺ったのは失礼だとは思うが。こちらもリリアル卿に家族の事でぜひとも伺いたいのだ!!」


 そこには、オラン公の末弟エンリが従者と共に立っていた。




 彼女は心を落ち着かせるように深く息を吸い込み吐き出すと、姿勢を正しエンリに話しかける事にした。


「エンリ卿、御部沙汰しております」

「……これはリリアル閣下。不躾とは承知なのだが……」

「構いません。こちらもお手紙を預かっておりましたので、伺う予定でもありました」


 オラン公と三男ルイからエンリ宛の手紙を預かっている。どの道彼女は、近日中にエンリと会うつもりであったのだ。とは言え、雑務を片付けアポイントをとってと先延ばしにしていたこともある。


「どうぞ、こちらへ」


 茶目栗毛に院長室に人数分のお茶を頼み、また、アゾルの最期に立ち会った赤目銀髪も同席するように依頼し、彼女はエンリ主従を連れ院長室へと案内することにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る