第400話-2 彼女は伯姪に婚約話をする

 午後、一期生だけを残し、ネデルでの出来事について遠征に参加しなかったメンバーを含め、齟齬が生まれないよう情報を伝えていく。特に、今回が遠征初参加となる銃手を担う魔力小組はノインテーターに対してほとんど対抗力がないので熟知しておく必要がある。


「……首刎ねても生きてるって……なに?」

「でも、分裂して二つに増えないからいいかも」


 と、比較的お気軽に聞いてくれているのだが、実際にジローとサブローを目の前にすると、初めて見たメンバーが絶句する。


『ヨオ』

『こいつはジロー、俺はサブローって呼んでくれよ。銅貨以外なら大歓迎するぜ』

「「「「……」」」」


 生首が二体、網の中から挨拶すると、ドン引きする気配が多数、そして……


「先生! どっちか一つ貰ってもいいですか!!」

「……何か必要なのかしら……」

「門番代わりに、入口に立てておこうかと思って!!」

「それなら、なんか被せた方が良いよな。銅像風とかにしないと、首だけの置物ってのはリリアル的に不味いだろう?」


 リリアルに限らずどこでも不味いだろう。そもそも、劣化しているとはいえ吸血鬼なのだ。


「一応、魅了とか吸血することもあるので、素手で扱わないように。魔装手袋付けて、いざという時の為に銅貨も持って二人一組で対応する事。

いいわね」

「「「はい!!」」」

「……普通に殺しとけよな……でございます」


 とは言え、二体のノインテーターは遠征終了までは情報源として必要であると考えられる。二体が話を合わせて虚偽の内容を話さないように、今後とも別々の場所で管理されることになるという。ジローは……ルリリア商会本店の置物にクラスチェンジすると姉が言っていたらしい。


「いいかしら。この通り、今までの吸血鬼を始めとするアンデッドと異なるわ。首を刎ねたのち、再生する前に胴体を魔法袋へと収納することで、一応無力化できます」

『一応だけどな……』

 

『魔剣』のぼやく通り、支配された人間を『狂戦士』状態から解放する為には、ノインテーターを完全に殺す必要がある。でなければ、支配下の人間全てを殺さねばならない。


「ノインテーターの潜んでいる場所には、恐らく、孤児院のような施設があるわ。リリアルに似ているのだけれど、そこは……暗殺者を養成する施設だと思われるわ」

「……ノインテーターに支配された暗殺者養成所の孤児を相手に討伐をする可能性があるって事。だから、その子たちを助けるためにも、しっかり準備して討ち入るわよ。わかった!!」

「「「「はい!!!」」」」


 ノインテーターに支配されている方が、気配隠蔽などに長けている暗殺者予備軍と対峙するより余程楽ではある。『暗部』を育成する人間も、王国の『暗部』の如き活動をする彼女たちが討ち入って来ると思っていないだろう。


 その後は、遠征に向けての資材の確保を全力で進める事になった。とはいえ、ポーションを一層多く作るであるとか、彼女が精錬した魔鉛と銅を混ぜ合わせた弾丸を沢山作るといったことになる。二か月程度で数を揃えるのは一苦労であるし、二期生たちの中で銃手となる者に魔装銃の練習を進めなければならない。


 サボア組は全員銃手となるし、二期生男子の十歳児灰目灰髪の『グリ』に関しても、剣や槍よりは銃の方が戦力になるだろう。体の小さな子供がノインテーターとその配下の狂戦士と直接対峙するのは難しい。





 実際、ワゴンブルク戦術を取るための魔装馬車の改修がどの程度のものなのか、老土夫と打ち合わせをする必要がある。


「無事戻ったようで何よりだな」

「ええ、お陰様で。それで、魔装馬車を『戦車』に改装して運用したいのですが。準備は進めて頂いていると聞いているので、今回の遠征では三台使おうと考えています。可能でしょうか?」


 老土夫は、一台分は既に組み上げており、実車をみて確認してもらおうかといい、馬車の置き場へと向かうことにした。


「こんな感じだな」

「……圧迫感が凄いですね」

「ああ。普通はほれ、このように馬車の外側に倒す事もできる」


 ドアのヒンジのような金具が車体と『城壁』の部分を繋いでおり、180度板が転回するようになっている。この場合、馬車の内部の棚などは配置できないので、馬車の中で寝起きできる人数は大幅に減少することになるが、それは仕方のない事だろう。長期の遠征には不向きの車両だと言える。


「走らせてみた感じはどうでしょう」

「走行感は変わらんが、重くなっている分おさまりは悪い気がするな。魔力も多く使う事になる。なので、魔力の少ない者は馭者になると厳しい」


 今回は、魔力量の多いメンバーを伯姪側に多めに配置したので、馭者は魔力中以上のメンバーでこなせるだろう。その辺は問題ないと思われる。


「厄介な魔物が相手だそうだな」

「死にぞこないの傭兵が吸血鬼化した魔物です。生身の人間を支配し、狂戦士として使役するのが厄介です」

「安易に殺せないような相手を支配下にするか……女子供に年寄り。下種が考えそうな事だな」


 吐き捨てるように老土夫が呟く。彼女もそれには全く同意である。




 その後、二期生用に魔装衣を年長者・男子の分から早急に調達してもらいたいこと、今回のワゴンブルク戦術では長銃身の新型や槍銃仕様は不要であること、慣れない低年齢層も武装することから、標準の物と騎銃を数丁ずつ追加で用意して欲しいことを伝える。


「ああ、了解だ」

「よろしくお願いします」

「それでだ、お前さんにまた、夜な夜な精錬してもらわねばならない」

「……もちろんです。今回の遠征中に精錬した分を先にお引渡ししますね」


 老土夫は「もう足らなくなっておったのよ」と言うと、嬉しそうに魔法袋から出てくる『聖鉄』のインゴットを受け取る。


「それで、これが今回の分だな」

「……承知しました。二月ありますので、問題ないでしょう」

「いや、装備としては更新時期もくるだろうから、今回はある程度魔銀鍍金聖鉄製の剣で揃えた方が良かろう。二期生の装備と揃えるという事だな」


 剣の形は、その昔誂えた『ワルーンソード』と同じ、片端の曲剣で護拳が特徴的なものとなりそうである。ワルーンソードは南ネデルの市民兵が装備する剣であったと彼女は思い出していた。



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