第379話-1 彼女は魔導剣について考える 

『魔導剣』に関して、彼女以外のリリアル生が対峙した場合、大いに危険である事が想像された。


「黒い革鎧の剣士……かっこいい……」


 そういう問題ではない。


「でも、何で革鎧なんでしょうね」

「身体強化と魔力纏いの両方を行いつつ、魔導剣迄扱えないからでは?」


 身体強化と魔力纏いであれば、リリアル生なら容易に両立できる。だが、一般的な魔剣士であれば、普通は二つ程度で魔力操作も魔力量も限界が早々に近づく。精々五分程度だろう。それに、魔石に貯めたであろう己の魔力を引き出す操作も加えるのだから、それ以下の時間しか使用できない。


 革鎧であるのは隠密性に加え、身体強化のレベルを下げるか使用しない事を前提に装備を考えた結果ではないだろうか。


「金属鎧を着て機敏に動きながら、魔導具の操作と魔力纏いの両立に身体強化まで行うのは剣士には厳しいでしょうね」


 リリアルの場合、前提が魔術師であり、魔力操作とその複数同時発動を前提に装備や戦い方を考えている。魔力ゴリ押しなのは、前提が剣士や騎士ではなく『魔術師』が剣を用いて戦っているからである。


 剣を用いた戦いを先ず身に着けたのち、魔力を添え物として活用する魔剣士・魔騎士では適性のバランスが異なる。普通は、魔術師は剣を用いて戦うような運用はされない。


「魔石に魔力を溜めて……ですか」

「どのくらいの量、どのように貯めるのかはわからないわ。学院に戻って鍛冶師と相談してみなければね」


 大きな出力が必要な場合、魔石に大きな負担が掛かるため、魔導具としての耐久性は相当低くなるだろう。魔導騎士が専門の工房を備えて、常時整備をしなければ戦力とならない防御的存在であるのは魔導具とそれに用いる魔石の耐久性の問題でもある。


「魔導騎士の装備を基準に考えれば、稼働時間は延べで一時間程度。蓄積できる魔力量は魔導鎧ほど大きな魔石を用いる事はできないので、数分程度。つまり、十回程度の使用で魔導剣としては寿命が来るのではないかしら」

「魔導鎧の稼働時間と、その魔力を込める為の時間を基準に考えると……」


 使用に至るまでのクールダウン時間は三十分程度かかるのではないかというのが茶目栗毛の予想だ。彼女もその程度ではないかと考えている。


「魔石の耐久性を度外視すれば、もっと高出力を一瞬だけ発揮できてもおかしくないでしょうね」

「ほんとに魔剣」

「そうかもしれない……」


 例えば、鋼鉄製の城門を一撃で斬り落としたり、石橋を斬り落とすことも出来るのではないだろうか。まあ、彼女なら普通に魔銀剣でおこなえるのだが。


「つまり、疑似妖精騎士という事でしょうか」


 灰目藍髪の呟きにかぶせるように赤目銀髪が言葉を発する。


「黒い魔剣士……カッコいいかも……」


 カッコいいかどうかは別にして、黒い革鎧の剣士には要注意であるということだ。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




『魔導剣』の話は、リリアルの新規装備の着想へと話が拡大する。


「一瞬だけ能力が拡張するバックラーはどうでしょう」


 バックラーは剣同士で対峙する場合、有効な道具だが盾としては小さく、例えば弓矢や銃撃を防ぐとこができない。また、受け流す為の盾であり、受け止める為に使うことができない。


 魔導盾とすることで、例えば、十秒ほど直系1mほどの円形の拡張ができるのならば、その魔力の盾を用いて200mは突進できる。敵のマスケットの射撃を防ぎながら、敵の戦列に突入することもできるだろう。


 また、防げるはずのない打撃を一瞬だけ受止めることができれば、相手の不意を突くこともできる。突進する騎馬を留める・跳ね飛ばすことも可能かもしれない。


「盾も良いが、短剣にチャージして『飛燕』を一度だけ使えるのも試したい」


 彼女の得意とする『飛燕』は魔力の消耗が激しく、伯姪でさえ一二発が限界である。灰目藍髪も練習しているものの、何度か一発だけ発動させる事に成功しただけで、道半ばであるといえるだろう。


「例えば、バゼラード位のサブウエポンを魔導剣にすると、『飛燕』だけではなく、甲冑を貫いたり、剣を斬り飛ばす、魔力の刃を伸ばすといった奇襲もかけられるかもしれません」

「それだと、薬師の子達の護身用にも良いと思います」


 魔力量が非常に少なく、また戦闘技能に不足のある薬師の子達は、主に魔装銃を討伐時には装備させているが、素材採取や遠征時の自衛用に良い装備が今のところないのである。


 デリンジャータイプの小型拳銃などは管理の面とコストの面で万人向きとは言えない。短剣であれば、魔力を溜めておいて一撃を加えた後も、魔力のない状態でも短剣自体の機能が残り、護身用・採取用の道具として活用できる。


「『飛燕』が一発だけ撃てるというのは、心強い切り札になりそうです」


 元薬師組の碧目金髪は、自身が剣の扱いは苦手であり、出来れば遠征にも参加したくないと考えていたので、もしもの為の装備は薬師の子達にとっても安心材料になるだろうというのだ。


 学院に戻り次第となるだろうが、聖鉄に魔銀鍍金片刃だけ施し、魔石を埋め込んだ柄に魔力を溜められるようにするなどの使用になるだろう。聖鉄を完全に鍍金しないのは、道具として砥げない刃では困るからである。


「これで、二期生と薬師の子達の護身装備が決まるかも知れないわね」

「二期生ずるい」

「それは先行配備は我々ですよね先生」


『飛燕』の打ち合いや、魔導盾でのシールドバッシュ合戦が始まる予感がしないでもない。



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