第378話-2 彼女は黒い剣士と対峙する
見張塔の二人に警戒しつつ、交互に休憩を取るように伝えた上で、彼女は正面の土塁へと向かう事にした。どのような状態なのか気になったからである。
外に出ることができそうな城館周りの窓は、煉瓦と土魔術で塞いでしまったので、脱出できる場所は正面の出入り口だけであった。城館から石の階段を降り、中庭を通って城壁の外に至る、その道は大きく掘り下げられ石の乱杭が敷設され落ちた者は傷つき呻き声をあげていた。
『後ろの奴らに押されたんだろな』
火事から逃げ出し暗い階段を降りてそのまま暗闇にぽっかり空いた穴の中へと次々に落ちて行ったのだろう。気が付いて立ち止まろうにも、後から続く者たちに突飛ばされて落ちるしかない。
「先生、中はもう一段落でしょうか」
「ええ。申し訳ないのだけれど、中の捜索を手伝ってあげてちょうだい」
茶目栗毛はこのメンバーの中では捜索に最も適した存在だ。傭兵達がどこかに命令書を隠した収納があるかも知れない。逃げ出した剣士に関しても何かしらの証がある可能性もある。
彼女は一人の魔剣士を逃走させていること、後を追わせている事を説明し、盗賊に偽装させた傭兵に対する監視役であったのではと推測を伝える。
「ネデル総督か神国軍につながる命令書の類があればという事ですね」
「重要な書類は処分しているでしょうけれど、ネデルに繋がる証拠があればありがたいわね」
少し前、ルーンの郊外で廃村に潜伏していた連合国兵を討伐した時も、隠れ家の捜索でその手の物を確保したことがあった。メインツに対しても、また、オラン公に伝えるにしても人以外の証拠が欲しい所だ。
「先生、この呻いている盗賊たちはどうします?」
助けを求めたり、凄んだりする声を聞き、彼女は少々面倒だと思い始めた。明るくなるまではこのまま放置であろうし、ここは戦場と変わらない。下手に情けを掛ける必要もない。
「明るくなるまで放置で。生き残りは捕縛してビゲンに連行し、衛兵に引き渡す事になるでしょう」
「……わかりました」
放置する旨が漏れ伝わった事で、穴の中が騒がしくなる。罵詈雑言と言ってもいいだろう。
「ふざけんな!」
「いい加減にここから出して、手当くらいしろ!!」
等と、我儘を言うおっさんたちである。
「人攫い目的で侵入した賊が猛々しいわね。これでも、その言葉を吐きつづけられるのかしらね」
魔銀の剣を引き抜くと、彼女は『雷』を纏わせた魔力の刃・飛燕である『雷燕』を穴の中に無数に飛ばす事にした。
「「「「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」」」」
「静かにできないのなら、静かになるまで打ち込み続けるわよ」
必死に声を殺し、息を潜ませる穴の中の面々。死なない程度のダメージのはずだが、運が悪ければショックで心停止したかもしれない。
彼女は碧目金髪を狼人と合流させ、先に廃城塞の中庭に魔装馬車を出し、野営の準備を始める事にした。一階も三階もまだ燃えている場所もあり、捜索はいったん打ち切って明日明るくなってからに切り替える事にしたからだ。
「うー 焦げくせぇな……」
「石造りの城でも燃えるんですね」
壁や床は石材で作られているとはいえ、内装には木も使われているので、火事にならないわけではない。とは言え、撒いた脂が燃え尽きた時点で、それほど燃え広がりはしていない。暫くは熱いだろうし、焦げ臭くあるが。
赤目銀髪に茶目栗毛を呼びに行かせ、六人が揃ったところで、今回遭遇した魔剣士について説明することにした。
「魔導具の剣……『魔導剣』とでも言えばいいのかしらね。魔力を纏った私の魔銀剣を受け止めるだけの魔力纏いをしていたの。恐らく、魔水晶に自身の魔力を溜め込んで、瞬間的に魔力纏いの量を増加させるものね」
今まで対人戦と言えば、偽装兵か盗賊の類しか対した事が無かったリリアルにとって、魔導具を使う正規の兵士もしくは高位の冒険者らしき存在は初めての経験である。
「先生の魔力纏いの剣を受け止めるというのは……相当ですね」
「正直考えたくない」
「あー 俺もそんな武具が欲しいぜ……」
独り異なる感想を持つ者がいた。今まで魔物や盗賊相手に圧倒的な優位を保ってきた彼女たちにとって、次に遭遇した時はかなり厄介で危険な相手であろうと警戒するのであった。
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