第366話-2 彼女はオリヴィからネデルの話を聞く
ナインテーターはいささか面倒な存在であることが分かってきた。まず、首を斬りおとしただけでは死なず、首を刎ねる前に口の中に銅貨を収めて置く必要がある。
また、噛みつく事で噛みついた人間を操る能力を有する。これは、魅了の一種と考えても構わないが、噛みついたナインテーターを殺す事で効果は消失する。また、魅了されている間は、一時的に身体能力が強化され、歴戦の勇士並みの能力となる。
定命は無く、首を斬りおとす処置を行わない場合、永遠に生きる事が可能。また、再生能力も高く、銃撃や斬撃での傷も速やかに回復する。
その能力は人と比べれば高いものの、『オーガ』に匹敵するほどの力は持っておらず、精々がよく訓練された騎士並みの能力であると言える。但し、体力は無尽蔵であり再生能力を有する歴戦の騎士と考えれば、決して侮れる存在ではない。
ベーメン等の帝国東部の地域にその存在が知られているものの、実際はメイン川流域やネデルにもいると言われている。平素は人に紛れて生活しており、大規模な戦争や災害の発生時にその姿を現すとされている。
ナインテーターとなる理由はレヴナント同様に「突然の死」に起因するものであるとされ、九日後に復活するという理由も自分の死を認められないがゆえの現象であると言える。
アルラウネにより森に取り込まれ死んだ者が、然るべき処置をされないまま九日間を過ごした場合、ナインテーターとして復活したのではないかと考えられる。
本来、自身の身内・家族や近しい存在を襲い生気を吸い、衰弱から死に導くとされているが、傭兵のような根無し草である場合、その目標が自分の所属する傭兵団に向かう事になるかもしれない。
その場合、ナインテーターの身体能力と人を操る能力を発揮し、とても強力な傭兵団となる可能性が高い。戦場では死体は珍しい物ではなく、また、略奪を行う場合においても同様と言える。死体を食べる吸血鬼であるナインテーターと傭兵家業の親和性はとても高いと言えるだろう。
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オリヴィのもたらした情報と、ネデルで遭遇する新種の吸血鬼の存在。ここから導き出される答えは、吸血鬼に率いられた優秀な傭兵団がネデルに複数存在しており、その傭兵団を支配下に置いている吸血鬼を殺さなければ対抗するオラン公軍はかなりの苦戦を強いられることになるという事。
そして、『
『とは言え、何十人も吸血鬼だらけにするわけにもいかないだろうから、数人程度だろうな』
「今までの吸血鬼とは桁違いに手間を喰いそうな相手ね」
決闘騒ぎ、オリヴィとの再会とバタバタしていたのですっかり忘れていたのであるが、落し穴に落ちた吸血鬼が、隷属種なのかノインテーターなのかを確認するべきだと思い至る。
「このアジトのトラップに吸血鬼が掛かっていたのだけれど……」
「へぇ、無駄にしていなかったんだ。それは良かった☆」
見たい見たいと騒ぐオリヴィに、彼女は入口手前の落し穴の蓋を開ける。数日前に見た吸血鬼は、少々萎びていたが手足を斬りおとされ、魔銀の槍に貫かれた状態でも、それなりに元気なようである。
「ちょっと、試してみたいことがあるんだけどね……」
オリヴィ曰く、とある薬品を掛けると、真祖起源の吸血鬼であれば、激しく反応するだろうというのだ。
「要は、私の血液」
「……血液?」
オリヴィはヴァンピールでありヴァンピールの血液は吸血鬼に対して猛毒となるのだという。
オリヴィーはその金属製の容器から、赤い液体を槍に刺さり身動きの取れない吸血鬼にポタポタと垂らしてみる。しかしながら、当たった血液が酸のように体を焼くこともなく、また、猛毒のように皮膚の色を変える事も無かった。
「これはどういう事でしょう」
「真祖の系統ではない吸血鬼。つまり、これは『
「なら、余り警戒しなくて問題ありませんねヴィー」
吸血によりグール化させる事がないノインテーター。尚且つ、力もそれほど強力ではない。身体強化した騎士程度であるから、この三人からすればなんら脅威ですらない。それもどうかとは思うが。
「ねえ、このまま放置するのでも構わないんだけれど、お話聞かせて貰えたら、銅貨咥えさせて首を斬りおとしてあげるわよ。考えて貰えるかしら」
オリヴィが端的に今後の選択肢を提示する。
「そうね、このまま放置するわけにもいかないでしょうし、永遠に射的の的になりたいのなら別だけれど……」
『俺ガ女ナンカニ頭下ゲルワケネエダロォ!!』
とんだ男性至上主義者なわけだが、そんなノイン君も女性である母から生まれてきたのだろうし……
「へぇー でもさ、森の精霊に誑かされて死んだんでしょ? それって、女の姿してたんだよね。なーんで、ノインテーターなんかになったのよ」
ブツブツと小さな声でノイン君は言っているのだが、どうやら「私と永遠に暮らしましょう」と森の精霊らしき女に誘われ、気が付いたらこうなっていたらしい。
「じゃあ、騙されたんだ」
『ダ、騙サレテネェ』
「いや、騙されているでしょう。そこは認めないとね。多分、あんたみたいなのネデルの神国兵の中にたくさんいると思うよ。それで、部下や手下がいる奴らは軍の中でそれなりの立場で遇されているけれど、たいして能力がないのは、こうやって鉄砲玉代わりに潜入とかさせられてるんじゃないかな」
ノインテーターはアルラウネに魅了され森の中で衰弱死することで、簡単に量産できるのだろう。その中でも、大して役に立たなそうな存在を彼女らの所にあてつけのように送ってきたのだろう。
つまり、お前達の存在は把握しているし、常に監視している……とでも言いたいのだろう。
『主、家の周辺やメインツにこいつ以外の吸血鬼やそれに類する魔物は潜入しておりません』
「そう。ありがとう」
「本当にただの嫌がらせの使い捨てみたいね。ねえ、どうする?」
彼女と『猫』の確認、オリヴィはノインテーターの男に再度身の振り方を尋ねる。
『チョ、チョット考エテモイイカ……』
二人に煽られだんだん不安が高まったようで、最初の頃の勢いはとうに沈静化していた。
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