第362話-2 彼女は再び帝国へと向かう
メインツの冒険者ギルド。少年少女五人組が受付に立つと、暇をしている冒険者が絡んで……来ることはなかった。
「拍子抜け」
赤目銀髪と碧目金髪のことは覚えている者がいたため、ちょっかいを掛けようとする冒険者を抑えたという事もあるが、今回は『リリアル仕様』の装備で訪れているので、明らかに高位の冒険者と見た目でわかるからでもある。
「……こんにちは、冒険者ギルドメインツ支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか……」
前回とは少々異なるメンバーではあるが、統一感のある魔銀製の装備を身に着けた冒険者の一団の訪問に、受付嬢は少々緊張気味でもある。
「こんにちは。私たちは王国で冒険者登録をしている者ですが、今回、王都の冒険者ギルドで指名依頼をいただきまして、帝国でしばらく活動を行う事になりました」
受付嬢が怪訝な顔をする。つまり、このギルドで依頼を受けるわけではないと考えたからのようだ。
「……依頼主は常時拘束するわけではなく、遠征の際に同行する事が仕事の条件なのです。その間、帝国に滞在しますが待機している間にこちらの依頼も受けられるように帝国の冒険者登録をお願いしたくて伺いました」
オラン公の軍が常時遠征をしているわけではなく、遠征の開始時期までメインツなり城なりで待機するのであれば、情報収集を兼ねて帝国内で冒険者活動を行いたいのだ。恐らく、コロニアの依頼の方が、ネデルの情報が取りやすいだろうが、登録はメインツの方が無難だろう。
受付嬢は「冒険者証を提示してください」というので、彼女と茶目栗毛、灰目藍髪は冒険者証を提示する。そして、薄紫の冒険者証を見て硬直する。
「……え、えーと、アリー様……でしょうか?」
「その登録証の通りです」
「……『妖精騎士』のアリー様……」
不用意に声を出す受付嬢。そして、背後の職員たちが一斉に注目する。冒険者の一部も反応しているようだ。
「その、リリアル男爵様」
「そうですね」
「あ、あの……サインお願いします!!」
「……はい?」
王国ではなかった反応である。というのも、王都のギルドの受付は無名の少女の頃から彼女のことを可愛がってくれていたベテランが担当してくれており、王都の冒険者も彼女の存在は敢えて特別扱いしないのがマナーとなっているのである。
なので、冒険者ギルドでサインを求められるとは、全く考えていなかったので、彼女は完全に固まってしまった。
「恐れ入りますが、先に手続きを進めて頂けますか。できれば……個室で」
茶目栗毛が横から言葉を添えてくれたおかげで、彼女たちは早々に応接室のような場所へと移動する事になった。
そして、何故か対応はギルマスと受付主任の女性となる。
「これは、リリアル閣下。帝国へようこそ。帝国冒険者ギルドは閣下とリリアルの皆様を歓迎いたします」
「……それはありがとうございます。ですが、私たちは『リ・アトリエ』として活動する予定ですので、今後は『リ・アトリエ』のアリーとお呼びください」
「しょ、承知いたしました。リ・アトリエは閣下の配下の方達だったのですか。いやぁー 皆さんお若いのにもかかわらず、どおりでお強いはずです!!」
ギルマス&主任がメチャクチャ愛想笑いをしている。まあ、なんか難しい依頼があれば押し付けてやろうという魂胆なのだろう。
「指名依頼で来られたとか。どのような内容かは……」
「残念ですが、守秘義務がありますので。とある方の護衛であるとお考えください。但し、常時同行する必要はないので、待機の間に帝国での依頼を受けようと考えております」
「……なるほど……それは有り難いことですな」
冒険者はネデルに近い場所に仕事が多い為、この辺りから移動している事もあり、依頼は増えていないものの冒険者が減った為、未達の依頼が増えているのだという。
「緊急性の高い討伐依頼があれば、積極的に受けるつもりです」
「なるほど。取り急ぎはございませんが、是非ともお願いいたします」
ギルマスが丁寧に頭を下げる。男爵とは言え貴族の冒険者は希少である。星四の冒険者が『伯爵待遇』とは言え、貴族と同席するための仮の身分であり、貴族ではない。実際の男爵とは少々異なるのだ。
彼女は「是非星五に!!」と言われたものの、実際、王国の薄紫は星四相当のはずなので星四にしてもらい、茶目栗毛が星三、灰目藍髪が星二という事になった。前回の模擬戦の結果から、特に今回は確認のための模擬戦は不要と見なされた。
『やってもいいんじゃねぇの』
「面倒ごとは避けたいのよ」
それに、今回は魔装を最初から装備した状態で帝国入りをしている。一般冒険者よりも格上であるというイメージを持たせることで、余計なことで絡まれないようにと配慮した結果であった。
改めて『リ・アトリエ』のパーティー登録を行い、パーティ宛の伝言なり、手紙を預かっていないか確認すると、オラン公とオリヴィからのものがあった。金の蛙亭にも同様に手配されていると受付嬢に伝え聞く。
オラン公からは「メインツ到着後、落ち着いたら城に一度顔を出して貰いたい」という簡単な伝言。オリヴィからは「ブリジッタに手紙を渡してあるので、受け取ってもらいたい」というメッセージであった。どうやら、ギルド経由で手紙を渡すのは余りよろしくないと考えたためであろうか。
受付で冒険者証を受け取り、アジトである錬金工房に戻るため五人で冒険者ギルドを出ようとすると、入口から派手な衣装を着た傭兵風の男たちが入って来た。
「ああぁ!! いつから冒険者ギルドはガキの遊び場になったんだよぉ!!」
彼女達を目にするとあからさまに威嚇してくる。細面の茶目栗毛に美少女四人組であるから、ハーレムパーティーとでも勘違いしたのかもしれない。冒険者ギルドの中の空気がピリピリとしだす。
冒険者たちの囁きに耳を澄ませると、帝国騎士崩れの傭兵のようである。面倒なことにならないと良いなと彼女は思うのである。
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