第358話-2 彼女はオークの群れを退治する

 討伐の開始は音もなく始まる。既に盛り上がっているオークの輪の中に彼女が気配を消し入り込んでいく。


オウル・パイクawl pike』の中ほどを持ち、思い切りオークの胴を背後から薙ぎ払う。


 Busiii!!


 Ge……

 Gaaaaaa!!!


 魔銀製の剣と魔銀鍍金の剣の違いは、薄い刃に魔力を纏わせ断ち切るという点で、さほど魔力量の差で切れ味が変わらなかったのは、接点が細い線のようなものであったからだと彼女が気が付く。


 オウル・パイクの刃は四角錐の形をしており、聖鉄に魔銀鍍金を施してあるだけである。鉄の細い板で無理やりオークの体を断ち切るのと同じ効果が為されたというべきだろうか。全魔銀ならば、魔力の流れる量が彼女が用いれば多くなるので、剣で斬るように切れたかもしれない。


 そして、ブチブチと音を立てて目の前で仲間が二つに引き裂かれたのを見たオークの頭の中が一瞬にして真っ白になるタイミングで。


Pow!!

Pow!!

Bann!!

Bann!!


 四丁の魔装銃がオークに着弾、握りこぶし大の穴を胸に穿ち、その威力でオークは後ろ向きに倒され動かなくなる。あるいは、上半身が弾け飛び、肩から首が垂れ下がるような死体となる。


 Buhiiiiii!!!


 残りのオークの数は七体。立ち上がりふらつくオークを、オウル・パイクをしならせ、鞭で叩くようにオークの胴を引っ叩くと、オークの上半身がちぎれ飛んでいく。


『あー なんだ、その……ねぇな』

「人間相手には刺突だけにしましょう。でも、魔物相手なら」

『振り回すだけで弾け飛ぶのはいいかもしれねぇな』


 更に一体を叩き伏せ、茶目栗毛と赤目銀髪も、槍銃のスピアヘッドでオークの首を弾き飛ばし、あっという間に残りは三体となる。


Pow!!

Pow!!


 再装填した銃手の狙撃。『導線』を用いたであろうその弾丸は、新型の魔銅弾であり、同じく胴に大穴をあけて行く。


 ようやく気が付いたトロルが立ち上がり動き出す一体に向け、彼女が突進、オウル・パイクに魔力を込め、思い切りの刺突を行う。体に深々と突き刺さるものの、その傷はみるみるうちに塞がる。


「ちっ」

『次だ次!!』


 彼女は、腰に差した魔銀剣を抜き、振り降ろされるトロルの腕を肘の先から斬り飛ばす。落ちた肘から先を拾い、繋げようとするトロルの背後に回り、両の膝裏を切り裂き膝がズシンと地面に落ちる。


Gmooo!!


「これでどうかしら!!」


 落ちた腕を拾い上げているもう一方も、膝裏に続いて切り落とす。


 Gwooo!!!!


 両腕を切り落とされ、再生しようと傷口が蠢いているが、膝裏はともかく、斬り落とされた両手はなかなかつながろうとしない。


「これでお終い!!」


 下がった頭の後ろに『魔力壁』の足場を築き跳躍して飛び乗り、思い切り首を斬り落とす。両腕と首を斬り落とされたトロルは再生を停止する。


 Gwaaaaa!!!


 残り一体のトロルの胴体に、次々に魔銅弾が命中しているものの、弾丸が命中して弾ける先から傷口が再生し、弾丸を飲み込んでいく。


『あれだろ』

「ええ、あれね」


 彼女は今回の調査の前に、試作品の魔装弾を預かっていた。魔銅弾の中に魔水晶を封入し、彼女の『雷』の魔術を封じた特殊弾だ。


 剣を納め、魔銀製の銃を懐から取り出し、特殊弾を詰める。そして、トロルの背後に回り込み、背中越しに射撃を行う。


 BAAANNNN!!!


 叫び声をあげる間もなく、全身を痙攣させ動きを止めるトロル。そして、彼女はその後、先の一体と同様に、両腕を切り落とし、膝裏を斬り膝をつかせると、背後から首を斬り落とした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 トロル二体は本体全て、そしてオークの討伐証明部位を回収し、今回の依頼の当初の目的は完了した。


「目的は調査のはず」

「それはそうですが。討伐を再度依頼せずに済むわけだから結果問題ないと言う事でしょう」

「先生がいると大概この展開ですよね」

「……て、帝国でも同じパターンでしょうか……私、心配になります……」


 そこは、気になりますではないだろか?


 トロルの再生能力は高いものの、首を落せばよいことに変わりはなく、特殊弾を用いて硬直させ、その隙に接近し、両の手を斬り飛ばすアプローチで対応は問題なさそうである。


「問題……」

「ある」

「それは仕方ないでしょう」


 リリアルならば……という条件付けがなされてしまう。騎士団にその特殊弾を供給するわけにもいかないであろうし、一瞬で両手を斬り落とせる騎士も限られているだろう。


 彼女の遠征中であれば、斬り落とすのは伯姪、射撃は魔力小組の銃手隊に黒目黒髪を魔力壁役として付ける展開。前衛は赤毛娘と蒼髪ペアで攪乱といったところだろうか。


「先生の『雷』魔術の術式が込められた弾丸は、普通のマスケットで発射出来るのでしょうか」


 茶目栗毛の質問に彼女は首を振る。


「発射時に魔力が作用しないと発動しないから、魔装銃でなければだめね。だから、今のところ、リリアルとその関係組織にしか供給できそうにもないわ」

「関係組織」

「あー 修道女の方達ですね」


 アリアの魔装修道女にも可能なのだが、アレッサンドラ自身が雷魔術を用いて足止めすれば問題ないのであるから、わざわざ弾丸を作成する必要はないだろう。


 彼女の場合、加護が弱いために弾丸にする方が効率が良いということで作らせたものだからだ。


「大型の魔物を後備のリリアル生で抑える時には良い切り札になるといいわね」


 今日のことろの評価としては、魔装銃で対抗する必要がある魔力小組に供給する事で、例えばオーガやゴブリンの上位種、あるいは竜に近い大型の魔物を討伐することができるようになるだろう。


 リリアルが組織として拡大していく中で、必ずしも魔力に十全に恵まれた者だけでなくとも役割が果たせるようになるのであれば、この装備はとても有意なものであると言えるだろうか。




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