第358話-1 彼女はオークの群れを退治する

 彼女は馬を止めた位置まで戻ると、残していた銃手二人とエンリ主従に状況を説明する事にした。


「……オークばかりでなく……トロルですか……」

「……」


 灰目藍髪はどうするのかと真剣な顔になり、碧目金髪は「か、帰りましょう。ギルドへ報告するまでが冒険ですから!!」と完全に及び腰である。


「ギルドに戻ったとしても、王都近郊にオークとトロルの群れを討伐できる冒険者のパーティーは私たち以外にいないわよ」

「騎士団が派遣されれば、ただ働き確定」

「ギルドの等級上げる良い機会となります。私は討伐に賛成ですが、皆さんはどうでしょうか」


 灰目蒼髪がグイグイ来る。


 放置は出来ないが、エンリ主従の安全を考えると一旦引き上げる必要もありそうだと思うのだが……彼女は一つの提案をする事にした。


「エンリ様、協力して頂きたいことがあります」

「……出来得ることなら何なりと……」


 エンリ主従は騎士となるべく、騎乗は当然できる。


「銃手二人の乗る馬の騎手をお願いします。後方から銃で狙撃する二人を上手く距離を取りながら討伐に参加させて欲しいのです」


 騎乗していれば、オークから逃れる事も容易であるし、彼女たちが下馬して前衛として討伐に直接参加することも問題ない。


「是非」

「……エンリ様にお伴致します」


 従者は微妙な顔であるが、ここで魔物討伐を間近で見ることは今後の主の経験になると考え同意するようだ。


 それに、魔銀鍍金聖鉄製の魔装槍銃を赤目銀髪と茶目栗毛に装備して貰う。


「デカ槍銃」

「少々取り回しが難しそうですが……工夫します」


 赤目銀髪の魔力量的には魔力壁を形成してガードをしつつ弾丸を込めたり、茶目栗毛なら気配隠蔽を行い死角から槍銃のスピアヘッドでオークの首を斬り落とすくらいの事は問題ないだろう。


「銃手二人は、オークを中心に狙撃して頂戴。馬上なら森の中でも視界がある程度確保できるでしょう。それと、周囲の魔力走査を優先して奇襲を受けないように自衛が優先で」

「「はい!!」」


 別動隊がいないとも限らないので、銃手二人には背後の警戒も大切な仕事である。


「トロルはどうする?」

「それは、私の担当よ。任せておきなさい」

「ん、そうする」


 五角形を形成するように配置をする。中央の頂点は彼女、左右に一期生二人を配置し、後ろの頂点に二人の銃手を配置する。


「私が正面から推すので、前二人は左右から銃撃をしてから突入。オークは出来る限り首を刎ねて殺しましょう」

「「はい(わかった)」」

「銃手は、二人に近寄るオークを出来る限り攻撃。タイミングとしては前衛が銃撃した後の隙を埋めるように援護すればなおいいわね」

「「了解です!!」」

「エンリ様も周囲の警戒を怠らないように。心が居つくと隙を生みます。流れを良く見てください」

「はい。勉強させていただきます」


 とても素直なエンリである。オークとトロルの群れを僅か五人でどのように討伐するのか、このような機会は二度とないだろうと考えられる。馬上の特等席でよく見ておいて貰いたい。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 足跡を追跡し、その数を凡そ把握するも全てが移動しているわけではないだろうと予測する。何やら獣臭い臭いがし、騒がしい音が聞こえる。馬が落ち着きを失くす。どうやら、この少し先に群れがいるようである。


 そこは、岩で囲まれた窪地のような場所であり、周りからは見えにくいように思われた。


『何だか盛り上がってるな』

「荷馬車でも襲ったようね」


 倒れた馬が二頭、人間は逃げたのかこの場に来る前に処分されたのか姿は見えない。馬車の残骸らしきものに壊された木箱や樽。中身はエールや腸詰、干し魚当たりだろうか。


「酒を飲んでいるのは好都合ね」

『オークって酔っぱらうんだっけかぁ?』


 オークも酒には酔う。オーガやその他の魔物の酒盛りにうっかり遭遇する伝承は珍しいものではない。魔物ではないが、ドワーフの酒好きは有名である。


 オークの数が十二、トロル二が確認できた範囲の魔物の数だ。オークは他にいる可能性があると思うが、トロルは太陽の光を浴びると石になるとも言われており、今のところ日差しの届かない木々の生い茂る場所に着座している。動いてはいるので、石にはなっていないようだ。


「一旦戻りましょう」


 同行した、茶目栗毛と赤目銀髪を連れ、彼女はエンリたちのいる位置まで戻る。状況を説明し、再確認を行う。


「私が囮として正面から押すので、左右をお願いね」


 茶目栗毛と赤目金髪が頷く。


「銃手は無理をしないように、距離を取ってオークの胸を狙って頂戴。頭や手足は的が小さいので難しいでしょう。それで十分に倒せるはずだから、焦らず、無理せず危険を感じたら馬でこの位置まで戻って状況確認で構わないから」

「「はい!!」」


 銃手を担う二人は、この規模の討伐経験があまりない。無理をする必要はないと彼女は判断している。


「エンリ様たちも、危険を感じたら自分の判断で退避してください」

「……あなたが危険になるのではありませんか?」


 危険なことは何時ものこと。今回は不慣れな四人がいる事で、負担が増えているだけなのだが。


『主、もしもの時は、私がオーク共を足止めします』


『猫』の足止めは文字通り、足を切り裂き止める。彼女は当てにしているわと呟き、元来た道を戻る事にした。




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