第356話-2 彼女は魔銀鍍金聖鉄製刺突槍を振るう
二期生に関しては、早めに冒険者登録を行い、一期生と組み合わせて素材採取の依頼や魔物の討伐に関して学院に残るメンバーで活動を進めることを考える必要がありそうだと、彼女は考えていた。
「帝国遠征の影響で、学院内での活動中心になっていることが二期生にマイナスに働いているように思えるわね」
『一期生の騎士二人に、三つの班の一つを付け、薬師や魔力小組の指導の下、二期生も冒険者活動を初めてもいいかもな。今の王都の周辺に強力な魔物はほぼいないだろうし、いてもあいつら二人もいれば、足止めくらい十分に熟せるだろう?』
比率で言えば一期生と二期生が同数となる編成であるから、それほど危険なものとはならないだろう。
「それと、そろそろ帝国遠征用の装備が仕上がって来るでしょうから、実際使用してみて確認しておきたいわね」
『魔装槍銃』の試作の目途が立ち、魔装馬鎧の準備進んでいる。もう一つ、彼女が考えている装備は、帝国で見かけた特殊な槍を、魔銀鍍金聖鉄製で用意する事である。
馬上槍と対吸血鬼用の装備を兼ねた新装備の試作である。
『ほんとにこれでいくのかよ』
彼女が帝国で購入した槍は、柄の長さがショートスピア並みの2mほど。その先に、約80㎝の金属の穂先が付く。穂先の形は四角錐型。
『
「普通なら、こんなに長い刺突部分は使いにくいでしょうね」
『だったら、お前ならどうするんだよ……』
この錐槍の刃の長さ80㎝という点に注目してもらいたいのだ。
「バスタードソードの刃の長さも大体この程度なのよね」
『……だから?』
「魔力を通せば、この太さの穂先でも、十分にブレードとして断ち切ることができるのではないかしら」
『あ……あー……』
馬上で突き刺しまた振り回す場合、下馬して歩兵の集団が群れ寄せてくる場合、3mの槍の中央を持ち、魔力を通して振り回したら何が起こるのか想像してもらいたい。
「剣だって鉄の平たい板に刃が付いているだけじゃない? ならば、鉄の棒で思い切り殴りつければ……」
『そりゃ、首でも腕でも断ち切れるだろうぜ。お前らならな』
聖鉄は『鋼』の棒であり、外側を魔銀で鍍金することになる。鉄の棒で殴られるだけでちぎれる可能性もあり、魔力を通せば紐でも人の体を断つことくらい難しくない。鎧を装着しても、斬れるものは斬れる。
『これを、ゴブリン相手に試したいのか?』
「それも良いのだけれど、出来ればオークかオーガが良いわね」
『……王都周辺にはそんなものいねぇだろ。治安悪すぎだぞ』
とは言え、先日、久しぶりに顔を出した冒険者ギルドで見かけた依頼に「オークの存在確認」というものがあった。場所は……ワスティンの森。
『あそこかよ』
広大な原生林と湿地が広がる王都近郊にありながら、人の手が入らない場所であり、その南側をヌーベ公爵領と接している。反王家の残党であり、王国の秩序から逸脱している領地。冒険者ギルドの支部や王都の騎士団の訪問も受け入れない閉鎖された場所である。
オークが船を操ることができるのは、少し前にレンヌで経験した襲撃で彼女は既に知っている。また、レンヌを流れる川とヌーベ公領は繋がっている。故に、ワスティンにオークが潜む事は、何らおかしくはないと言える。
『お前が3mの槍を担いで森で探索するのはどうだろうな』
「魔法袋に接敵迄収納しておくわよ。持ち歩くのも確認程度はするけれど、戦闘時以外は表に出すつもりはないわ」
魔術師である彼女は、魔法袋に武器を収納することができる。また、馬上で突撃する際は、槍の柄の後端を肩へ襷がけに吊るしたホルダーを引っ掛けておくことができるように工夫してもらってもいる。
「ランスなら、握りの部分を太くすることもできるのだけれど」
『腕の力だけで支えるのは……無理じゃねぇのか。だが、すっぽ抜ける可能性も考えれば、そりゃあった方が良いよな』
長柄の部分を聖鉄の輪で補強するつもりでもあるので、上手くそこに引っ掛かるように調整すればよいだろうと彼女は考えた。
魔装槍銃の試作を三丁用意してもらい、彼女は狼人を除く五人で冒険者ギルドの調査依頼を受ける事にする。
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彼女の目的は半分は達成されたのだが、残り半分は不本意な結果となっていた。冒険者ギルドに茶目栗毛と二人で受注依頼を行いに来たのだが、その場にはエンリ主従が白等級の素材採取依頼に来てたからである。
『ワスティンの森のオークの存在確認』という依頼を受ける事にした彼女達に対し、二人は素材採取の為に森に入るついでに同行したいと申し出たからだ。
冒険者ギルドから「指名依頼扱いにするので、サポートをお願いします」
と受付嬢から泣きつかれたという事もある。身なりを改めたとはいえ、態度は明らかに貴族のそれであり、ギルドの職員には「帝国貴族の弟」と知られている。帝国の場合、伯爵の息子はやはり『伯爵』扱いとなるので、継ぐ物が無かったとしても貴族として扱われる。
故に、少々面倒な存在と認識され、パーティーを組むメンバーもおらず、依頼も中々受けられていないという……迷惑をかけている点を考慮し、今回の調査依頼に同行させることにしたのだ。
「男爵のパーティーに同行できるとは……大変光栄なことですね」
悪気はないのだが、こちらは調査依頼をそのまま討伐依頼に切り替え、新装備の実戦テストを行うつもりなのであるから、ギルドへの義理立てと言う意味以上のことはない。
あくまでも討伐に移行した場合、エンリ主従は手を出さず自衛に徹すること、こちらとは別パーティーなので干渉しないことを条件に同行を許したのだが、この十二人兄弟の末っ子王子様が、どの程度それを守るつもりがあるのか甚だ疑問だと彼女は思っている。
探索は日を改める事にし、二日後にリリアルの門前に集合ということにした。主従はニース商会の馬車で送ってもらい、そのままニース商会のリリアル門前店の酒場兼宿に宿泊する事になる。
「おー その銃カッコいいな。俺も使いたいぜ!!」
「あんた、前衛じゃない。いつどうやって使うのよ。それに、魔力の扱いが雑なあんたには無理よ」
「その通り。暴発する未来しか見えない」
青目蒼髪が持ち込まれた試作銃を手に感想を述べると、すかさず赤目蒼髪と赤目銀髪から突っ込まれる。因みに、赤目銀髪も今回槍銃を装備する予定なのだが、頭一つ分は槍銃の方が大きいのである。
久しぶりの王国内での冒険者活動に、彼女は少々ワクワクしていた。
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