第356話-1 彼女は魔銀鍍金聖鉄製刺突槍を振るう
二期生と修道女の模擬戦は、鎧袖一触といったところで二期生の敗北となっていた。些か、互いに不満がある。
「物足らなさそうだから、リリアル一期生との四対四もやろうよ。私も相手方に入って、みんなの成長を体感したいし」
姉の提案に双方が賛意を示す。修道女四人もまんざらではないようで、姉が参加する事に思うところがあるように見て取れる。彼女もそれに乗る事にしたのである。
「では、私が皆さんのサポート役に入りましょう。その位いいわよね姉さん」
「そうだね。少しハンディがないと瞬殺だもんね」
姉は自信ありげだが、一期生三人だけでもかなりの負担になるだろう。姉が滅茶苦茶ヤル気であるとすれば、思わぬ事態になり兼ねない。自分の見出した四人を潰すような真似はしないと思いたいのだが、調子に乗った姉が暴走するのは割とよくある事なので、彼女は一計を案ずることにした。
リリアルメンバーは遠征に参加しない赤毛娘と黒目黒髪、伯姪に姉である。恐らく、彼女が姉の代わりに入れば最強戦力に近い構成。手加減ゼロだ。
彼女はアレッサンドラを始めアリアの修道女四人に、相手のメンバーの説明をすると、四人の顔はかなり強張る。
「相手は前衛三人で三人とも遊撃が得意よ。それと、最後の一人は、一期生で最大の魔力を持っている魔術師よ」
そして姉を除く三人は全員『竜殺し』の称号を持つリリアルの騎士である。
「無理だろ」
「死にたくないですぅ!!」
「怪我の無いように頑張りましょう」
パニック気味のベネデッタにあきらめ気味のアンドレイーナ。アンナリーザは静かに受け止め、そしてアレッサンドラはどこか勝つつもりを感じる表情で彼女を見ている。
『この御令嬢は、心が強いタイプだな』
『魔剣』がアレッサンドラを評する。当然、彼女も勝つつもりで助言をする。
「皆さんの役割はそのままです。但し、魔術には工夫が必要です」
「例えば?」
「足止めをする事になりますが、身体強化に魔力を振る必要は恐らくありません。素の能力で、尚且つ、盾を変えます」
魔銀鍍金製のシールドボス付きのバックラーをアンドレイーナに差し出す。そして、シールドバッシュで魔力壁を形成しつつ姉にぶち当たる事を提案する。その上で……足を止めた姉にアレッサンドラの『雷』魔術である『閃光』をぶつける提案をする。
『おいおい、容赦ねーなぁ』
容赦していては、あの姉を抑えることができるとは思えない。勝てば、姉に留飲を下げる事ができるだろう。五人の心が一つになる。
姉を仕留めるのと並行し、後衛のアンナリーザは黒目黒髪へ『小火球』で牽制の攻撃を与えつつ、弓銃の照準を外さないようにアドバイスする。
「……それではダメージにならないのでは」
疑問は当然だが、目的は黒目黒髪の撃破ではなくカバーに入る赤毛娘のつり出しにある。ベネデッタはこの間気配隠蔽を駆使しながら赤毛娘の死角に回り込み赤毛娘を倒してしまう。
四対四が四対二に戦闘開始早々状態を変えてしまえれば、この後の展開はさほど難しくないだろう。
悪巧みも終了し、後は姉が罠に嵌るのを見届けるのみである。
「勝って気持ちよく晩ご飯を食べたいわね」
『……まあな……』
微妙な空気となる『魔剣』。姉が絡むと、彼女はしょうもない事を言い始めるのは昔からでもある。
様子見をせず一気に決着をつける気の修道女に対して、姉たちは余裕の様子見から入るだろうことは予想できていた。そもそも、そこの温度差にしか勝利のタイミングは無いだろう。
「始め!!」
模擬戦開始の合図と同時に、姉がニコニコしながら前進していく。そして、アンドレイーナのシールドバッシュからの……
『
「め、目が、目がぁ〜!!」
姉が目を抑えて動きを止め、アレッサンドラが駆け抜けつつ背後から首を軽くたたく姿が見える。試合に注視していたリリアルメンバーたちも姉と同様に目をくらまされた者が多数いた。
『あれは効くな』
「姉さんにとても有効ね。覚えようかしら」
姉の動きを抑えて一気に有利に立った修道女達は、次に黒目黒髪を狙い予定通り赤毛娘がつり出され……
「いたあぁぁぁ!!」
「仕留めたのですぅ!!」
予定とは異なり、アレッサンドラの前進に慌てた赤毛娘の反応が仇となる。だが、黒目黒髪を弓銃で狙い、牽制の小火球を放つのは作戦通りである。
「不味いわ!」
「ふふ、私の足止めを抜けられると思うなよメイ!!」
「イーナ、ウザいわ……」
四対二となり、リリアル側は黒目黒髪が魔力壁の城塞を築き、体勢を立て直す為に一旦動きを止める。この辺りは、守りの要として即動けるだけの経験を積んでいると言えるだろう。
魔力量豊富な黒目黒髪の魔力壁を、四人は崩すことができそうにもない。
「あー ここまでかな。試合終了」
伯姪が負けを認め模擬戦終了となるのだが、姉は「あきらめないで!!」とばかりに反論するが、目がいまだに見えていないので全く説得力もなく無視されるのであった。
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二期生相手の勝利は当然として、一期生の主力メンバーを相手に勝利した修道女達を素直に絶賛するリリアル生である。年齢・身分の差の問題もあり、距離のあった二つの集団が、一気に関係が変わったようである。
「すごいことです」
「本当に。やはり貴族の御令嬢は違うんですね」
対戦した二人の一期生が素直に賞賛するのに対し、アリアの修道女達も満更ではないようで嬉しそうであるが、敗因を作った姉に対する風はビュウビュウと激しく吹き付けている。
「いつもは、姉さんが参加する時は数に数えないのよ。あの体たらくでしょう」
「それは酷いよ妹ちゃん」
「ですが正解です」
「何それ酷くない!!」
姉の傍若無人さに辟易していたのだろう、修道女達から同意する声が聞こえてくるのは当然だと言える。
その後は、彼女の作戦が功を奏したことや、『閃光』を用いた奇襲の効果等について話が広がっていった。
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