第354話-2 彼女は新装備に関して老土夫と話をする



 工房で先日の話がどの程度進んでいるか彼女は確認しに来ていた。


「おお、まだ試行錯誤中なのだが、これがその試作だな」


 銃身のない銃床だけの魔装銃に、スピアヘッドが付いた物が置かれている。


「これに銃身やその他の資材を取り付けるのでしょうか」

「そうだな。一応、この固定方法で、ここに魔銀のねじが銃床と接触して……こんな感じで魔力がスピアヘッドに流れる」


 固定していない魔銀の合金製の銃身を銃床に仮止めし、魔力を流すと切っ先迄魔力が流れたのか魔銀が輝く。


「……これ、実際に使うとどうなのでしょう?」


 老土夫に問いたいこと。スピアヘッドが付く分槍のように使えるのだろうが、槍そのものとは相当異なるはずである。


「長さ自体は槍より少し短いな。本来なら片手で突く馬上槍程度のものだ。それと、槍なら1kgもしないだろうがこれは軽くしても3㎏はあるし、銃床はしならないから、槍本来の使い方は出来ない。こう……銃床の真ん中と銃尾を持って……刺突する感じだな」


 老土夫は真ん中の部分と後端を手で持つと、顔の高さや膝の高さに刺突を入れるように操作する。確かに、槍そのものの動きではない。


「あくまでも代替に過ぎないな。とは言え、槍では起こらない事もある」


 少し低く構え、槍先を下から首のあたりを狙うと、目の前に銃口が突きつけられるのである。


「この位置で戦場において銃口を見せられて竦まぬ者もいないだろう。実際、一発は撃てるわけだからな。それに、銃床の重さが刺突の強度を高める事にもなる。下に向かって突き下ろす時はより有効じゃろう」


 確かに、槍の本来の棒を突き下ろす場合は腕の力が全てになるが、銃の重さは有効だ。


「城壁の上で防衛する場合も、遠間では銃弾、近間ではスピアヘッドで対応できれば、武器を持ち替える必要もないから、効果的ではある」

「ただし、重たいので行軍向きではない……でしょうか」

「ああ。その通りだ。リリアルの女の子たちはそもそもその任務につくことは考えないで良いのじゃろ。なら、この装備は悪いことはない。今回は、騎乗か馬車での遠征なのであれば、特に問題は……長さくらいかの」


 馬上で扱うには少々長い銃になる。但し、発砲は二人乗りの後席で立射を考えているので、それほど長さは問題ないだろう。火薬と異なり発砲音も控えめであるので、耳にも優しい。


「それと、鞍の試作品はこれだ。まあ、二人乗りをして、実際使い勝手が良いかどうか確認してもらいたい」


 後部座席には注文通り持ち手もついているので、鞍にしがみつくことも後ろの席も可能となる。鞍と鐙だけでは振り落とされかねない為である。


「魔装の馬鎧も一組だけ仕上がっておるので、これで早々に着用して試して貰えるか。問題点があれば、即修正に入る」

「ありがとうございます。早速確認します」


 工房側では一通りの調整を行っているが、彼女の視点で問題がないかどうか最終確認を行うという意味である。槍銃の銃床、馬具一式を預かり、彼女は工房を出て厩へと向かう事にした。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




「先生、お呼びでしょうか」

「ええ。馬具の確認に付き合ってもらいたいの。あなたは後ろの席で……これを背負って私に同行してもらいます」


 呼び出したのは灰目藍髪。魔槍銃の試作銃床と共に、タンデムシートに乗せる為である。冒険者の衣装に着替え、二人は厩舎から引き出された馬に二人乗り用の鞍を付けるのを見ながら、自分たちでも取り付けられるように練習をする。


 灰目藍髪は『騎士志望』であることから、厩務員(という名の孤児出身の見習)とも仲が良く、互いに確認しながら鞍を据え付けて行く。


「二人乗りで重心が取れるように、少し前よりにつける方が良いかもしれません」

「二人乗りをしてみるので、あなたも様子を見て少し乗ってから修正しましょう。先生、それでよろしいですか」

「ええ。二人で調整してもらえると助かるわ」


 今回の遠征、馬は四頭必要なのだが、二頭引きで馬車は動かすつもりなので、残り二頭はメインツで調達するつもりである。実際、鞍の着脱を四頭分行う上で、灰目藍髪が中心になって馬の管理をしてくれるとありがたい。赤目銀髪や茶目栗毛もできなくはないがこれほど厩務員とやり取りができるわけでもない。


 日頃から、騎士見習の仕事よろしく、時間の合間を見て馬の世話をするからこその関係性だろう。





 早速、二人で先ずは普通に乗り、ゆっくりと馬場を歩いて馬の調子を見る。問題はなさそうだが、少し早掛けすると上に乗る人間が二人となる分、馬の動きに合わせるのが少々難しい。


「これはギャロップ無理そうですね先生」

「いざとなれば、私は自分で走ればいい事だから大丈夫」

『どんだけ足早いんだよお前』


 実際、身体強化した彼女の疾走は馬と変わらないレベルではある。人間の通常の全力疾走が兎馬並みなので、1.5倍程度の速度だが継続時間が異なる。勿論、彼女の方が長く走ることができる。日頃見せないのは……カッコ悪いからだ。


 少し慣れた後、鞍の緩みなどを調整し、再度今度は銃床だけの槍銃を灰目藍髪に持たせて騎乗する。


「この革紐で肩にかける感じね」

「はい……」


 前の鞍に彼女が先に乗り込み、後ろに灰目藍髪が乗り込む。銃が長いため、銃を左手に持って右手で鞍を掴んで乗り上げ、その後肩に掛けるような手順となる。


「慣れるまで、乗り込むのも気を使いそうです」

「銃兵の二人にはその練習もして貰わないといけないわね」

「……頑張ります……」


 密かに騎士として騎乗の訓練も行っているのだが、実際求められているのは銃手としての腕前である。並の騎士団であれば『魔力持ち』と言うだけで格上の存在となるが、リリアルでは魔装騎士として一会戦は戦えねばならない。


 時間的には半日程度、全力で三十分は魔装で戦闘できることが要求される。今の灰目藍髪では十分程度で魔力が枯渇するだろう。同時複数の魔力の使用はその消費魔力を指数倍数的に増加させる。身体強化と魔力纏い、魔力走査の同時展開を行うだけで、魔力の消費量は四倍となる。これが、一期生上位となるとその二倍の魔術の展開、彼女であればさらに倍の展開を行う事が普通でもある。





 騎乗で銃を構え、立射する事は可能であるという結論に達する。通常、馬を止めてから射撃を行うのであるが、これは、火縄が上手く火薬に着火しない可能性と、射撃時の銃口の安定性確保のためでもある。


 魔装とは言え、完全に安定が保てるわけではないので、射撃の際は彼女達も停止して撃つことになる。


「視点が高いのが気持ちいいですね」

「遠くまで見通せても、弾丸がそこまで届かなければ意味がないわよね」


 魔装銃も通常の火縄銃並であり、有効射程は100mほどで、弾道も安定しないので人間大の大きさに命中する確率は50%程度となっている。彼女をはじめ、銃を持つリリアル生の間にさほどの差はないのである。


「魔銀弾で成功したので、恐らく魔銅弾でも同じ効果が得られると思うのですが、私の考えた新しい『魔術』を聞いていただけますか」


 今までになかったことである。彼女が用いた魔術をリリアル生に教える事はあったが、リリアル生から新しい魔術の提案をして貰ったことがない。


「それは楽しみだわ。魔装銃で使えるという事よね」

「弾丸でも可能ですが、恐らく弓銃や弓でも可能だと思います」


 灰目藍髪は言う。魔力走査の応用で行う『射撃のガイド』なのだという。


「魔力走査のように広く放射線状ではなく、目標と銃の間を魔力の線で繋ぐんです。その魔力の線の上を弾丸が走っていくようなイメージです」


 灰目藍髪は『導線dūcor』と名付けたその魔術を彼女に説明し始めたのである。



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