第354話-1 彼女は新装備に関して老土夫と話をする

 姉の率いるサボアの修道女達と幾度か訓練につき合い、それなりに交流を深めているのだが、装備をサボア風にするという事で、王国のサクスに当る鉈剣の一種を見立てる事になっていた。


 既に、リリアル滞在中の彼女の持つ『雷』の精霊の魔術に関して、アレッサドラが『加護持ち』であると『魔剣』の助言で知ったので、『雷』の魔術を覚えて貰ったり、魔装銃も姉の希望もあり何丁か渡す予定で老土夫に依頼をしている段階ではある。


 もしかすると、今の段階でミアン攻防戦で使用した魔装銃をいくつかオーバーホールして渡し、新式の物をリリアルで使用しようかと考えてもいる。





 それは、魔装銃自体に『槍』としての機能を持たせることを考えていたからである。伝え聞いた話によると、マスケットの銃身に収まる短剣の柄を加工して差し込み、装弾が間に合わない場合に槍のように使用した事例があるというのである。


『銃身に短剣差し込んだりすると、銃身が傷むんじゃねぇの?』


『魔剣』の呟きに彼女も同意する。そもそも、それでは魔装銃と槍のどちらかでしか使えないであろうし、兵士ならば横隊を組んでおり、槍の方陣の一角に入り込めばいいだろうが、リリアルの場合自衛目的以上のものにはならない。


 老土夫に装備の相談の中で話をする事にした。


「魔装銃にスピアヘッド……か。やれ、メイスにも付けたが、ここではなんでもスピアヘッドを付けたがるな。そのうち、短銃やフレイルにも付けたがるんじゃないか」


 フレイルにスピアヘッドは既に別の武具ではないかと彼女は思う。


 銃兵は、弾丸の補充に時間がかかるため。一度か二度の銃撃の後、敵の突撃を受け止めることができない為、槍兵が前に出て方陣を作る事になる。また、銃兵自体も銃を手放し、片手剣などを用いて白兵をこなす事になる。


 この、銃を手放す行為を行う事で銃を『紛失』『破損』して戦力では無くなる

事例が多く報告されている。


「銃床の木に加工をしてここに、銃口の下に20㎝程のスピアを備えられるよう工夫をして貰いたいのです」


 この場合、魔装銃は今のサイズよりも長くなる事になる。今の騎銃サイズで90㎝程だが、標準的なものなら140㎝、神国が装備させ始めたものであるなならば、180㎝もあり重さも5kgを越える。ハルバードの倍ほどの重量だ。


 その代わり、140㎝のものが射程で300m、有効な打撃を与えられる距離が100mとされていたが、新型では射程400m、有効な打撃は200m、完全鎧も100mで貫通するのだという。


「重さは、銃床を軽量化して細身にすれば何とかなる。銃身は魔銀と聖鉄の合金にするぞ」

「……聖鉄とは?」

「は! お前さんの魔力で精錬された聖別された鉄のことだ。面倒だからこれからそう呼ぶ」


 頑固な土夫と議論するのは分が悪いので断念する。ごつい銃床を細長く握りやすい形に変更し、銃口の下にはスピアヘッドを装着する。


「それと、この手の装備には突端Lugsが付き物だな」


 ラグと呼ばれる垂直につく横棒は、ウイングド・スピアに見られる「ガード」のような役割を果たす部位である。剣で斬り下ろされた場合、槍銃(今決めた)で受けるとこのラグで止まる事になる。深く突き刺して抜けなくなることも防げるのはウイングド・スピアと同じ理由である。


「槍銃か。魔装槍銃もしくは魔槍銃か。まあ、前者が面倒なくて良い」


「やりじゅう」もしくは「そうじゅう」と呼ばれる装備は、ラグと銃床の間を革紐で繋ぎ、肩から掛けられるように変更する事で、後年、リリアルの象徴的な装備と見なされるようになるのだが、それはまた別のお話。


「このブレードを聖鉄で造り、魔装鍍金して、魔銀合金銃身と銃床を固定するねじを魔銀製で造り固定するじゃろ」

「そうすれば、剣迄魔力が通りますね」

「そうじゃな。魔力量の少ない子らはいざという時の切り札に。魔力の多い新人どもには最初から使わせても……」

「十歳の子供には重すぎるでしょうし、恐らく自分の身長よりも相当大きなものになりますので却下です」


 将来的には可能だろうが、今はまだ早い。もう遅いではなく。


 リリアルのフレイルや魔装銃の装備で戦力の底上げを考えてきた彼女だが、今回の装備で、一つの結論が出そうである。


「鞘は革でつけておくからの。忘れると危ないぞ」


 槍銃のスピアヘッドのカバーは必須かもしれない。




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 その数日後、工房に持ち込まれた鉈剣ベイダナの魔銀鍍金の加工が終わり、その剣を用いての実技の訓練を伯姪が修道女達に行うという話を聞き、その姿を見学していた。やはり、彼女と比べると、伯姪は教える事が上手いように感じる。


 コミュ力の問題だとは思うのだが、上手に話をしながら相手の興味やヤル気を引き出しつつ鍛錬をするのは、経験値の差であると彼女は感じていた。


『お前、基本一人で練習する派だからな』

「そうね。それしかなかったから仕方ないのだけれど、こういう時に差を感じて少々悲しい気持ちになるわね」


 貴族の娘として、ほぼ一対一での教育か自分で何かを学ぶ以外経験がない彼女にとって、集合教育を受けたのは騎士学校が初めてであった。恐らく、伯姪は小さい頃から男爵家の娘としてニース城で様々な集団に入り込んで勉強なり鍛錬なり遊びなりを経験したのだろうと思われる。城暮らしというのは同質的な集まりであり、小さな子供たちにとっては集団で物を学ぶのに適した場所であったのだろう。


 騎士の子弟は、最初は自分の家の傍の領主の城に出仕して小姓として様々なことを学ぶ機会を得るものだが、伯姪の城暮らしはそういうものであったのだろうと推測できる。


『お前と姉は違うように、あいつとお前も違っているんだ。ないものを気にするよりも、互いが不足するモノを補えばいいんじゃねぇの』

「みんな違ってみんないいとでも言えばいいのかしらね。ありがとう」


『魔剣』は友であり時に兄貴分でもある。たまにこんな事もあるという話だ。




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