第349話-1 彼女はサボアの修道女を迎える
姉がサボアに向かって一週間。王宮から、ネデルの件での対応が沙汰される前に、サボアから姉が戻って来た。修道女達を連れて。
魔装馬車が到着し。中から姉と四人の修道女らしき若い女性が下りてくるのが執務室の窓から見える。
『まあまあだな』
「何を基準に言っているのかしら?」
『魔剣』曰く、魔力の質と量だという。今の二期生よりは格段に上だというのだが、入って半年も経たない孤児と、子供の頃からしっかり訓練を受け、更に姉の無茶ぶりを受けている成人した貴族の女性を比べる事自体あまり意味があるとは言えない。
「それほど大変ではないという事」
『大変なのはあの娘たちだ。お前じゃない』
リリアルを立ち上げた頃は問題が山積みであったし、精々冒険者の真似事をさせる程度であったなと思い出す。今は、装備も充実し、育成方法も明確であり、学院内部で分業もできている。また、王国内での認知も改善されているので、割と順調なのだろうと思っている。
彼女自身は、ちっとも楽にならない事は常に疑問なのだが。
暫くするとドアがノックされ、姉の声がする。
「失礼、お客様だよ」
「……姉さん、その方達なのかしら……新たな被害者は」
「うんそう……じゃなくって、協力者ね。まあ、似たようなものなんだけどさ」
「どうぞ、お入りください」
驚いたような顔を作り、四人を迎え入れる。さて、姉に意趣返しである。彼女が自己紹介すると、四人は大いに驚いた顔をする。そこですかさず一言である。
「……姉さん……聞いていないのだけれど……」
「え、そだっけ? サボア公領で修道女のスカウトをしたんだよ。今、ちょうどリリアルも二期生が入って教育中でしょ。この子達は少なくとも貴族の子女としての教育を受けているし、本物の『修道女』だからカバーもばっちりなんだよね。だから、あとは……」
立て板に水の如き姉の売り込みに、目を半眼にしつつ答える。
「ええ、理解したわ。皆さんは同意の上なのかしら」
「バッチリだよね。ね!みんな!!」
四人からしらっとしか空気が姉にぶつけられ、姉が慌てている姿が心地いい。失礼にならない程度で話をやめ、寮へと案内してもらう。
リリアルで昼食をとった後、王妃様へのご挨拶へと伺うようで、姉と四人のサボア娘たちはリリアルを去っていった。
昼食を共にした皆の感想は「すごい、本物の御令嬢だ!!」と言った何人かに伯姪が「私たちも本物よ!!」と彼女を含め代弁してくれていた。何か勘違いしているのではないだろうかと彼女は思うのである。
「いや、貴族の御令嬢は野営しないし」
「竜殺しもしないと思います!!」
「するわよ。するに決まっているじゃない」
「証拠は?」
伯姪がグヌヌとなっているので、彼女が助け舟を出す。
「みんな、カリナことカトリナを知っているわよね」
「赤毛の美人さん」
「胸が大きい人!!」
赤毛娘の素直さが彼女に突き刺さる。そう、カトリナは黙っていれば超絶美女なのである。
「カトリナ嬢はギュイエ公女、王家の親戚のお姫様なの。彼女も野営をするし、竜殺しの騎士ですもの、何も可笑しくないわ」
「サボア公妃に内定しているのはおかしいと思う」
「……まじで……」
「まじまじ。あんたたち、カリナと討伐行ったこと、結構自慢できるわよ」
おー!! とばかりに盛り上がる一期生。二期生は「ふーん」という感じなのだが、その内本人がやってきて絡まれるだろう。
「さっきのシスターたちは、いつから来るんですか」
「今日は王都に泊まるみたいだから、明日以降ね。最初は二期生の授業に参加してもらって、お互い確認が終わったら別カリキュラムにするわね。最初は二期生と、慣れたら一期生の活動に参加してもらおうと思うの」
わいわいと新しい「お姉さん」達に盛り上がるメンバー。一人一人の性格はまだわからないが、これからメンバーが増えて行くであろうリリアルには良い刺激になると彼女は感じていた。
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サボア娘四人は王都のニース商会邸こと、姉夫婦の自宅に泊まったので、翌日の昼前にリリアルに到着した。顔はとても疲れているように見て取れる。姉と数日行動を共にしているので、疲れるのは当然だろうと彼女は深く理解していた。
「さて、歓迎会の準備を進めましょうか」
「ええ、美味しいものを食べてぐっすり眠れば、大体のことは解決するわよね」
四人の歓迎会……と言う名目で、今日の夕食は少々豪華にする予定なのだ。多少、ワインなども出すことにする。修道院では、食事にワインが付く事は普通なので、学院生も食前酒として一杯は出される。
今日は学院の施設を色々知ってもらい、今後どこで何をするかを理解する時間に当てる事にした。彼女は同行せず、一期生と伯姪に案内を任せた。恐らく、彼女よりも伯姪や一期生が直接教える事になるからだ。
それに、先ほど彼女が見学しているところの様子を見に行き話しかけたところ、全員緊張を高めてしまったようで、あまり頻繁に顔合わせしないようにする方が良いのでは……というのもあるのだが、姉に弄られる材料にされるのも困るので、遠慮しようと考えていた。
既に、リリアルに来るまでに『気配隠蔽』『身体強化』に関しては鍛錬をし、王都に来る間に、代わる代わる魔装馬車の馭者を務めたという事で、継続して魔力を使う訓練はそれなりの段階に達していると思われる。
姉は「ニ三ケ月お世話になりたい」と言う事であったが、その程度で目途が十分つくのではないかと彼女は考えていた。
演習場で見た限りにおいてだが、魔力の扱いは子供の頃から鍛錬されているのか、伯爵令嬢であるアレッサンドラ、元冒険者であるアンドレイーナの魔力の扱いは一期生の冒険者チーム並みであった。
つまり、慣れれば即戦力になる人材であると言える。星三の冒険者が修道院で燻ぶっている事自体が姉にとっては僥倖であったと言えるだろう。雰囲気的にも、アンドレイーナはカトリナと馬が合いそうだと思うのである。
今日は彼女の得意とする『魔力壁』について、直接教える機会があった。姉はあまり使わない魔術なので、今の段階では教えていないようであるが、『侍女』として主人を守る際には、必須の魔術であると言える。
ただ、冒険者としての経験が頭にある為か、アンドレイーナは『魔術で攻撃』という考えになりがちのようであり、姉が騎士の姿で王妃様に面会させた意図通り、侍女としては難しいかもしれない。
一流の冒険者としての腕と経験は護衛として役に立つと思われるので、役割分担の中で相応しい仕事をアレッサンドラが与えるのが最も良い解決法ではないかと彼女は考えた。
「魔術を教わるもの教えるのも楽しいものよね」
『少なくとも、お前の姉や王妃の相手をするよりは確実に楽しいだろうな』
リリアル生とワイワイと話をしていく中で、四人が徐々に元気を取り戻して行ったのを見て、彼女は良かったと思うのであった。
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