第348話-1 彼女はサボアの修道女達を知る

 姉曰く「落ち込まないでよ」とサボアと王国の違いを簡単に説明する。


「王国の貴族とはちょっと違うのがサボアの貴族……というか法国の貴族たちなんだよ」


 王国の場合、戦士の集団が貴族であり、その延長線上に爵位が存在する。勿論、都市によっては爵位を購入したり婚姻により手に入れた元商人の貴族も存在する。


 法国は長らく市民兵による防衛から、傭兵を雇い戦う形に軍隊の在り方が変わっている。その結果、傭兵を雇う原資である「税」を沢山収める物が「戦う人」=「貴族」という存在に認められてきたのだという。


「だからね、商人の子爵とか、錬金術師の男爵、傭兵隊長の男爵とかそういう人がとても多い。土地を持たない貴族が王国なら精々王都の王家の臣下ぐらいだけれど、サボアはそんなのばっかりなんだよ」

「それがどうしたというの。帝国だって似たようなところあるわよ。帝国騎士なんて何万人もいるし」


 帝国は様々な「騎士」が存在し、爵位として認められない階級もある。王国の騎士よりも従騎士に近い存在であったりする。それぞれのお国柄といえようか。


 姉の話は、法国における長年の戦争が終了し、お金の流れが変わった事にあるという。戦争では、大量に物資が消費される。食料・武器・薬に人の命。商人の貴族は商売が減り、錬金術師の貴族は売れるポーションが無くなり、傭兵の貴族は仕事自体がなくなった。


 結果、サボアでは困窮する貴族が多くなり、貴族の女性が十分な持参金を確保できず、修道院へと預けられる事が多くなっているのだという。


「だから、王国ではそこまで修道院に人材はいないと思うし、まして、リリアルに参加して魔物討伐するほどハングリーな子はいないと思う」

「……そうね。王国は恵まれているのね」

「そうそう、じゃないとワイン飲んでフィナンシェなんて誰も買わないわよ」

「えー サボアでもフィナンシェ売るつもりなんだけれど」


 没落する貴族がいれば、興隆する者たちもいる。新しく爵位を得る者が姉の商売の相手となるだろう。母の揶揄いに姉がわざと困った顔を作るのもお約束だ。真面目に受け取り過ぎる彼女には出来ない会話。母と姉の間に入れず、疎外感を感じた子供の頃を思い出す。


「それで、その方達はいつ到着するのかしら」

「予定では来週」

「……来週……聞いて……いないのは私だけなのね」

「準備できてるってさ。まあ、二期生と同じ寮生活をして貰って、リリアルの冒険者活動の基礎を教えて貰えれば十分なんだけどね。一応、ゴブリン狩りとか薬草採取はお爺様と一緒に教練してあるから、後はリリアル流を教えて欲しいの。将来的には教導する立場の子達だから」


 人数は四人。伯爵令嬢、二人の子爵令嬢、帝国で星三の冒険者であった男爵令嬢……カトリナと混ぜるな危険な人物がいる。


「前向きに考えている子達だから、そんなに迷惑にならないと思うわよ。それに、生粋の貴族令嬢で修道女の人と接するのも、リリアルの子達にとっては良い機会だし、さっと迎えに行ってくるわ。後はワインも買い足しに」

「……姉さん」

「なにかな妹ちゃん」

「私も姉さんも生粋の貴族令嬢であり、夫人なのだけれど」

「あっ、そうか。そうだね。いやー 本物と接していると自分がそうじゃない気がしてくるんだよね。伯爵令嬢の子とか『爵位が修道服着て歩いている』

ってくらい、隙がないもの」


 それは、姉が隙だらけ過ぎるという事ではないだろうか。王女や公女のような上に立つ存在がいない場合、天真爛漫、傍若無人、天衣無縫のどれかに当てはまる自由人が多い。これが侯爵・辺境伯・伯爵の子女になると、上にも下にも気を使うので最も貴族らしい振舞いを求められる。


 子爵・男爵になると「一芸貴族」のようなものや高位貴族の臣下として仕える者も増えるので、また貴族らしさが薄まってくる。つまり、何が言いたいかといえば、彼女の周りにいない存在がいるという事だ。


「因みに、伯爵令嬢ちゃんがリーダーだよ」

「それはそうでしょう。爵位が下の者を上に立てるのは、角が立つもの」

「そうだね。資質の違いってのもあるんだけどね。会えば分かるわよ」

「……明日ね」

「そうそう、明日になればすべて解るよ!!」


 王・王妃への報告が終わり、リリアルの庶務に努めようと思っていた矢先、サプライズな仕事を押し付けられ、彼女は少々気鬱になりつつあった。


『まあ、姉の矛先がそっちに向かうのであれば、お前にとってはラッキーじゃねぇの』

「それ以前に、申し訳ない気持ちが先に立つわ」

『……あー お前の責任じゃないから。気にすんな!』


 絶対姉に面白半分で弄られているであろう、四人の貴族令嬢と会わねばならないという事を考えると、とても憂鬱になる。あの姉の妹という評価が最初から先入観としてあるだろうから。


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