第316話-2 彼女はリ・アトリエの実力を確認する。
二番手は『剣士』の教官。そして、赤目蒼髪は伯姪張りの剣とバックラーである。曰く「たまにはあいつと違う装備にしたい」という事である。前衛ペアは装備を揃える事が多いのだが、体格の違いを考えると、正直合わせるのは無理をしている傾向がある。
「あとは性格ね」
「積極性を評価する」
「あの、喧嘩っぱやいという言い方もありますね」
そう、赤目蒼髪は伯姪よりも喧嘩っ早い。孤児と男爵令嬢では、沸点が違うのである。伯姪のはそういうフリでもあるが、赤目蒼髪は素で短気だ。
「よろしくお嬢さん」
「よろしくお願いします教官」
剣士は所謂『優男』である。中年に差し掛かる年齢とは言え、元高位冒険者でギルドの教官というのはそれなりに女性にモテるだろうか。
「はは、手加減は出来ないから、怪我の無いようにね」
「ええ、勿論。私は手加減してあげますよ!!」
剣士教官激おこである。優男だが、気が短い。短気同士どうなることやら。
「始め!!」
掛け声とともに、踏み込む二人。そして、おもむろに剣戟が交差する……はずだった。
「があぁ!!」
「温いわね!!」
伯姪張りのインファイト。護拳は相手を殴る為、バックラーは相手の拳を叩き潰す為にある。ガチで殴りに行った。
相手の剣戟を『魔力壁』で防ぎ、跳ね上げた隙に踏み込んで、左右の腕を振り回し、護拳とバックラーのボスで両の脇腹を叩きのめす。嫌な音が聞え、恐らく、あばらが折れたと思われる。背骨じゃなくって良かったね。
痛みと勢いに顔を引きつらせる教官。身体強化で無理やり体制を立て直し、バックステップで距離をとる。
「一気に仕留めろ!!」
「イケイケ!! 嬢ちゃん!!」
ギャラリーはイケメン教官に対してとても冷たい。顔で負けても、心で負けるなと言いたいとリリアルメンバーは思う。
「冗談じゃない」
「ここは時間かけるところだろ。まぐれで負けるのは勘弁してもらいたい」
「痛みが重い分、魔力の消費も増えますから。ここは持久戦ですね」
リリアルが速度を貴ぶのは、寡を持って衆を討つからである。先手を取り、相手が対応できるようになる前に一気に討伐する。時間がかかるようであれば、一度安全な場所まで退却する。
その昔、代官の村で彼女が一人行ったゴブリンの群れへの遊撃。斬り込んでダメージを与えたら村の中に退却する。その繰り返しで凌いだのだ。その経験は、リリアルに生かされている。
だがしかし、人間相手の一対一なら話は別だ。痛みや不安は、人の動きを鈍らせる。ベテラン冒険者上りの教官だとて同じである。むしろ、生き残ったということは、そういった追い詰められた経験に乏しいかもしれない。
戦士と違い、剣士は遊撃が基本だ。つまり、優位な状態からの一撃離脱を得意とする。追い詰められるのは、余程の能力差がある場合……つまり、今回のようなケースだ。
圧力を掛けるように両腕を広げ左右を交互に振り回しながら、「逃がさないわよ」とばかりにジリジリと教官に近づく赤目蒼髪。美人系なので……かなり怖い。
「あいつ……マジで怖いんだよな」
「ネコ科の猛獣みたいなものね。虎とか……」
「女豹なんてどうでしょう?」
「「「それ(だ)(だわ)!!」」」
リリアルの女豹誕生の瞬間である。
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