第315話-2 彼女は精霊魔術について考える
『加護』について、彼女は考察するに至る。即ち、彼女には今現在『聖女』の加護が発生している。これは、生まれつきではなく、後天的に発したものであることは間違いない。
それは「神の啓示」があったからではなく、彼女の活動を知る者たちが頼り感謝し祈る事で発現した『加護』なのである。その多くは、広範囲に味方の士気を高めたり、アンデッドに対する浄化の効果を与えるなど、『祈り』に関わることが少なくない。
「『雷』の魔術は加護関係ないのかしらね」
『少なくとも、『聖女』じゃねぇな。だが、思いいたる事があるぞ』
彼女は二つの『精霊』の如き存在の加護を得ている。一つは『魔剣』、一つは『猫』である。猫が家禽として歴史上に現れるのは古代カナンの南にある大河の下流に栄えた王国で信仰された神々の中に存在する。
『太陽神という主神とな、その妻の天空神というのが存在する。つまり、太陽と空が夫婦なわけだ。王様は太陽神の化身である現人神で、妻は……とにかく、妻である天空神は猫が御使いなんだよ』
「それがどう関係しているのかしら?」
『天空神は雷も操る存在だ。つまり、「雷」の精霊を使役する存在だな。猫の精霊がいる事で、お前の周りに「雷」の精霊が集まりやすくなってるんじゃねぇかと思うんだよな』
『猫』との付き合いはまだ三年程でしかない。その間に、徐々に馴染んできた結果として、『雷』の魔術を使えるように……まあ、教えたのは『魔剣』なのだが、行使できるようになったと考えるのだという。
『俺、生身の時は雷の魔術なんて使えてないからな』
「それで良く教えようと思ったわね」
『魔剣になってから、精霊の系統の魔術も理解できるようになったんだよな。理解はできるが行使は出来ないけどな』
『魔剣』は自らの魔力がほぼないため、自身で魔力を発動する事が出来ない。
「完全に『精霊』になれば、魔力も関係なくなるのかしらね」
『そうすると、お前の家に拘れなくなるんじゃねぇかな。それじゃあ、意味ねぇだろ』
大昔の王国の魔術師の成れの果てである『魔剣』は、彼女のご先祖様の友人であったという。そして、その子の育ての親でもあった。どんな子育てしたのかはわからないが。つまり……
「今気が付いたのだけれど、あなた、すっごいお爺ちゃんなのよね」
『……まあな……』
「なぜ、年配者としての威厳らしきものがないのかしらね」
『……フレンドリーな年寄りなんだよ。悪かったな』
精霊の存在が年を経ている程、高い魔力・能力を保つことになると考えれば、年寄りになるほど強力な精霊になると考えられる。だからと言って、人間の年配者のようになるわけではない。故に、精霊が年配者としての威厳を持つとは限らない。
むしろ、若い時代、その精霊の本質が定まった年齢で固定化していると考えて良いだろう。また、『魔剣』は精々七百歳、精霊としては駆け出しといったところだろうか。
「精霊の年齢って上はどのくらいなのかしらね」
『さあな。一万、二万歳ってのはあるんじゃねぇか。人の歴史の記録が残っているのがその位だからな。まあ、ほとんどその頃の文字は読めない。聖典の記録もその位だろう』
聖典の内容を推定すると六千年から七千年遡れることになる。もう少し前かもしれないので、魔剣はそのくらいと推定している。
『まあ、年の話はこのくらいにしようぜ』
一晩眠った彼らは、改めて冒険者ギルドを訪れる事になる。加えて、オリヴィの友人である商家の人を紹介してもらえることになっているので、今日は修道院に向かう事になるだろうか。
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冒険者ギルドに向かう彼女たち一行。今回は歩人も同行する。
「あなたも冒険者登録したいのかしら」
「……パーティー単位で活動するんだから無理だろ? でございますお嬢様」
「ふふ、ほんの冗談よ」
歩人は茶目栗毛の下位互換。主に学院の侍従役として、使いや学院長代理である彼女の祖母の手伝いをしている。王国の冒険者ランクは『薄黄』であるものの、あまり討伐には参加していないので、冒険者としての能力は正直微妙である。赤目銀髪がいるので、戦力的には被るかもしれない。
「そもそも、商会の令嬢が使用人を連れて歩かないなんてのは、外聞がわりぃだろ……でございます」
「そうね、すっかり忘れていたわ」
王都での冒険者・薬師活動の最中は当然供を連れる事もなく、それ以降はリリアルの関係者を伴う事が多いので、一人になるという経験が最近不足している。周りから見れば、彼女は王国からきた貴族の令嬢兼商会の代理人であるから、美味しい餌に見えなくもない。
返り討ちにするのは問題ないが、その後、吸血鬼どもが警戒してしまっては本末転倒である。と思いつつ、歩人は誠に遺憾ながら同行させることにしたのである。
冒険者ギルドに先頭を切って胸を張り入るのは赤目銀髪。昨日の腕相撲の件で一躍有名人である。
「おい!! あれが……」
「嘘だろ? 子供じゃねぇか」
「ばっか、オリヴィさんの紹介だぞ……マジで強えぇから」
ざわざわと冒険者ギルドの中がざわつく。既に朝一の依頼の受注は一段落しているものの、パーティーの集合待ちの人出でギルド食堂が混雑している。視線が多いのも、その辺りである。
受付の列に並ぼうとすると、カウンターの後ろから、ギルマスが「こっちに頼む」と声をかけてきた。
「改めて、今日はよろしく頼む」
「ああ、こちらこそ」
「よろしく」
「えーと、星一つだったら試験受けなくても……良いのでしょうか?」
碧目金髪は、自身は『薬師』がメインであり自衛とパーティーの支援がメインの仕事なので、冒険者等級には拘りがないので遠慮したいと述べる。
「むぅ、カエラ姐さん、随分弱気じゃないですか。胸は強気なのに」
「胸が大きいと弓に向かない。私は自重しているだけ。でも、カエラの自重は必要ない」
「パーティーメンバーの平均が高い方がパーティーのランクが上がるので、そこは協力してもらいたい。これは、リーダーからの命令だ」
「……誰がリーダーよ。馬鹿じゃないの?」
青目蒼髪がリーダーの場合、他の三人は全員女性なので、所謂『ハーレムパーティー』になってしまう。まあ、そうは全然見えないのだが。
「面倒ごとはヨロ」
「妥当というか、前衛のお二人が務めるのが妥当でしょう。私は異存ありません」
非常に消極的な理由でリーダーが決定する。
「とりあえず、鍛錬場に移動してもらおう。オリヴィ達も一緒で構わんぞ」
こうして、中庭にある鍛錬場へとリリアルメンバー改め、リ・アトリエ関係者は移動する。そこには、暇な冒険者たちもゾロゾロとついて来るようである。
中庭はさほど広くはないが、立会をする程度のスペースは十分にある。立木や木人が用意されており、また、鍛錬用の剣や槍、模擬専用の木剣等が用意されており、ギルドの教官らしき職員がその場所に何人か待っていた。
「おいおい、こんな子供相手に俺たちが模擬戦すんのか?」
「いくらオリヴィ=ラウスの推薦とはいえ、ホントに王国の冒険者ランクって正しいのかよ」
教官の間に四人の評価に対する微妙な疑問が存在するようで、聞えよがしに声が聞こえてくる。そして、それは背後に続く冒険者たちからも聞こえてくるのであった。
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