第292話-2 彼女は『悪竜』と接触する

 暫くして、状況が動く。毒を加えた尾の部分は霜焼け程度のダメージしかなかったようだが、段々と動きが鈍くなってきたようにも見える。


 すると、尾が3mほど千切れて激しく動き回る。


「おおおおおお!!!」


 カトリナが懸命にバスタード・ソードで斬りつけるのだが……


『トカゲの尻尾切りだなあれは』


 激しく動くのは囮にする為であり、本体へのダメージはない。


「カトリナ!! トカゲの尻尾ヨ!! 放っておきなさい!!」


 気が付いてしばし赤面するカトリナである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 伯姪の息が上がってきた。


「下がって。油を撒くわ」

「……久しぶりね!!」


 最近、魔物に油をぶつけて燃やす攻撃をする事は無かったが、この毛長蛇亀には有効かもしれないと考え、投擲を行う。


 油球が一つ、二つ、三つ、四つと次々に着弾し、身震いするラブルである。そして……


「小火球」

「小火球!!」

「ん、では小火球!!」

「小火球……」


 四人がそれぞれの位置から小火球を発し、カトリナ以外の小火球が着弾、炎上する。


 Gwaaaa!!


 炎のブレスは逆効果であり、さらに己の体の毛を燃え広がらせることになる。


「さあ、あるだけぶつけてあげましょう」

『なんだか、効いてるのかこの攻撃……』


 毛が燃える臭いが山間に立ち込め、胴体を炎が舐めるように燃え上がる。


 Geeeeeaaaaa!!


 竜が炎を吐くものは多いが、その姿は鱗状の外皮で覆われており、この手の攻撃にも耐久性があるのだが、ラブルの体毛はそれなりに燃えてくれている。ラッキー。


「意外な弱点ね」

『まあ、竜に油を大量にぶつけて燃やそうなんて考えるやつはそうはいないからな』

「ふふ、発想の転換の勝利……かしら」


 燃え暴れる『竜』を魔力壁で抑え込みつつ、他の三人は体力や魔力を回復させるポーションを飲んでしばし休憩である。


「ねえ、タラスクスの時ってこんな感じだったの?」

「いいえ。あの時は川岸に上がったところをリリアルで袋叩きにして、円形闘技場に追い込んで滅多打ちね」

『お前、竪琴弾いて歌ってたじゃねぇか』

「四人しかいないのに、あまり意味が無いから、今回はポーションで回復しているのよ」


 あまり触れられたくないらしい。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 毛が燃え尽きた『ラブル』は、どこかで見た様相をしている。


『これは、東方に伝わる幻獣に似ているな。何だったか……』

ゲンブ玄武よ……確か」


 水神の慣れの果て、恐らく大昔はラマン周辺の護り神として崇められていたのだろう。今となっては……すっかり魔物として誰かに使役されているのだろう。哀れではある……が、討伐しなければならない。


「胴体は足の長い亀そのものね」

『長い首の亀……が竜に変化したのかもしれねぇな』


 亀も鰐もとても長生きする生物である。その長く生きる間に霊的に変化し、『竜』の一種となったかもしれない。精霊を体内に取り込んだ可能性もある。


「どう、魔力、随分と減ってるんじゃない?」

「では、追撃をしましょう。聖油も……残っているのよ」

「良いわね、さらに効果ありそう!!」


 聖油球を複数形成し、様々な角度に『ラブル』に命中させる。体毛を失った竜から流れ落ちる前に、小火球が次々と命中し、再び大きく燃え上がる。


 Gwaaaa!!


 長い首を振りまわし暴れる『竜』の体の部分で、既に皮膚や肉が見えている箇所に、三人が切りかかる。


「だあぁぁぁぁ!!」

「……ぐっ!!」

「そりゃぁぁ!!」


 長い首に次々に切りかかる三人に向かい、『ラブル』が口を開け炎を吐く『溜』を見せた瞬間……


「いま!!」


 彼女と伯姪が魔装ピストルを放つ。その魔装弾は口中に飛び込み、思わぬ痛みに吐きかけた炎ごと魔石を飲み込む。そして、喉が弾ける!!


 Guuuaaaaa……


 今まで下したことのなかった首が一瞬地面に落ちる。その隙を見逃さず、カトリナとカミラは傷口をえぐるように攻撃を繰り返す。


 もう、それほど……抵抗する力は残っていないだろうか。


『そろそろ、仕上げで良いんじゃねぇの』


 甲羅に守られた竜の心臓を破壊しなければ、時間の経過とともに『ラブル』は回復するだろう。


「止めを刺すわ」

「「「応!!」」」


 三人が武器を構えたまま後退し、彼女は近寄ると、魔装笛を構え、その甲羅にピタリと照準を付ける。左わき腹の辺りである。


『引っ繰り返せねぇか。その方が確実だろ?』


『魔剣』の提案に同意し、彼女はカトリナに声をかける。


「カトリナ!! あなたに見せ場を作ってあげるわ。竜の甲羅をひっくり返してちょうだい」


 彼女の提案に伯姪とカミラは驚いたが、カトリナは一切躊躇せず「承り!!」と叫ぶと、最大に身体強化をしたうえで、亀の脚をへし折り、その上で甲羅の端をもってせーので引っ繰り返したのである。


「どうだ!! 私の力は!!」

竜返しドラゴンフリッパーだな』


 見事、巨大な竜をひっくり返したカトリナは、伝説の『竜返し』として長く王国で語り継がれることになるのは、後の話である。


 どこまでも残念公女カトリナ……



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