第286話-1 彼女は魔装馬車を『醜鬼』から守り抜く
王宮からの返事を待つ間、彼女たちを供にし王女殿下と公太子の二人は、彼女ら四人の騎士を伴い、レンヌ周辺の様々な場所に出かけていた。
「魔装馬車はやはり快適ですわー」
「……動いているのですね……」
お迎えの魔装馬車に、彼女とカトリナと婚約者の二人が客室に座り、カミラと伯姪は馭者台に乗っている。流石に、王国副元帥と公爵令嬢に馭者をさせるわけにもいかない。
――― カトリナの場合、別の意味で問題を起しそうで不安である
現在、お二人の散歩用(兼王女殿下の緊急脱出用)の二輪魔装馬車を王都で艤装中である。これは、王女殿下用に製作したものをレンヌ大公の紋章などを加え、また、レンヌの紋章の色に合わせた内装にする事や、オープン部分の魔力による防護機構を追加することで安全性を拡張することを行っている。
リリアルでの魔装の強化は実施済みであり、後は王宮の馬車職人による艤装を残すのみだ。
「外見は普通の黒塗りの箱馬車なのだが、どのあたりに工夫があるのか出来得る範囲で教えてもらえないだろうか」
彼女は、フレームと車軸に魔装を施し、魔力による強化と振動の吸収を実施している事を伝える。また、浮遊効果を発揮させているため、中間加速後はほぼ馬は重さを感じずに走ることが出来、魔力による疲労の減退効果も享受していると伝える。
「同乗者、この場合は王女殿下の魔力が微量消費されております。魔力を有する者が馭者を務めるか同乗しておりませんと効果を発揮いたしません」
「なるほど……貴族や王家の者であれば魔力を有する事は何ら不思議ではないか。馭者に魔力を持つ者を雇うことも可能だろう」
「王家の場合、近衛の騎士を配置すれば、ほぼ解決されます」
「それは、レンヌの親衛騎士も同様だ。貴族の子弟が多いからな」
とは言え、レンヌ大公に魔導馬車を授与するのは、公太子妃として嫁ぐ際の引き出物となるだろうか。
「おかあ様におねだりしてみますわ♡」
王女殿下的にはレンヌへの嫁入り道具に必須のようである。
レンヌの公都周辺を魔装馬車で当てもなく流す事になっていた。
レンヌは小さな沼や湖と湿地が入り組み、丘や山との間を街道が縫うように巡らされていると言えば良いのだろうか。王都近郊の風景を見慣れた彼女からすれば、まさに別世界のように思える風景である。
「湖が沢山あって、とても雅な風景ね」
「まあ、その通りなのだが、船を使って逃げられると追うのも難しい地形だとも言えるのだ」
オークのみならず、人間の賊も追いかけるのは手間がかかるし、見つける事も難しいのだという。故に、争いを起さずに出来る限り話し合いか、均衡した状況を保つようにしているのだという。
「大叔父が亡くなれば、父の影響力が回復する。それに、父の従兄弟にあたる次期伯爵は大叔父ほどの人望はない。王家との結びつきを強め、良き統治を進めれば、彼に従う者はまずいなくなる」
「なるほど。時が味方をする状況なのですね」
「そうだ。そこで、相手は『
お忍びという事もあり、この馬車に大公家の護衛騎士はついていない。
「それで……こんな事も起こる……」
馬車の天井をガンガンと叩く音。どうやら、何かが馬車を襲う為に現れたようである。
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両側を池と湖に挟まれた狭隘な街道の前面には大きな岩。そして、その左右からは数人が乗れるだろう小舟に乗った武装した集団が押し寄せてくる。馬車は方向転換も出来ない状態である。
「来たわよ。数は結構多いわね。二三十ってところかしら」
「おそらくは兵士と同様の武装をした『醜鬼』です。如何しますか!」
勿論迎え撃つのだが、役割分担である。
「男爵に委ねる」
「承知しました。お二人は馬車の中で待機を、一応、武具の用意をお願い致します。王女様は魔力の維持に集中を。多少揺れる事があるでしょうが、竜の炎や攻城用の大砲の弾でも無い限り馬車は安全です。公太子様は、王女様の心が乱れないようにお助け下さい」
「ああ、手を握り抱きしめていよう」
「……」
王女殿下も少々落ち着いたようである。二人で存分にイチャイチャしていただきたい。
「私たちはどうする」
「私たちは水馬で切り込むわ。あなたとカミラは馬車に押し寄せる敵を排除してちょうだい」
「ああ、任せておけ。一匹たりとも生かしては返さん」
「あと、死体は回収してちょうだい。依頼をする為の証拠にするから」
「承知!!」
馬車の外に飛び出し、バスタードソードを構えるカトリナを横目に、彼女は馭者台の伯姪を呼び、『水馬』を出して続くように伝える。
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