第282話-1 彼女は一先ずラマンに向かう
騎士団長は、ラマン支部の引き締めも兼ねて自らも向かうと告げた。凡そ、中隊編成の騎士を動員し、行軍演習も兼ねるという。
「動員と準備に時間がかかるが、殿下がラマンに到着するまでには整えることができる。ラマンで待ってもらえるだろうか」
「勿論です。事前に、竜の情報収集をラマン支部に命じていただくこともお忘れなく」
「承知した。では、ラマンで会おう!!」
騎士団長は命令書を彼女に預け、自ら指示書を書き始めた。
待たせていたカトリナらと合流し、王宮に向かうと既に、迎え用の馬車は用意されており、王妃様が待ちわびていた。
「あらーおはよう皆さん」
「「「「おはようございます王妃様」」」」
「「……(え、随分と軽くね?)」」
王妃様と初めて会う従騎士二人が固まる。
「こちらのお二人は初めてね。今回は王女の護衛、よろしくお願いいたしますね」
「「はい!! お任せください!!」」
言葉も固く何とか返事をするヴァイとアンドレである。
「王妃様、実は、途中のラマンの街周辺で怪物が現れたという情報がございます」
「まあ、南都の竜だけでなくまたですか」
何だかとても嬉しそうな王妃様である。見に行こうとか絶対言うなよ! フリじゃないからね!!
「こちらに到着が遅くなりましたのは、殿下の護衛とは別に騎士団に直接ラマン周辺の安全確保を依頼した為です」
「そうなのねー ミアンの次はラマン。なんだか騒がしいこと」
王宮や王都の静寂さからすれば、想像もつかないほど王国は様々な魔物から攻撃を受けている。その大半は……彼女が対応しているのだが。
「でも、あなた達ならきっと何とかするでしょ?」
「……ご期待に沿えるよう鋭意努めます」
「私も向かうのだ。叔母上、安心していただきたい」
カトリナが決め顔でそういったのだが……
「カトリナちゃんはちょーっと力み過ぎて空回りしがちだから、リリアル男爵の指示を良く守ってちょうだいねー」
「……」
王妃殿下、よく人を存じていらっしゃいます。竜相手に魔銀のバスタード・ソードではそれほどダメージが入らないからね。まして、硬いと言われる毛を蓄えているらしいからマジ無理だよ!!
彼女たちは四頭立ての魔装馬車を受け取り、一先ず、ラマンまで移動することにした。
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王都を抜けるまではそれほどの速度を出していなかった馬車だが、城門を抜け、街道の交通量が減る郊外に出た所で、試しに速度を上げさせてみた。実際、ギャロップ程度の速度をだすことは可能なのだ。止まれないが。
「……は、速いな……」
「振動はほとんどございませんね。優れた乗り物です」
「酷かったもんね、レンヌの帰りの馬車は」
「それでも、王家の馬車ですもの。相当乗り心地は良い部類よ」
馭者台の二人は完全にテンションが上がっているので、暴走状態の一歩手前である。
「この架台に秘密があるのか?」
「架台と車軸に魔装が施されているわ。それと、この馬車の場合、客室部分にも魔装糸を織った布が外装と内装の間に挟みこんであるので、火砲の類いも魔力を注入していれば問題なく弾くことが出来るわ」
「……そうなのか……」
彼女たち学院用のものよりも数段上の魔装が施されているので、その防御能力は下手な城塞並となっている。
「今、私が魔力を通しているから、アンデッドが攻撃してきた場合、攻撃した側が浄化されることになるわ」
「……ミアンに持ち込めば無敵だったのではないのか」
残念ならが馬までは護れないので、それはどうかと思う。魔力壁で浄化するなら騎乗で十分であったわけだし。
「この調子だと、恐らく二時間ほどでミアンに到着するわね」
「……早いな……」
カトリナやカミラほどの魔力があれば、恐らくギュイエ公領のボルデュまで二日くらいで到着できるだろう。本来は十日から二週間はかかるのだが。
「ギュイエ公家でも一台……いや、三台ほど欲しいな」
「……王家の許可をいただければ予算次第で作れるかもしれないわ」
「なに……話すだけなら只だしな……叔母上に強請ってみるか!!」
騎士学校を卒業してから直接共に冒険をする事もなくなるカトリナであろうが、何かあるたびに誘われそうで彼女は恐ろしくもある。カトリナに魔装馬車……王国狭しと駆け巡りかねない。
「私の馬車は、真っ赤な客室にしてだな!!」
「許可を取ってから考えた方がいいんじゃないカトリナ」
「む、確かにな。何かの褒美で許可をいただけると嬉しいのだが……」
近衛騎士として手柄を立てて、馬車を手に入れる。とても真っ当な気がするが、『竜』討伐でないことを祈る!!
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