第279話-1 彼女は討伐の総仕上げに参加する

 翌朝、西門からリリアルの銃兵女子と鍛冶師の一行を送り出したのち、彼女とリリアル生は東門の討伐の総仕上げにかかる事にした。


 東門の正面にミアンに先着して防衛戦に加わった聖騎士と魔力を有する市民兵、冒険者に彼女が魔力壁で防御ラインを引きつつ、乾いた地面の部分を押し上げ、水際まで追い込む。


 同時に、リリアル生は『水馬』を用いて外郭外周側から侵入、押し込まれるアンデッド・ナイトらを討伐する挟撃の作戦である。


「今回、私は『魔装銃』での射撃に参加するわ!」


 魔力の少な目な伯姪からすれば、剣での持久戦よりは射撃と聖魔装弾による浄化の方が貢献できると判断したのだろう。


「ん、これは『狩人』に対する挑戦……」

「一人だけ銃手ってのも張り合いがないでしょ?」

「なら、その勝負、受けて立たざるを得ない」


 赤目銀髪は弓から銃に武具を変えて射撃を行うつもりであったようだが、伯姪の参加でやる気が上がっているようだ。


「じゃ、私も参加で!」

「ヴィー銃を貸すのは吝かではないのですが……」

「これでも錬金術師に薬師よ。魔力の細かい制御だって問題ないわよ」


 姉の暴発事故を考えると、この帝国の魔術師の腕前に一瞬不安を感じたものの、天翔けるほどの術を駆使する彼女に姉と同じ問題が発生するわけはなかった。


「正門組、私も参加しましょう」

「ビルもたまにはいいところ見せたいもんね」

「ええ。リリアルの皆さんには見知って頂けた方が良いでしょうから」

「じゃ、俺も正門参加か」


 狼人も戦士姿となり登場。片や亜人、片や人化した魔剣ということで、何となく不安なのだが……後は野となれ山となれ!! 何なら穴となれ。


 そこには、彼女の従者である歩人もいた。


「俺も参加かよ」

「何なら、今すぐにでもあのワイト擬きの中に放り込んであげるけど?」

「じょ、冗談だよ冗談。さ、張り切って参りましょう!! でございます」


 いつもに増してヤル気の無さにイラっとした伯姪に脅され、途端に活性化した歩人だが、ヴィーは初めてその存在に気が付いたようである。


「ねえ、あなた歩人なのよね」

「ああ、そうだが」

「セバス、ヴィーは私の客人であり、王国の客人でもあるわ。敬意を示してもらえるかしら」

「……デゴザイマスお客様」


 無理やり作り笑顔で挨拶すると、ヴィーはその事は無視し、単刀直入に話し始めた。


「でも、なんで歩人なのに、地の精霊ノームに嫌われてるの?」

「はあぁ!!!」


 歩人の顔が蒼白になる。どうやら、ヴィー曰く、土夫や歩人は精霊の流れをくむ存在であり、特に存在が近しい地の精霊であるノームとの関係が強いのだという。故に、『土』系統の魔術がとても強力なのだというが、この歩人であるセバスは、ノームが避けているというのである。


「……あんた、郷中の女子に嫌われて飛び出しただけじゃなく、精霊にまで嫌われてるって……何やらかしたの!!」


 伯姪の歯に衣着せぬ追及……どうやら人前では言いにくいようである。


「馬鹿なことしたんでしょ? アリー、この子って学院に必要な従者なの?」


 思わず「べつにー」と言いたくなった彼女だが、こんな見た目詐欺のおッさんでも祖母は可愛がっているようなので、『是』と答える。


「私は特に必要ではないのですが、『ひでえ』学院長の代理を務める祖母が重用しておりますので、それなりには」

「そう。なら、セバスの精霊に嫌われる状態改善をすることも出来るわよ」


 ヴィー曰く、『土』の魔術は落し穴や土塁、馬防柵を形成するなど、役に立つ者が多く、鍛冶においても刃を強靭にしたり鋭さを増すことも可能だという。


「何でそんなことを俺が」

「セバスの月々の給与から天引きで支払いますので、是非、ノームとの関係性を改善してください」

「……本人の意思無視かよ……」


 暫く、ヴィーと同行し、山野で生活をしながら土の精霊との関係を改善する必要があるという。赤目銀髪とは狩人の修行を付けるつもりなので、その際同行させ、手伝い兼精霊魔術修行を行う事にしようかと提案する。


「雑用係は必要」

「なんだよ、俺は野宿苦手なんだよ」

「その割には、拾ったときは何日も、何か月も野宿していたみたいだったよね」

「……うう、俺のトラウマ刺激して、みんな楽しいのかよ……でございます」


 セバスは、とある山賊に扮した傭兵の潜む砦を討伐した帰りに彼女が拾った。故郷を出て独り立ちを目指したのだが上手くいかず山野を彷徨する存在となっていたのだ。


「と言うか、相当悪さしたんだろうね」

「こいつ、里長の息子って事で調子にのってやらかしまくって逃げ出した口だから、ノームや他の精霊にも何かやらかしてるんだと思うわよ」

「よ、余計なことを……」


 どうやら図星のようだ。里長になれそうにもない理由も、魔力はそこそこあるものの、土魔術が全く使えず、理由がそれでは郷にいられるわけがない。


「いまさらよね」

「……学院の恥部といったところかしら……」

「……泣いてもいいでしょうか……お嬢様……」


 これでしばらく、赤毛娘や伯姪に弄られることは間違いない歩人である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る