第278話-2 彼女は王都からの増援の到着を知る
ようやく、王国軍主力組が到着。王太子の指揮下に入る事になった。これで、リリアルはお役御免と言うところだろうかと、彼女は肩の荷が降りる気持がした。
リリアル生も一週間近くの対応にかなりの消耗となっていた。市民兵は勿論疲れているのだが、彼ら自身の護るべき街と家族の存在を考えれば当然なのである。
「そろそろ帰り支度してもいいかもですね☆」
「そうだよねー 学院のベッドは恋しいよー 騎士団のはやっぱ固いわ」
赤毛娘と藍目水髪が帰りたいと繰り返す。遠征慣れしているとはいえ、常時警戒をこれほど長い期間経験したのは初めてだ。
「先発で返しましょう。銃兵女子と鍛冶師メンバーは帰宅第一陣とします。明日の朝にはここを発つように準備をしてください」
「「「「はーい!!」」」」
魔力が少ないながら、毎日百以上のワイト擬きを倒しているメンバーはかなり消耗していた。これ以上の討伐参加は難しいだろう。残は恐らく二百程度。密度も薄くなってきたので、冒険者組で討伐を一気に行う方が早いだろう。
「冒険者組は明日、東門のアンデッドを一気に討伐します。今日中に聖魔装のコンディション回復を鍛冶師に依頼してください」
「「「了解です」」」
「私は、今回、魔装銃で参加したい」
「ええ、ヴィーにアドバイスをもらっても構わないわ。手伝ってもらえるかしらヴィー」
「勿論よ。早く王都に行きたいもの。手伝うわ」
ヴィーは王都の街並み、人の営みに興味が、ビルは主に王国の食べ物と中でもとりわけ「フィナンシェ」を堪能したいとのことであった。食いしん坊の魔剣である。
昼間の睡眠が終わり、今日から夜間の哨戒任務からリリアルは外れる事になっており、明けて明日からは東門の討伐に注力することになっていた。
「副元帥閣下。お目覚めでしょうか」
「……はい。どなたでしょう」
「大変失礼いたしました。元帥閣下から、明日以降の討伐の作戦会議への出席の依頼が為されております」
「……では、三十分ほど頂けますでしょうか」
「承知いたしました。その時間にお迎えに伺います」
ただのリリアル男爵であれば、使者一人で案内できるのだろうが、王太子殿下と軍内においては同格とされる『副元帥』を護衛なしで迎えに来るわけにもいかないという事情がある。
騎士の衣装に着替え、副元帥の身分を示すサーコートを身に着ける。正直、好きではないが高位貴族も同席する可能性があるので、あまり略式の衣装というわけにもいかない。
「お迎えに上がりました閣下」
「では、案内を頼みます」
四人の騎士に護衛された小柄な彼女は、傍から見ればどう思われるのだろうと危惧しつつ、会議の場所は西門にほど近い騎士団駐屯地の会議室であった。というか、敷地内である。
既に会議室には王太子殿下をはじめ、騎士団長、それに類する高位の騎士が揃っていた。タラスクス討伐が個人的な武勲を示す場であるとすれば、王国元帥としての初仕事がこの『ミアン解放』の戦となるのであろう。
「待っていたよ副元帥。さあ、私の隣に」
「……お待たせしました」
「いや、君の手腕で帝国の工作を防ぐことが出来たのだ。遠征開始から十日間、不眠不休でこの一大事に最前線で指揮を振るってくれたのだから、この場に少々遅れることくらい当然だ。であるな、諸君」
「「「「はっ!! リリアル閣下に感謝致します!!!」」」」
とても綺麗に声が揃ったので、もしかすると王太子が練習させたのではないかという疑惑が頭をよぎる。彼女の父か祖母の世代の軍幹部に頭を下げさせるのは気が引ける。
「いいえ、王国に仕える騎士として当然のことをしたまでの事です」
「さすが、王都を護るために夫婦そろって討ち死に為された名誉の騎士の末裔。まさに、王国騎士の鑑と言えましょう」
「魔術師としての才覚のみならず、自ら鍛えた騎士団を率いての獅子奮迅の活躍。副元帥閣下がいらっしゃれば、王国の守りも鉄壁となりましょう!!」
ほめ殺し良くない……と彼女は内心思うのである。
軍議は現状の敵戦力の報告と、役割分担の確認となる。
「南門開放は騎士団と魔装騎士団の組合せで実行を頼む」
「承知いたしました」
「間違いなく」
ワイト擬きに関しては、騎士団の聖魔装装備の魔騎士分隊を投入する事が確認される。
「北門解放は、聖騎士団と近衛連隊に任せる。スケルトンを近衛連隊が掃討し、ワイトに関しては聖騎士のチームに委ねるものとする」
「はっ!」
「お任せください閣下」
ワイト擬きに多少撫でられたとしても、司祭の解呪で回復可能であるから、臆せず戦うように王太子から下知が飛ぶ。
「さて、問題は東門の解放だが」
「東門はリリアルとミアン市民兵にて実行致します」
「そうか。それではよろしく頼むぞ」
「はい」
王太子殿下は明日の午前中におおよその討伐を終えるべく、払暁から攻撃を開始するものとした。早朝攻撃であれば、明け方の奇襲に対応する余地も生まれる。悪くない選択だと彼女も理解した。
「副元帥。明日はよろしく頼むぞ」
「ええ、これで仕上げで、明日の午後には王都に戻れるようにしたいと思います」
「……そうだな。だが、騎士学校の生徒は戻れんぞ。未だカリキュラムの範囲だからな」
「……うそ……」
帰れるとばかり思っていた彼女にとっては大きなショックであり、恐らくは伯姪も同じ衝撃を受けると思われる。伝えるのは気が重いことだ。
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彼女が伯姪に騎士学校の生徒は居残り確定と伝えると、彼女同様に激しく衝撃を受けていた。
「ほんとうに? ありえないわよ!!」
「そこは妹ちゃんの副元帥特権で何とかしちゃおうよ☆」
「王太子殿下の元帥命令だから無理よ」
姉は「ありゃりゃ」と答え、腹が立つ。今一つの懸念は……
「私たちの王都への移動はどうなるのかしら」
ヴィーとビルをここにいつまでも滞在してもらうのは気が引ける。姉が気を利かせてこう告げる。
「私の馬車に乗る? リリアルの子達の兎馬車とはちょっと違うけど、良い馬車だよ」
「王国の馬車は何か違うの?」
「うーん、リリアル謹製魔導具の魔装馬車。魔力を通す事で、重量を軽減したり、強度をあげるから、馬車の速度が凄く上がるのよ」
ヴィーはとても興味を持ったようだ。だが、魔装銃同様、王国とリリアルの院外秘装備なので、あまり大きな声で話さないでもらいたいと彼女は思う。
「リリアルは魔導具作りにも力を入れているのね」
「学院生を護るために必要な物には手間もお金も惜しみたくないのです」
「いい先生だね。なんだか、私の先生を思い出すよ」
ヴィーは懐かしそうな顔をし彼女に告げる。薬師・錬金術の先生、狩人の師匠と師に恵まれた人なのだろう。その思いの深さが顔に現れており、彼女は少々羨ましくもある。
「学院っていいね。みんな孤児出身なの?」
「今の段階ではそうです。将来的には内部生は今の採用方法で、外部生は一般の希望者を学ばせる場を設けるつもりです。その前段階として、王都には『中等孤児院』という孤児の職業訓練校を建設中です。職人や商人、官吏や軍人になる為の勉強を孤児が集団で行う場所です」
彼女の言葉にヴィーは驚く。
聖職者であれば、学ぶ場は用意されるものだが、職人も商人も軍人も徒弟から入り親方にこき使われて覚えるものである。それも幼少期から。故に、孤児が途中から入れるわけもなく、結局傭兵や使い捨ての力仕事にしか就くことはできない。因みに、聖職者は実家の寄付で左右される。
家族や親族のコネクションを必要とする商人・職人のギルドに所属するのに孤児は非常に不利だ。それは、帝国のような特権都市が幅を利かせている社会では覆しようがない。
「リリアルって面白いね」
帝国の女魔術師にして冒険者であるオリヴィ・ラウスは本心から、王国とリリアル学院のあり方に興味を持っているのである。
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