第278話-1 彼女は王都からの増援の到着を知る

「へー リリアルの生徒たちが馬車で行商する。凄くいい考えだね」

「だしょ? その為にもいいものをたくさん作ったり、村で内職してお金が稼げるようにしてあげないとねって言うのが、妹ちゃんと私の考えなわけだよ」


 『行商人』という繋がりで話が括られた彼女と姉とヴィーは、リリアルの行商人計画で話が盛り上がり始めたのだ。


「リリアルの村って発想が王国の貴族だよね」

「でしょう? まあ、王都周辺は王領ばかりだし、貴族も王の親族がほとんどだからね。帝国みたいに、小さな領主から皇帝を凌ぐほどの経済力をもつ選帝侯だとか大貴族が勝手にやっているのとは違うよね纏まり方が」


 その中に、商人同盟ギルドの存在や原神子教御神子教の相克もあるわけだから、付いたり離れたりも非常に複雑だ。


「ギルドの存在も都市は潤っても、周辺の村が置き去りなら成長するにも限界があるしね」

「そうそう、お金持ちだからって何倍も食べられるわけではないしね。色んな人が手にできるようなものを増やしていかないと、村も都も豊かにならないんだろうね」


 外からきた蛮族や、専業戦士が農村から『年貢』を受け取る仕組みが定着して長くたつ。その間、農村はちっとも成長せず、年貢を集めた戦士や蛮族どもは都市を形成し豊かになっていった。


 とするなら、最初から異なる存在である都市と農村が交流できるわけが無いと考えるのが自然だろうか。


「でもさ、同じ言葉を話して同じ場所に生きている……でも塀の中と外で全然違うって言うのは……なんかおかしいと思う」


 姉はポンコツだが、直感的に正しいことを言う時がある。多分これはそんな話だと彼女は考えた。


「そう言う意味ではさ、全員じゃないけど孤児の中から魔術師の卵を探し出して育てて、その子たちが孤児院に自分たちの得たものを還元して下の子達の中から可能性のある子が伸びてくるようにするって言うのは、凄くいいことだよね。流石妹ちゃん……と王妃様だね」

「あまり褒めないでちょうだい。それに、孤児院を最初に運営してくれていた篤志家の方や教会の皆さんにも感謝しなければならないわ」

「そうだね。王国はその辺り、とってもいいとおもう。帝国はどうなのかなヴィーちゃん」


 姉はヴィーに帝国の孤児事情を聞きたかったようだ。


「普通は、その村、その街で生まれた孤児しかその場所の孤児院には入れないし、村の場合は村長が下働きとして住まわせる感じかな。後は放置だね」

「そうなんだ。王国は、王都に捨てに来る人が結構いるよね。そこで、孤児院に連れてこられる感じ」

「そうね。今は多少マシになったけれど、食事も燃料も不足していて、とても可哀そうな子供たちで溢れていたわね」

「でもさ、受け入れられるだけましだよね。村で生まれても王都に捨てられれば生き延びられるじゃない。帝国はそうじゃないんだもん」


 帝国には帝国の歴史があるので一概には言えないが、村が消えてしまう要因の一つは、統治単位が細かいからであり、王国ほど貴族や国王と国民の距離が近くないからだろうと彼女は思った。


「難しいよね。いつまでも内部で勢力争いして、外国からは攻められるし内部で勢力争いの種は尽きないし、皇帝は教皇が認めないとなれないからその辺りのやり取りもあるし」

「選帝侯の多くが大司教というのもあるのよね」


 七人中三人は大司教。帝国内にある大都市の支配者となっている。そして、その都市の評議会という名前の都市貴族の集団が大司教を排除し、司教領の別の場所で活動しているという場合もある。


 いうなれば、王国の王都に国王陛下が入れない状態で別の場所で統治をしているのが常態なのだという。面白いと言って良いのだろうか。


「だから、同じ王様の下でまとまって、活動できる王国がどんな国なのか興味があるのよ」

「私たちにとっては、帝国が謎ね」

「一つの地域ではあっても、同じ国じゃないってところかな。大昔は王国もそう言う時代があったんだと思うよ。今は、戦争を経て大貴族が減って国王が直接影響を及ぼせるようになっただけでね」


 帝国の冒険者・行商人がどんなことをしているのかも興味がある。特権都市、帝国都市の商人も気になる。そして、王国にはいまあまりいない傭兵団とそこに潜む吸血鬼。


「私も行ってみようかなー帝国ぅー」

「……駄目でしょう。姉さんは次期伯爵家当主なのだから。今は商会頭夫人と言う立場で活動しているけれど、王国の中だから大目に見てもらえているのだと思うわ」

「帝国の社交は余り意味がないと思うわ。ギルドメンバーかどうかで商人は扱いが変わるから、王国の商会では多分相手にされない。それに、帝国貴族は数も多いし規模も千差万別。付き合い自体があまり多くはない。宮廷をそれぞれの選帝侯あたりが持っていて、そこでの交流は要は田舎の自慢話や利害調整の場だ。余所者が参入する事もできないだろう」

「なーんだ。随分と帝国って田舎丸出しなんだね」


 姉の率直な物言いはどうかと思うが、ヴィーは「かなり当たっているわ」と言う。


「だから、商人や貴族として参加するより、傭兵・冒険者・錬金術師として関わる方が恐らく上手くいくわ」

「余所者であることが前提の職業ばかりですね」

「そう。技術者・専門家の類なら歓迎されるし、興味も持たれる。冒険者として活動しているのなら、そのまま冒険者として移動すればいいと思うわ」


 背後で姉が「お姉ちゃんも冒険者になろうかなー」という戯言が聞えたが無視をする事にした。



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