第276話-1 彼女は姉の行動にイラつく
「あー お姉ちゃんもそのピストルっていうの欲しいなぁー」
「……駄目よ。どうせ碌な事に使わないでしょう」
東門でのワイト擬き狩り、『銃兵』女子たちは連日の射撃大会で腕を上げているものの、魔力が追い付かない状況で、短い時間で討伐を終了している。
という事で、彼女も参加する事になったのだ。幸い、魔力は相当に有り余っている。そこには伯姪も同じ『ピストル』型の魔装銃で討伐に参加している。
「ピストルは普通数m程度でないと命中しないものだけどね」
「数が多いから、狙わずとも当たるというところです」
「なーるほど。お姉ちゃんも射的大会に参加して、素敵な景品もらいたい」
なにか姉が言い始めている。確かに姉の魔力量なら、いくらでも放ち続ける事は出来るだろう。
「では、私の銃を貸すことにするわ」
「いいの?」
「他の人の銃を壊されるよりましよ」
「……壊される前提なのかー」
横で姉妹のやり取りを聞いているヴィーも苦笑い。姉は「そんなことないよ!」と大きな声を出すが、彼女に今まで彼女から借りて壊した物の話を指の数程もあげつられて「しょ、しょんなに虐めないでも……」としょんぼりし始めたので、彼女としては少し溜飲が下がった気がする。
「アイネが使って壊れる程度なら、作り込みが甘かったという事で、次の製造の時の参考になる。まあ、壊せるものならやってみろ」
老土夫がそう告げると「やった!」と姉が声を上げ、途端に回復。
「姉さん、壊してみろと言ったのではないのよ。その位、きちんと作り込んでいるから普通は壊れないという意味よ」
「わかってるって。普通のマスケットと同じなのかな」
「フリントロック式のものね。で、魔力を魔石にこめてから引き金を引くの。姉さんは、魔力の込め方が雑だから慎重に。魔石がほんのり輝けば十分よ」
姉は元気よく「わかった!!」と返事をし、弾を込め狙いを定める。魔石に魔力を込め……込め……昼間なのに何だかとても輝き始めているのが分かるくらいに光始める魔石。
「ちょっと!!」
「まずいわね」
「3.2.1. ズドン!!」
並の魔装銃の数倍の炸裂音とバリンという魔水晶の砕ける音。そして、空気を切り裂くというより、空気を弾丸が押して圧縮する爆発音が鳴り響く。そして、弾丸がワイト数体を灰燼に帰すると、地面に命中……大爆発した。
「ふー 何かやり遂げた達成感があるわね」
「……何かやらかした……の間違いでしょう」
「やっぱり、凄い魔力量だね。雑だけど」
「ええ、雑なのよ」
暫く硬直していた老土夫がリブート。急いで魔装銃を確認する。
「ふむ、幸い銃身にはダメージがなさそうじゃな。魔水晶の交換だけでなんとかなりそうじゃ」
「……一番大事な部品が破損したのでは?」
老土夫曰く、魔装銃を含め銃は槍と同じような消耗品なので、価格の大小は別にして使えばある程度壊れると考えて良いのだそうだ。故に、替えの銃身や水晶を用意してあるので問題ないという。
「溜めの時間を数分の一にすることだな。魔力を込めすぎじゃ」
「そ、そうなんだ……お、怒ってない?」
「いや、リリアル銃兵にはお主のように魔力を込める者はおらんからちょど良かった」
「えへへ、褒められちゃった!!」
絶対褒めてないよ。癖毛にしても他のリリアル生にも言える事だが、魔力の操作の精密さは桁違いに優秀であるのが学院の子供たちだ。魔力を無駄に使わないことが大切だと理解しているからでもある。
「過ぎたるは猶及ばざるが如しとはよく言ったものね」
「貴方も訓練していなければこんな感じだったのかもしれないわね……歩く爆発危険物みたいな存在?」
魔法の発動すらできていないのでそんな危険性は無いわよと、彼女は伯姪の軽口に応える。
「では……」
「姉さん用に、リミッター機能のついたフリントロックの機構を付けたものを用意するから、これ以上学院の戦力を低下させるのは止めてちょうだい」
「しょ、しょんなことないよ! お姉ちゃんだって役に立ってるよ!!」
周りは、ワイトのいた場所に抉られた大きな穴(直径数m、深さも同じくらい)を見ながら「落し穴掘る時にいいかもな」と呟いている。落し穴で死ぬくらいの大きさである。熊とか大猪とか象とか落せそうな深さと大きさ。
「姉さん」
「……何かな妹ちゃん」
「気持ちだけ、有難迷惑で受け取っておくわ」
「えー」
えーじゃないわよと誰もがそう思うのであった。
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東門で一連の子爵令嬢姉妹のコントが終わった後、リリアルの騎士組も魔装銃での射撃練習という名のワイト擬き討伐を行う事になった。実際、使用する局面も想定できるからだ。
「これがあれば……」
「タラスクスも楽勝だったよね!!」
「そこは、殿下に華を持たせるから、ちょっと難しかったかも」
「……弓より……簡単……」
赤目銀髪は『狩人』としてのプライドは持っているものの、弓はあくまで道具の一つ。連射の利く弓と、装弾の手間はかかるものの威力の高い銃の組合せは、彼女の戦術選択の幅を広げる事になるかもしれない。
「ねえ、あなたも狩人なの?」
「む、お父さんが狩人だった。でも、直接習っていたわけじゃない。見て覚えたことを思い出して練習しただけ」
ヴィーは何やら赤目銀髪に関心を持ったようだ。
「じつは、私、育った村で薬師の先生とは別に狩人の『師匠』にもついて、十五歳になる少しなる前まで狩人の見習やってたの。だから、良かったら……」
「是非教えて欲しい。色々学びたい」
赤目銀髪はヴィーの申し出に即答する。珍しく破顔する赤目銀髪。
「よし、じゃあ、王国に行ったときにでも一緒に狩りしようね」
「……ありがとう……師匠……」
「『師匠』かー 私も狩人の弟子を持てるようになったのは嬉しいよ!」
王国に滞在する理由がまた一つ増えた。
「色々なことができるのですねヴィーは」
「まあ、それなりに手に職を付けないといけなかったからね。冒険者になってそれが大いに役に立ったから、今となっては素敵な思い出ばかり残っているよ……」
そして小さな声で「例え育った村を追い出されたとしてもね」と付け加えた。
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