第267話-2 彼女は東門の問題に取り組む

 翌朝、リリアル学院生は東門のアンデッド・ナイトを魔装銃で討伐する作戦を開始する事になる。


 東門の城門塔Gatehouseには、白骨の発光する騎士や兵士が集結し、塔を攻撃したり、這い登ろうとするのが見て取れる。また、堡塁によじ登るアンデッド・ポーンたちを騎士が突き落とし続ける様子が見て取れた。


「昨日の夜、結構退治しましたよ」


 遅番であった青目蒼髪が魔銀グレイブを片手に胸を張る。よじ登るアンデッドの頭に魔銀の武器を叩き込めば、大概討伐されてしまうからだ。


「壁をよじ登る姿が虫っぽい」

「でも、光ってるからバレバレだよねあいつら」


 赤目銀髪と赤目蒼髪も疲れの色を見せることなく、平常運転なのは何よりだと彼女は思っていた。





 射撃の班を二つに分け、それを護衛する部隊も二つに分けることにする。


 伯姪と赤毛娘、赤目蒼髪と青目蒼髪、黒目黒髪と歩人に魔力小の三人をつける『メイ班』。彼女と茶目栗毛、赤目銀髪に藍目水髪、そして二人の薬師娘を加えた『アリー班』は、魔装銃が一人不足する分、赤目銀髪の弓でフォローすることを考えている。


 堡塁の上に城門塔の左右に展開したそれぞれの班は、『銃兵』を前に出し、こちらに向かう様子を見せるアンデッドたちに狙いを定める。


「精々50mくらいの有効射程よね?」

「頭をピンポイントで狙うとするとその半分くらいではないかしら」


 丸い弾丸は真っすぐ飛ばないことが少なくない。彼女の魔力を込めた魔弾故に、その辺りの抵抗による弾丸の逸れは多少緩和しているものの、近いに越した事はない。


「では、皆さんの力、見せて頂きましょう」

「「「「はい!!」」」」


 五人はそれぞれ銃をたって構える。顔の右半分は火薬を使わないとは言え、魔水晶同士の反応で熱を発するので、魔銀製のフェイスガードを装着し顔を護っている。


「良いかなみんな!」

「準備出来ました」

「何時でもどうぞ」


 それぞれが準備完了の声を上げる。指揮役の碧目栗毛が発射の合図をする。


「では……放て!!」


 火薬の爆発音よりは軽い「パン」という弾けるような音が五連続して聞え、堡塁の前に迫る五体のワイト擬きの頭が爆発するかのように砕け散る。


「やったぁ!!」

「けっこうすごい……」

「一発の威力は俺らより上かもしれねぇな」


 聖魔弾の効果に、赤毛娘は素直に喜び、赤目銀髪は己の鏃と比較し遜色ないと確信したようだ。青目蒼髪は「俺も欲しいかも……」と呟く声がその後聞こえる。


「この後、再装填するまでの敵の接近を防ぐのは任せたわよ!」

「「「「おう!!!」」」」


 火薬を突き固める手間がない分、再装填はかなり早い。火縄銃では銃身の過熱の問題もあるので一分間に二発程度とされているが、魔装銃では五から十秒程度だ。弾を入れなおすだけだから早い。


「二発目、撃て!!」


 パンと乾いた音が聞え、手が届くような目の前のワイトの頭が再び五つ弾け飛ぶ。今までは実際切り結んでの討伐がほとんどであり、魔力で身体強化をする事が必須であった。その為魔力量の少ない子達には討伐に参加する事を極力避けさせていた。


『魔装銃』の銃兵としてであれば、彼女たちの居場所は新しく出来ることになる。魔力量は少なくても、銃を放つには問題ないからだ。少しでもあれば魔水晶の反応を引き起こすことが出来る。それで十分だからだ。


 五人は顔を紅潮させながら、誇らしげに次々と弾丸を放ちワイト擬きを討伐していく。これまでは、聞くだけ、自慢されるだけであった討伐を今日は自らを主役として行っているのだ。


「なんだか、楽しそうね」

「これが、アンデッドに包囲されていなければね」


 まるで、祭りの射的ゲームのようにパンパンと頭を跳ね飛ばし浄化を行う少女たちを、ミアンの市民兵や騎士学校の貴族出身の従騎士達は目を丸くして見ているのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 三十分ほどで二百ほどアンデッド・ナイト&ポーンを討伐したリリアル銃兵は射程距離内に的となるアンデッドが近寄ってこなくなったという事と、銃兵を務めた五人の魔力がかなり乏しくなったため、一旦休止することになった。


「お疲れ様。銃手の皆さんは宿舎に戻って休憩してちょうだい」

「「「「はい!!」」」」

「私の弓は、まだまだ健在」

「一人だけやるのは却下だよ。回避されちゃうじゃん」

「……むぅ……」


 五丁の銃も五十発の連続発射の後のコンディション確認のために、一旦、老土夫と癖毛が状態確認を行う必要もある。実戦と学院での試射では損耗度合いに変化があるかも知れない。


「銃は、魔力があればだれでも……というわけではなさそうね」

「おうさ。あの子達の薬師としての魔力遣いの積み重ねが生きておる。身体強化とは違う、微細な物に対しての魔力付与に近いからの。ポーション作りが生きておる」


 少ない魔力で効率よくポーションを作るために身に着けた魔力の操作能力が、魔装銃の銃手としての技量に反映されているというのだ。


「距離は弓より近いけれど、パンパンとよく一撃で浄化するわよね」

「聖女の魔力注入済弾だからの。後は、とっておきも用意してあるが……」

「隼鷹砲の魔装弾丸でしょう。もう少し密集しないと、効果が出ませんね」


 数が多少減った事もあるが、城門塔前に集まっていたワイト擬きたちが、外郭に広範に存在するようになり、大砲の弾で一気に吹き飛ばせるような配置ではなくなっている。


「でもさ、近寄ってこないなら、暫く安全だからそれはそれで悪くないと思うわよ」

「それもそうね……少しリラックスしましょうか」


 伯姪の「近寄ってくるまで休憩!!」宣言により、一足早く昼食を取ることにした。東門はリリアル学院が到着したことで、市民兵たちは半舷休息することになった。一先ず、危機は脱したという事であろうかと彼女はいい方に解釈することにした。

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