第267話-1 彼女は東門の問題に取り組む

 増援の到着に大いに盛り上がったミアン市民たちだが、その集団が僅か十数人の少年少女(見た目)であることを知り、その盛り上がりは一気にトーンダウンする。


 しかしながら、実際に西門で一団となって僅か十人のメンバーが千を超えるスケルトンの集団の中に分け入り、何事もないかのように突き進み最後には修道院に潜伏するワイト擬き数十体をほぼ無傷で討伐し帰還したことをその目で見た市民兵の間では……


――― リリアルの騎士 パねぇ!!


 という評価をもたらすに至っていた。


「あの猪どうするの?」

「修道院に一先ず待機ね。再占領されるのも困るし」

「それでいいのか……」

「それで良いみたいよ」


 餌は近くの森で何か得るらしい。スケルトンも魔猪に敢えて近づくものもいないので、西側に関しては状況がクリアになったと言えるだろう。


 南と北はこれまで通りスケルトン討伐を行い、西門は監視の兵士を残したうえで今日一日は休息とし、明日から南北の門に配置し交代で南北の兵士を休ませる事にする。


 問題は……東門だ。





 西門討伐に参加した以外に、癖毛と老土夫、薬師娘二人、碧目栗毛、碧目赤毛、灰目赤毛が加わっていた。


「院長、無事で何よりじゃ」

「応援に来ていただきありがとうございます」


 老土夫は「なに、試作品の実験じゃよ」と聖魔装の武具の効果検証、それに、魔装銃と聖魔弾を実際効果を目で見たいと同行したのだという。


 薬師娘と三人の魔力小女子は銃手として連れてきたのだという。


「良い射撃場が東側にあると聞いての。楽しみじゃて」


 確かに、にじり寄るワイト擬きの頭に、聖魔弾が命中すれば簡単に浄化に繋がる可能性はある。聖魔弾の生成に使う魔力はそれほど多くはないので、『石壁』を作るよりは心おきなく作れる。


「まあ、近寄らなくなってからが問題じゃな」


 スケルトンと異なり、ワイト擬きは思考力が備わっている。ある程度攻撃を受ければ距離を取るだろう。そうなると、射程距離まで近づく方法を考えなければならなくなる。


「色々今考えても仕方がない。それに、近寄らさなければ増援がさらに来るじゃろ? お前さんたちだけで問題を解決する必要はないのじゃ」


 確かに。彼女たちだけでどうにかする必要はない。魔導騎士に王都を進発する王国の聖騎士・魔騎士や冒険者もいるのだ。


「押し込まれて削られて消耗して陥落せずに済むと思えば、守る方に余裕が生まれる。時はワシ等の味方じゃよ」

「はい……その通りですね……」


 珍しく、彼女は人に元気づけてもらえた気がした。リリアル学院と共にある限り、彼女は決して孤独にならずに済むのである。


『こいつらと一緒にいれば、俺の役割も無いのかもな』


『魔剣』が呟くが「そうではないでしょ、大魔導士様」と珍しく彼女は『魔剣』を揶揄うのである。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★




 西門が解放されたというニュースと、リリアルの騎士達がそれを成し遂げたという情報はミアンの城内を席巻したが、実際、四方の守りを確認する為、彼女に引率され城壁と堡塁を巡ったメンバーを見て、全員が少年少女(見た目)であることに驚き、さらには、その全員が魔力持ちであることに二度驚かれる。


「皆、ひさしいな……ですわ!」

「あ、美人の公爵令嬢さんこんばんは!!」

「お、おう!」


 赤毛娘のストレートな物言いに少々たじろぐカトリナ。何しろ、ワイト擬き討伐でテンション滅茶苦茶上がっている。あれだ、眠くなった子供がハイテンションになるのに近い。つまり、もうすぐお眠の時間だ。


「聞いたぞ、すっかり西門の討伐が終了したそうではないか」

「ええ、みんなのお陰でね」


 笑顔のリリアル生、どこか誇らしそうである。いつも一緒に討伐している彼女を救援する側に回ったからだろう。


「明日には魔導騎士も到着するだろうし、東門さえ死守すればなんとかなりそうだな」

「予断は許さない状況だけれど、希望は見えてきたわね」


 そう、「希望が見えてきた」程度の変化だ。百のワイトなら何とかなる気もするが、千のワイトなど、世界中の聖騎士・調伏司祭を集めても困難な相手だろう。悪霊千体の討伐など、聞いたこともない。


「死霊術師を捕まえれば……って今更無理よね」


 伯姪の呟きの通りである。初動で抑えられなかったのであれば、術は発動してしまっているのだから、解呪も討伐も労力に大差はないだろう。


「学院長、その為にこの子らを連れて来たんじゃよ」


 話に珍しく自分から入ってくる老土夫に、彼女は少々驚く。老土夫曰く、「魔装銃の練習はバッチリ」だそうで、「聖魔弾も十分に用意してある」と言うのだ。残念ながら、夜間の討伐は魔力量の少ない彼女たちでは暗視も出来ない為、明日以降に、実際やって見せるという。


「期待させていただいてよろしいのかしら?」

「あの子らは、自分たちの能力をきちんと理解して、十二分に努力を積みあげてきよった。ビル・フッドも真っ青な腕前じゃ」


『ビル・フッド』とは、王国のおとぎ話に出て来る義賊のことで、得意な武器は長弓による狙撃である。覆面義賊ビルは、税金をピンハネして私腹を肥やす代官から金を取り戻し、貧乏人に配るという行為をするのだが……


「あれって、結局再徴収されて民が余計に苦しむのよね。ナンセンスだわ」

『お前、夢がねぇな……』


 という、ご都合主義全開のお話なのである。


 老土夫は、今回連れてきた二人の薬師娘、三人の魔力小の学院生に魔装銃の扱いを手ほどきし、五人はその武器を生かすために遠征に加わった……ということなのである。


「いいじゃない、いっつも馭者とか手伝い仕事ばっかりだったんだから、今回は第一線であの骸骨野郎どもをぶちのめしてもらおうじゃない。主役よ!主役!!」


 魔力量では散々苦労してきた伯姪は、魔力の少ない子達にかなり感情移入することが多い。今回は『銃』を用いるという事で、更にテンションが上がる。


「お前さんたちも、短銃の御試しを頼むぞ」

「任せておいて。明日から、ガンガンやるわよ」

「弾は一発しか出ないのだから、忙しくなるわよ」

「わかってるわ。一発で、あのワイト擬きの頭を吹き飛ばしてやるわ!!」


 増援の来る西門の掃討が一段落し、戦いの主導権はこちらに移行しつつある。


「リリアルの騎士は、東門に交代で詰めるようにしてもらいましょう。二班に別れて、真夜中で交代することにしましょう」

「「「「はい!」」」」


 彼女と伯姪は、リリアル生に任せて久しぶりに熟睡させてもらう事にした。明日から、一段と大変そうであるからだ。

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