第266話-1 彼女はリリアル生と西門の魔物を殲滅する
三台の馬車を収容した時点で、再び西門は閉ざされた。
「一安心ね」
「この猪、どうしようかしら」
『気になさるな院長殿。我は主に従い、この骨どもを踏みつぶすのみである』
「「……」」
随分と流暢に話をするようになったものだと彼女は感心する。もしかして、ゴブリンみたいに人間の脳を食べて能力吸収したのだろうかと一瞬疑うが、『魔猪』が『民との語らいで身につけた物。決してやましい事はない』と機先を制して反論した。
「確かに『聖性』があるのね……」
「何だか、黒い毛が青光りしていて強そうね」
『強そうではなく……強いのだ。民を護るために、我は強くならねばならぬ。そう主に教えていただいた!!』
癖毛、色々信じ込ませすぎだろ……
そして、背後にはリリアル生たちが集まってくる。黒目黒髪、赤毛娘、茶目栗毛、赤目銀髪、赤目蒼髪、青目蒼髪……そして藍目水髪と歩人。
「しぇ、しぇんせい! わ、私頑張ります!!」
魔装のフレイルを片手に、胸の前で拳を握る藍目水髪。まあ、スケルトン相手にならグールほど危険はない。とは言え……
「セバスは彼女のフォローを」
「おう」
「前方の修道院まで前進します。各自、必ずバディを組んで背後を護り合うこと。集団でこのスケルトンの群れを突破して、背後にいるワイト擬きを討伐するまでが今日の仕事です」
「「「「「はい!!」」」」
伯姪と赤毛娘、赤目蒼髪と青目蒼髪、歩人と藍目水髪、黒目黒髪と赤目銀髪、そして彼女と茶目栗毛。五角形の形に展開し、魔力の多いメンバーで魔力壁を形成。その中から安全に攻撃しつつ移動を行う。
「猪はどうするんですか?」
「虱潰しにスケルトンを踏みつぶしてもらうわ」
特に指示を出さずとも、うろつくだけでかなりの数のスケルトンが消滅していくのは嬉しい誤算だ。
修道院までは凡そ500m、街道を突き進むだけだ。
魔力壁、彼女の展開する面を前面に持ってくると、とても簡単にスケルトン・ラッセル出来ることが判明した。とは言え、通過すれば背後から取り囲もうとスケルトンが集まって来るので、聖魔装のメイスで次々と殴り浄化していく。これは、魔力の少ない側のペアの仕事でもある。
「これ、何体ぐらい倒せるのでしょうか?」
「今回は実戦テストを兼ねていると思って、数えてみてちょうだい」
茶目栗毛は彼女が展開する壁の端からスケルトンを殴打し、浄化していく。五体十体では魔力の減少はさほどでもないようである。もしくは……
「これ、使う傍から先生の魔力を吸収しているみたいです」
「ああ、だから全然魔力切れしないんだこの聖魔装」
赤毛娘が大きな声で同意する。今までの実験では、精々スケルトンなら二十、グールでその半分、吸血鬼なら……一二度で魔力を喪失し『聖』なる魔力が使えなくなっていたのだという。
「途中でスケルトン相手に実験した時は多くて二十体くらいで効果が無くなりましたから、覚悟していたんですけど」
「まさかのエンドレス!!」
今日も赤毛娘は元気いっぱいである。姉がいなければ、そこまでおかしなテンションにはならないのだが。
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スケルトンの半数ほどは討伐できたであろうか、スケルトンの『海』がスケルトンの『池』もしくは『沼』程度にまで減少してきている。残りの数は千を切ったのだと思われる。
「みな、魔力は問題なさそうかしら」
「ポーション飲んで生き延びます!」
魔力ポーションを一日何度も飲めるものではない。回復する量は逓減していくからである。魔力を無理やり体に取り込ませるので負担も大きい。
「そろそろ、ワイト擬きが出て来るわ。スケルトンの集団を抜けたら、修道院まで一気に走りましょう。その上で、ワイトには聖魔装で頭部を破壊してケリをつけることにします」
「「「はい!」」」
ワイト擬きとは言え、頭を聖なる魔力を有したメイスで叩き割られれば浄化されてしまうのは間違いない。
「で、二人一組、一人が抑えて、一人がメイスで頭をかち割る簡単なお仕事よ。数は四十だから、一組六体も討伐すればいいから、楽勝よ」
「いやいや、俺とこの娘とか数合わせだから。もう少し他は倒してくれよ」
「そ、そ、そ、んなことないです!! わ、私も同じ数だけ倒してみせます!」
「お、おう。まあ、無理すんな」
歩人は気を遣ったつもりだろうが、藍目水髪は皆と並んで戦えるのが段々楽しくなって来たらしく、今ではまるで『水毛娘』のようなテンションだ。水毛ってなんだよ。
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